2019/8/29

いつだってそれは過去形で語られるものだろう  


















望遠鏡の死骸
市街地に散乱
錯乱する警官
痙攣的発砲
こめかみを貫かれた売女は
突っ伏して死後硬直

うす汚れた銅像の見る夢
ハイウェイバスの疲労
ミルキーウェイの素っ気なさ
喀血を売りにする患者が
五階の窓から病原菌を撒き散らす
枯木に花を咲かせましょう
ここから掘れ

グラミー賞の後ろに隠れる
残虐な殺傷事件
キッチンペーパーに包まれていたのは
うんざりするほどのヴァギナ
ポリスが流れていた
スティングは好きじゃなかった

マネキンを生首にして並べるのが好きな十六のアミは
とうとうマネキンじゃ我慢出来なくなって
隣町で赤ん坊をさらってきて…
ひとつだけ確かなことは
彼女はもう母親になることは出来ない

アスファルトに残った血痕を
アクリルガラスについた傷を
あのベントレーのフロントが激しく損傷していることを
誰が知るだろう
あの家の勝手口のスライド錠が壊されていて
ひとり暮らしの老婆が頭蓋骨を砕かれて死んでいることを
世界はニュースペーパーなんかじゃない
それはいつも目に届かないところで動いている

バン、バン、バン、バルコニーに座って


想像上のライフルをぶっ放す
急所に当てる銃口がないから
俺は世迷言を綴り始めた
下らない見栄と
下らない取り合いの中で
肩をすくめて
お手上げのゼスチャーをして
バン、バン、バン、射出速度は如何かな
まだ錆びついちゃいないつもりだけど

忘れられた文学
忘れられた音楽
だけどそれはいまでも俺を生かしてくれる確かなものだ
ウッドストックなんてもう名前だけになっちまったけど
ただただうたわれる歌のことを俺は追いかけている
スノップな真似は時代遅れさ
完全な腑抜けになる前に
もう一度貪欲に求めてみるべきだぜ

灯りの消えた部屋の中で
ずっと眠れずにいると
棺の中で生きている気分になる
おお、蓋を開けてくれ
釘を打ち付けたのは誰だい
たったひとりきりの俺の部屋の中で
俺は目を見開く
暗闇の中に走る光は
直視出来ないほどに眩しいものだ

自分自身を愚弄しながら
人殺しよりはマシって程度の人生を
ウンザリしながら
唾を吐きながら
腐敗した曲がり角に鼻をつまみながら歩く
まだ酒が抜けない連中が
電柱にしゃがみ込んでる
やつらが身体から追い出した昨日を
チャップリンみたいに歩く鳩どもが啄んでいる

仕事のあとの指紋認証は
なかなか俺だと認めてもらえない
世の中はよく出来てる
いつだって誰かがなにかを教えてくれている
長いシャワーですべてを洗い流すまで
抱え込んだものは離れてはくれない
ナーヴァスなほど石鹸やシャンプーを使うようになった
そうしないと誰かに馬鹿にされる気がして

休日にラジオから流れるアルペジオは
輪廻について語っているような気がする
もしもそれが本当にあるのなら
俺は次の人生も俺として生まれてきたい
そう思わなくなったとき
きっと俺の今生は終わるのだろう
洗濯物を干しながら
物干竿にもたれて川の対岸を眺めていた
空は曇り気味で
天気予報は翌日からの雨について話していた

無駄なことを考えるのはやめようぜ
人生なんてハナからなんにもないものだ
好きに色を付けていけばいいのさ
それがなんだったかなんて後から考えればいい
生きているうちは永遠を信じる
嘘つきみたいな言いかただけど
もともと褒められた人間でもないさ

救急車のサイレンがじめついた街にこだましている
見知らぬ誰かの死も、親の死も友の死も
テレビに出てる誰かの死だって
俺の目に耳にとまるならそれは俺の死なのさ
俺が死ぬとき、俺は
俺の死を見るだろうか
コミカルな調子でふわふわと中空に浮かんで
俺の死を悲しむやつらを眺めているだろうか
出来れば大変な思いなんかしないでくたばりたいものだが
いつだって望み通りにことは運ばないものだ

気がつけば夏が終わろうとしている
蝉の声は
消えかけた入道雲を追いかけてゆくようだ






0

2019/8/22

赤く渇いたシュルレアリスム  












真っ白い壁に毛細血管のような亀裂が植物の成長を早回しで映すフィルムを思わせる速度で広がっていく、それを夢と呼ぶことはもうやめた、どんな名前をつけたって、それが俺の眼前で起こっていることには間違いがないのだ、感覚を小理屈で押さえつけるようになったらそれは人間としてはおしまいというものだろう、だから俺は抗うことなく、目の前で起こることに個人的見解を持つことなく、不意打ちの豪雨をどこかの軒下で眺めるみたいにただ見ていた、ひとつのルートが広がりきると僅かな隙間から新しい亀裂が生まれまた四方八方へと広がってゆくのだった、これは表面だけのものなのだろうか、と俺はぼんやりと考えた、その素早さは、その身軽さは、たとえば塗装なり壁紙なりを引き剥がそうとして生まれたものだと考えるのが妥当だと思えた、けれど、唯一そんな身軽さを感じさせない軋みが振動となって俺の腰のあたりにまで響いていた、これは間違いなくこの壁のすべてで進行している破壊だ、そう確信せざるを得なかった、それなら、と俺は考えた、これほどのダメージを受けておきながら、なぜこの壁は崩れることなくこうして立ったままでいるのだろうか?何か騙されているような気分だった、とっくに粉微塵になっていてもおかしくないほどあらゆる方向に亀裂は走っているのに、まるでこの壁が壁であることにそんな亀裂はまるで関係がないのではないかと感じさせるほどの堅牢さを感じさせた―でもそんなことが起こり得るだろうか?あるいは、そんな構造を備えた壁などこの世界に存在しているだろうか?結局のところそれは俺には受け入れられないのだろう代物だった、根本的に違うのだ、と俺は無理やり自分を納得させ、壁の前に胡坐をかいた、もう頭を空っぽにして、なにが起こるのかを最後まで見届けるつもりだった、俺がそんな逡巡を繰り返している間にも、亀裂は走り続けたし、壁は壁であり続けた、俺はそのどれに注意を払うでもなく、ただただ終わりだけを待っていた、長編小説のように最後のページまで読み続けたならすべてははっきりするかもしれない、だけど現実は小説のように厳しくも優しくもない、現実とは一言でいえば、なにもない一本道を歩き続けているだけの映画みたいなものだった、ただ太陽と月が入れ替わり、季節が入れ替わり、それとともに歳を取るだけだった。もしもこの壁が壊れもせずただ自分に亀裂を走らせ続けるだけだというのならその意味は理解出来ないが現象としては馴染み深いものだった、単調さは生き続けるためのポテンシャルだというわけだ…俺はそう考えながらしばらく亀裂が走るのを目で追っていたが、ふいに手を伸ばしてその壁に触れてみた、すると…その瞬間に亀裂は走るのを止め、一瞬時間までが停止したかのような錯覚が訪れた、それから、亀裂を覆うように赤いものが染み出してきた、信じられないことだがそれは確かに血液だった―始めは瘡蓋を剥いだ後に滲むようにうっすらとしたものだったが、やがてダラダラと溢れ出し、壁を覆うように流れ落ちて、床を染めた、床で広がり、俺の足に、尻にまとわりついたその血からは、体温のような温かさまで感じられた、俺は目を見開き、それがどういうものなのか見極めようとしたが、無駄だった、そんなことわかるわけがない、血を流し続ける壁、それは亀裂以上に執拗に続きそうに思えた、けれど不思議にそこを立ち去る気にはなれず、俺はただ座って流れる血を見つめ続けた、それがどのくらい続いたのだろうか?五分だった気もするし、一時間だったような気もする、血は最後にミストのように吹き出し、俺の全身をうっすらと染めた、まるで残虐な殺人鬼のような有様で俺は次の展開を待っていた、そこにある壁はそれ以上どんなアクションも起こさなかった、死だ、と俺は思った、いまこの壁は俺の目の前で死を迎えたのだ…俺は立ち上がり、壁に向かって拳を打ち付けた、数回で皮膚は切れ、今度は俺の拳が血を流し始めた、大量に流れた血の跡に俺の血が上書きされ、その模様はどこかポップな印象すら与えた、壊さなければならない、俺はそう感じていた、両手が使い物にならなくなると蹴り飛ばした、脚は拳のように傷つきはしなかったが、次第に関節が衝撃を受け止められなくなってきた、ふう、と俺はまた床に胡坐をかいた、そして、素知らぬ顔で突っ立っている壁と再び黙って向かい合った、死んだのだろうか?本当に―?次第にそんな考えが浮かび上がってきた、あれはもしかしたら生き永らえるための策なのかもしれない、毒を飲めば吐き出そうとする、そんな習性のようなものなのかもしれない、習性―習性か、俺は笑い出した、習性か、壁のくせに…答える声はなかったし、咎めるものもなかった、ただ壁はそこに在って、俺は笑い続けていた。






0

2019/8/15

You Can't Always Get What You Want  




















果てしない豪雨のさなか、悲鳴を聞いた気がした
たぶん現実のものではないのだろう、けれど
おれは街路で耳をそばだてる、かなり昔、こんな歌があったなと
そう、思いながら
今日のすべてが粘ついた汗となって
全身に絡みついてる
MP3プレイヤーに注ぎ込んだブルースは底をついた
不思議なほど人は居らず
数件のバー以外の店はすべてシャッターを下ろした
ゴースト・タウンのような繁華街で
買い残したことがあるみたいに彷徨っている

住所を間違えた手紙は奇跡的に届いた
内容はあまり
ありがたいものではなかったけれど
それについていくつかしなければいけないことがあったはずだけど
手紙をどこへやったのか忘れてしまって
記憶の上には日常が積み上げられている

たぶん営業時にはテントの端かなにかを結び付けるのだろう
商店の前に置きざられたブロックに腰を下ろす
雨が降り続いている、悲鳴は二度と聞こえてはこなかった
携帯に保存された古いメールを読み返す
いまでは途切れた連中のものばかり選んで
あいつらがどんな気持ちでこれを書いたのかと
おれはいくらかでもそれをきちんと読み取ることが出来ていたのかと
そんなことしても
なにもかも手遅れだってことはわかっているんだけど

こちらを値踏みしながらタクシーが通り過ぎる
ごめんな、歩いて帰ることが出来るところに住んでいる
首尾はどうだい、と
テールライトに語り掛ける
返事を期待しないときは無駄に饒舌になれるものだ
水溜りを轢き潰しながら
真っ赤なふたつの目が二つ先の交差点を左折していく
大儀そうにウィンカーを点滅させながら
おれは様々なすれ違いのすべての残像を
その僅かな灯りに重ねながら少しの間見送り続けていた

風が強くなり始めて
もはや軒先では凌ぎ切れない
立ち上がって
どこかのビルの駐車場にでも逃げ込んだほうがきっといいのだろうけど
おれはまだ回想を抜け出すことが出来ず
いつかしら雨に取り巻かれてしまった
まるで
眠りの最中に死んでしまう浮浪者のように

たまに優しくしてくれる顔馴染みの立ちんぼは見かけなかったし
つるんで出かける数少ない連中もこんな天気じゃ…
薄い上着の襟をナーヴァスに直して
針のような雨を見上げ続けている
なにが悲しいってわけでもない
なにか悔しいことがあったわけでもない
心躍るような出来事があったわけでもなく
怒りに震えるような事件が起こったわけでもない
臍の緒のように感情は切り取られて
ないわけではないけれどあるとも言えないような在り方で転がっている
雨粒は輪郭を明らかにしてくれる
それはちょっとした慰安だ
肉体や、体温のことを
確かに思い出させてくれる
おれもまだそんなものを所有しているのだと

どこか遠くの窓から
「無上の世界」が流れている
雨に啄まれて途切れ途切れだ
あんな歌詞を書いて歌おうと思うやつは
心の中に真っ白な闇を持っている

ちょっとばかり雨に打たれ過ぎた
ちょっとばかり夜更かしをし過ぎた
ちょっとばかり想い出に耽り過ぎた
ちょっとばかり時間を無駄にし過ぎた
僅かの間に落度だらけのこんな夜だけど
それがない方がよかったかと聞かれると素直には認められないな
人生のすべてでなにかを得なきゃいけないなんて
そんなのあまりにも宗教的に過ぎるじゃないか

おれはのんびりと立ち上がり
圧し掛かる疲れという疲れのすべてを
脆い膝で受け止めながら
豪雨の中を歩き始める
びしょ濡れになったってやり直すことが出来る
少なくともいまは
きちんとして眠るくらいのことは出来るようになった
そのうちにすべては笑い話になるだろう
雨のあとはからりと晴れるみたいに
おれは歩く水溜りとなって
この街で一番慣れ親しんだ場所へと歩く
念入りにシャワーを浴びれば
きっとうまく眠ることも出来るだろう
あの悲鳴はもしかしたら
おれの心が聞いたものかもしれないな







0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ