どうして時々どこかに出かけるのだろう  




















安いキャリーバッグの
硬質プラスチックの車輪が
まばらな拍手のようなリズムで
旅行者の孤独を連れて歩いている
バスターミナルは蒸し暑く
分厚い屋根に覆われている
様々な方言や言語が
異常発生したムクドリの鳴き声みたいにそこらで飛び交ってる
汗をかきすぎたシャツは身体に張り付き
清潔な動物園のようなにおいをたて始める
喉は掠れていて
飲み物を口にしたいけれど
バッグの中のペットボトルは
バスに乗るまでは取っておかなくちゃ
ホテルのベッドはいくら快適でも
うまく眠れた試しがない
見知らぬ場所での疲れは独特で
住処に帰るまでそれだと気づくことがない
どうして時々どこかに出かけるのだろう
たいした稼ぎもないのに
何ヶ月も前から体制を整えて
ちょっとした買い物なんかのために
帰るためのターミナルであと半時間ほどを過ごすとき
俺はいつでも自分の役を忘れた舞台役者のように
あるはずの台詞を見つけられずに佇んでいるみたいな気分になる
ただ人々がすれ違うだけのここは
ほんとは地名すら必要ではなく
世界のどこでもないような場所だ
そんな場所にいるからこそ
自分自身をしばらく泳がせて
意識をリブートさせることが出来る
ここはどこでもなく
俺は誰でもない
さながら来世を待つ
あの世の待合だ
アナウンスは繰り返す
誰かがどこかへ旅立ち
誰かがどこかへ帰ろうとしている
彼らには名前があるだろうか
彼らの向かうべき場所は
彼らにとって
彼らを取り戻すための場所だろうか?
どこかの乗り場の扉が
空気を吹き出しながら閉まる
これは現実じゃない
現実に戻るためのトランジションなのだ







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