2018/9/27

僕らは揺れているだろう  













僕らは、揺れているだろう
冷めた血を滴らせながら
僕らは揺れているだろう

なにも見えない世界や
なにも聞こえない世界
そんな世界のことを
恐れ、そしてどこかで憧れもしながら

ひとりぼっちでいると
孤独は居心地がいい
タチの悪い孤独は
望まない集団の中で喉笛を噛みにくる
その牙は暗く
傷口はたちまちに腐敗して使いものにならなくなる

しんとした場所で綴るものはどこか遺書に似ている

昨日からの曇天が割れて、今日初めての太陽が寝坊を詫びるように急ぎ足で現れる、それは僕に
この世に生まれてきた瞬間のことを思い出させようとする

さっきから電線の上で
こちらを見つめているカラスがいる
僕は彼が歩み寄ってくるのを待っているが
彼ももしかしたらそうなのかもしれない
でも僕は彼のように電線に止まることは出来ない
フェアじゃない遠慮
でも彼にしてみれば
僕は彼を殺すかもしれない生きものなのた

僕らは揺れているだろう
夏と秋のどっちつかずの中で
僕らは揺れているだろう
汗ばんだ衣服にいらいらしながら

たくさんの言葉を過去に捨ててきた
届きましたか
聞こえましたか
僕が話そうとしていたことが
僕が話そうとしなかったことが
どれほどの趣向を凝らしても現在しかありえないから
人気のないところでいつも
いつだってなにかが至らないようなそんな気がしてる
手紙を送ったあとで
それは間違いだったかもしれないと考えるみたいに

今朝はまだ食事をしていない
まだ食べたいという気にならない
もう少ししたら義務的に
簡単なものを食べるかもしれない
僕らは食欲さえ、もう本能に基づいてはいない

僕らは揺れているだろう
揺るぎない小さな世界の中で
僕らは揺れているだろう
白濁した白目をさらしながら
僕らは、揺れているだろう

川面は光を受けて
ガラス屑のように輝いている
流れているものはいつだって
美しくあることが出来る
幼いころから夢見ていた様々な未来の行く先は
実は
そんなものだったのかもしれない、などと
適当な悟りを鼻で笑った

僕らは揺れていて、そして
生きているフリをしている
空っぽの日記を読まれることが怖くて
ぎっしりと書き込んであるように見せている
詩人がやたらと喋りたがるのはきっとそのせいだ

明日どこかでばったり会えたらいいね
確実に会えるとわかっていたら
僕は家を出ることはないけど
約束は心を重くするから
僕のことなんか忘れたみたいにしてくれているとありがたいよ

僕らは揺れている
繋いだ手の感触を不快に思いながら
僕らは揺れている
おためごかしのたびに
口が歪んでいくのを感じながら
僕らは揺れている
ただただ自分を愛しながら
そしてどうしようもなく憎悪しながら

いつかその意味がわかるとき
誰を愛するべきかわかるだろう
いつかその意味がわかるとき
誰を殺せばいいのかわかるだろう
どこの誰の世界にだってきっとそいつしかいないのに
僕らはずっと知り合いみたいな顔をして生きている









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2018/9/24

モメンタリ・モーニング  










乾いて荒れた
まぶたが開いて
かすれた小さな
産声が午前を揺らす
きみは何度目かの
救済と絶望のなかで
目に見える世界は
たしかなものではないと知る


クローゼットのなかの
忘れ去られたキャンパスノート
それがきみのクロージャだった
意味をなくした封印は
廃止された線路に佇む駅のようだ


アラームは運命を告げるわけじゃない
それは自分の手で如何様にも変えられるじゃないか
たとえばこんな日に
きみの意識をうまく目覚めさせてくれないものや
きみの神経へと繋がるゲートをどうしたって開けてくれない門番
頼みもしないのに訪ねてくる連中
きみをとどめておこうとする連中…
運命と名付けるならそんなものの方がちょうどいい


窓ガラスは
丈夫で
外界の音をきっちりと遮断してくれる
でもその材質のせいなのか
いつでも少し曇っていて
どうしても落とせない汚れが付着しているみたいに感じる
(もう一度眠ることが出来たら)
そう考えるのは今朝に始まったことじゃない


目覚めなければならない朝が次第に
明るさを増してくるにつれて
きみの血は静かな暴動を起こし始める
凶器を手にした血小板が
きみの血管や循環器に
擦り傷をたっぷりと刻んでいる音が聞こえる
きみはもう耳を塞いだりしない
そうすると余計に聞こえてしまう
きみは天井を見つめ
偽の死期のようだと感じながら
たくさんのライトを隠して
白く発光するアクリルの天井を見ている


夢の内容はぐちゃぐちゃだった
出来事が散乱していて
感情はひとつもなかった
登場人物もみんなちぐはぐなことばかり言って
真意を確かめようとしているあいだにどこかへ消えてしまった
夢のなかできみは
それがどんな内容の夢でも
最後は決まってそこにしかない街の大通りの真ん中でひとり取り残される
シグナルの点滅が
目覚める前に覚えている景色


誰も居ない世界で破られる秩序は罪だろうか
目覚めるといつもそんなことを考える
あのシグナルに逆らったり
その先にあるコンビニエンスストアに潜り込んで
金を払わずにいろいろなものを持って
出てくることは罪だろうか
秩序とは
ひとりでは成り立たないものだろうか?
それを設定するものはいったいどんな世界を
求めてそうしたのだろうか?


(ようするに秩序がなければ
だれかがすぐにふざけた真似をしてしまうのだ)
秩序や規則を
美徳だと語るものも居る
でもきみに言わせれば
秩序が設定された時点で人間というのは駄目ないきものなのだ


きみは小さなころから
時計というものを信じなかった
刻まれる時間というものを
まったく信用しなかった
朝と昼と夜だって
なければないでいいと考えていた
それはだれかの都合のために設定されたものであって
きみの世界とはまるで関係のないものだって


ある意味で
便宜的な世界がきみとは関係のないものになってしまったけれど
きみはそのことには気づかなかった
きみが居るのならばきみの世界というものがかならず存在するのだし
そんな線引きにこだわるのは馬鹿げたことだって思っていた
きみはあまり眠らなくなった
きみはあまり食べなくなった
きみはあまり喋らなくなって
きみはきみを信じなくなった


今夜は夢を見るだろうか
あの夢のなかで
きみは
なにかちがう出来事を起こしてみたいと考えるばかり










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2018/9/20

ジェニーは夕暮れのあとで  







時に覆い隠されたギヤマンが灰の底の火種のような声で歌をうたっているころ、脱皮した蛇の皮のような感情でジェニーは横たわっていた、道端で調子のいい男から買ったドラッグはひどいシロモノでトリップというよりはトラップに近かった、いくらなんでもこれはあんまりだわ、とジェニーは吐き疲れた身体が回復するのをそうしてもう二時間は待っていた、涙と鼻水と涎と吐瀉物の欠片で顔中汚れていることは判っていたけれどそれをきれいに掃除するにはもう少し楽にならないと無理だった、すこしでも頭を動かすとソフトビニール製のボールが頭蓋骨の中で跳ねているみたいに目が回った、もうこんなことやめよう、そう思うのもいったい何度目だろう?やめられるわけはなかった、そう思ってきちんとやめられるくらいなら家族や友人、恋人その他もろもろの知人たち―に、愛想をつかされるまえになんとかなっていただろう、心身ともにジェニーはこれ以上ないほどにボロボロになっていたが、悲しいことに彼女だけがそのことに気づけないでいた、まだどこかでやり直せるだろう、こんなことにはいつか飽きてそれ以前の生活に戻ることが出来るだろう、ジェニーはそんなふうに考えていた、まるで列車で降りる駅を間違えてしまって、お昼ご飯を食べてから修正しようと考えているみたいに…もう半年ほど生理すら止まっているというのに―現実でもジェニーはそんなこと上手く出来なかった、なにをやってもどこかにミスがある、そんな人間だった、いまでは、静脈を見つけることは上手に出来るけれど―夜までには回復するだろうか、と天井を見上げながらジェニーは考えた、顔馴染みの売人に少しサービスをして、上物を分けてもらうことになっている、すこし頭を動かしてみる、駄目だ―欲をかかずに夜まで大人しくしてればよかったんだ、あんな、いかにも人を騙してばかりいるような顔をしたいけ好かないパンク崩れから、なにで出来ているのかもよく判らないようなものを買うなんて!いまになって考えればそう思う、だけどあの時には、もうそんな風には考えられなかったんだ、あのカネを使わなければ、今夜はサービスなんてしなくてもよかったのに…ジェニーに指先は売人たちの間で大変な人気があった、いや、伝説と化していた―ジェニーの指先のお世話になれるのなら、ヤクなんかタダで渡してやる、そう言ってくれるものは何人も居た、初めてそれを体験した売人など、感動のあまりその日持っていた商売道具を全部渡してくれた、ジェニーはそれをありがたく受け取って、帰り道で出会った売人に結構な額で売り、そのあとでたまたま出会った売人の持っていた上物を買った―そう、あたしは自分のテクニックに感謝しなければいけない、自分みたいな貧乏人がこれまで何度も上物にありついてこれたのは、まさしくそれがあったおかげなのだから…窓の外には夕暮れが迫っていたけれど、ジェニーは一向に頭を起こすことが出来なかった、元気なミイラのようにそこに横たわっていた、いろいろなことを考えて気持ちは急いたけれど、身体を起こせないのではどうしようもなかった、今夜約束の場所に行かなければあの男はもうわたしにヤクをくれなくなるかもしれない、売人は約束に厳しい、危険を冒してやってくるのだもの…どうにかして起き上がることは出来ないだろうか?試してみたけどやっぱり無理だった、とんでもない眩暈―寝返りを打つのにも億劫なほどだった、大丈夫なのだろうか、とジェニーは思った、あのなんだか判らないヤクのせいでこのまま死ぬなんてことにはならないだろうか…そこにはほんのすこし恐怖があった、そのことを考えると怖くて仕方がなかった、なのでまるで違うことを考えることにした、でもどんなことを考えるといいだろう?こんなクソみたいなクスリのことを気にしないで、回復するまでじっとしていられるようななにか―クスリ―ジェニーは医療ミスで余計なクスリを投与されて死んだ自分の叔父のことを思い出した、そうだ、あれは―確か私が三年生のときだったわ、ママが学校までやって来て、先生に訳を話して、私のことを連れ帰って葬式に連れて行ったのだ―叔父についてジェニーはほとんどなにも知らなかった、ただ戦争に行っていたという話をちらっと聞いたことがある程度だった、そうだ、いちどだけふたりで遊んだことがあった、もっともジェニーがすごく小さいころの話で、古い写真をスライドでスクリーンに映し出しているような、いくつかのスナップみたいな光景があるだけだった、叔父さんの死体をちゃんと見ることは出来なかった、奇妙な肌の色をしていたからだ―そう思いながらジェニーは右手で顔に垂れてきた前髪を横へ垂らす―そうよ、あれはこんな色をしていたわ。














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