入口で遊ぶのはずいぶん昔にやめたんだ  

















枕元の書見台のモリッシー、得体の知れない詞に溺れてる、冷たさに心が疲れ果て、隣国のポップソング、インスタントコーヒー…電気毛布の熱…イメージの質は変化する、スタイルは同じでも―装飾物をいくら強調して見せたところで魂の程度はごまかせない、何を食ったところで根性が不摂生ならそれは毒になる、なにかを書くときにネタを漁ったりなんかしないよ、俺はひとりで書けるから…灰が降る世界の中をまた知らぬ間に一年近く生きていた、ほんの僅かな数歩を、それでも確実に踏みながら―指先がキーボードを叩くリズムが好きだ、リズム、ということだけで言うなら、それはシャープペンシルの滑りよりも…けれど、それはどちらかではいけない、キーボードだけを叩いていたら、身体は書くことを忘れてしまう、けれど、ペンで書くことにばかりこだわっていたら、最新のリズムを忘れてしまう、どちらがより重要だということはない、ふたつ道具があるなら、ふたつともきちんと使うのが正解だ、さっきも言っただろう、大事なのはそこじゃない、魂の程度だよ…そうして今夜も俺は脳味噌を解いてここに並べている、これをやらないことには寝つきがよくない、詩は無意味だといろいろな人間がしたり顔で言うが、脳味噌がリフレッシュされるならまんざら無意味なもんでもないよ―意味なんて誰かひとりだけが決めるようなもんじゃない―俺は昔から同じことばかり書いている、それが自分にとって必要なことだからだ、俺はそれを理解していない、ずっとその断片を知り続けているだけなんだ、ねえ、いいかい、言葉には意味をたくさん含ませる方が面白い、たったひとつの意味しかない言葉なんて面白くない…もちろん俺にとってはという意味だよ、勘違いしないで欲しい…そして、その、幾つもの意味を含んだ言葉を使って文章を作ると、意味の森が出来る、その森は人を試す森だ、こんなものには意味はない、読む価値がない―そう言って片付けるのはいちばん簡単だ、でも俺は、えてしてそういう人間には何の興味も湧かない、そんな人間はどいつもこいつも、同じようなことばかりを話すからさ―たったひとつの意味しかない言葉をね―俺は自らが吐き出した言葉の海の中に飛び込んで、その中からあとに続くフレーズを見つけていく、葉を拾うように、木の実を千切るみたいに…そのとき、自分が飛び込みたいイメージというのがだいたいあって、それは最初の数行ほどでぼんやりと見えてくる、そうしたらあとは指先が踊るのに任せておけばいい、俺は古い降霊術のようにぼんやりと書きつけていくだけだ、降霊中―そうだな、おそらくは俺の霊魂のみがそれについて語ろうとしているんだろう、だって俺は書いている間、自我というものをほとんど感じていないもの…なにか違うチャンネルがあって、書き始めるとそいつに切り替わるんだ…霊魂、といっても肉体の中に居るものだから、そいつは肉体のリズムで言葉を連ねる、欲望というものが霊魂と肉体のどちらから生まれるものなのかわからないが、そのリズムが俺の文体ということになる、そういう意味で言えば、俺の書くものはビートそのものだ、ジャンルの話じゃないぜ―昔から感じていたことがある、俺はさ、俺自身が生み出したものでしか自分を誇れない、誰かに教えられて、ノートブックにメモした言葉じゃ駄目なんだ、なにか間違っているような気分でいっぱいになってしまう、名刺に刻まれた名前は自分の名前じゃないみたいな気がしてしまう、そんなものにすがって生きているやつなんてうんざりするくらいたくさんいるけどね―俺、嘘をつくような真似はしたくないんだ、ほんとさ…いや、そういう世界が嘘だって言っているわけじゃないんだ、信じられるやつは信じていていいのさ、でも俺にはそう出来ないというだけの話なんだ…この前、やたら眠れない夜があってさ、四つん這いになって虫の真似をしてみたんだ、餌を食い、繁殖して、糞を落として、死んでみた、やたらと短い人生だったよ、でもそこになにかがある気がして、幾世代分の虫の生を生きてみた、そうしたらわかったんだよ、あいつらが鳴き声を上げ始めた理由が…「吠えろ」って、あったよな?カーテンみたいな髭を生やしたふとっちょが書いたやつさ―それだよ、咆哮だよ、ハウリングさ、俺はたぶん一生かけて、自分の吠え方を探していくんだ、言葉の森を彷徨うのさ、意識が飢餓に陥らないように―自分自身の奥底を屠り、血肉に変えていくんだ、それは人生が続く限り連鎖していく、さあ、血塗れの俺の両手を御覧!食事は終わった、あとは瞼を畳んで日常に溶け込むのみさ―。












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砂の中のスイム、充血した水晶体、それから脈絡のない明け方の夢  












無頭症の胎児の寝息が内耳で呪詛になる日、罫線の中の鉛筆の芯は血のように赤く、「ねえ君、亡霊はきっと足音を立てないのが正解」と、置手紙の文面にあるのは、手を振るよりもずっと痛みに満ちたさよならの意思で、古い瓶の中いっぱいに詰め込まれた果実は甘い酒になり損ねた、何が原因なのかどこの誰にもきっと理解出来ない、消失の方が愛おしく思えるのは仕方のないこと、窓に張りついた闇は無口なまま殺意のような視線を送っている女のようで、急いで飲んだ珈琲に焼かれた喉は呼気にノイズをちりばめる、シンクの中のたったひとつのマグカップ、その底に、言いそびれた言葉のようなほんの少しの水滴、換気扇は歯軋りしている、冬の風が強過ぎるせいだろうか、テレビはいつだって字幕だけが有効な伝達の手段、魅力に満ちたもの言わぬアティチュードはみんな、無関心のごみ箱の中へ廃棄されてしまった、誰もその中を改めない、だから誰もそのことに気づかない、とうの昔に捨てられたそれが少しも腐敗していないことに、悪い耳打ちをされて目つきがおかしくなった女、素直さは決して美徳ではない、打ち砕かれて初めて開かれるまなざしがある、パーソナル・コンピューターは、だけど、個人の為だけに生きることはしない、繋がれたままの通信、アクセス以上のコンタクトは稀なこと、キーボードで孤独を忘れられたりするはずがない、穀物の種のように文字がばら撒かれてゆく、僕は言葉とだけ話すことにした、不快?痛快?どのみちこちらには関係のない話、ただひとつひとつ、空白を隠していくだけ、けたたましい子犬の鳴声、眠りの準備を始めた街角の短めのディレイ、上手に打ち鳴らされる硬度の高い金属みたい、星空にはいつも帰り道がある、失礼、もう一度繰り返してください、覚えられないのはきっと違う居場所を求めているから、いつもの角のいつもじゃない道の先には、見慣れた場所よりずっと新しいものばかり、そんなことを誰もが考えているからあちこちの軒先に行列という名の生きものが生まれる、誰かの背中を見つめ続けることにどんな種類の葛藤もしない人たち、群がる影の多さが価値観を構成する、残された皿や売れ残ったシャツなんかが、味気ない処刑のようにどこかへ姿を消す、幻想の大量生産、ヒット曲は宿題のドリルみたいに優しい、名前も知らない汚れた股間の触れ合いの後ろで、そんな音楽が延々と垂れ流されている、まどろっこしい、たった一度のやりとりでは決して伝わらない、そんな懸命さはもう愛だと呼ばれなくなった、泥だらけの様々な性器が、オリコンチャートの傘をさして真剣さを笑っている、ライブハウスのリハーサルの振動音、それは、ただのボリュームじゃないって、まだどこかで信じたい思い、叫びを信じる、欲望を信じる、おいそれとは手に入れられないものこそを信じる、血の高ぶりを信じる、鼓動の鳴り方を信じる、踏みつける地面の熱さと冷たさを信じる、雨の冷たさと風の強さを、とめどなく溢れ出す言葉たちを、自分の身体と同じ体積の入れ物を作りたい、同じ瞳を持つ誰かと新しい詩を始めるために、仲間なんて必要じゃない、ひとりで立つ場所があれば加速度は生まれる、矛盾なんて考えない、人生には筋道などないものだ、漫画社会に生まれたあの人は、ページをめくればきちんと続きが書いてあるものと考えがちだ、同じページが続くだけだよ、同じページがずっと続いて行くだけなんだ、いつ終わるとも知れないループの中で目を凝らしていると、時折渦が途切れるのが分かるだろう、だからそう、盲目にだけはなっちゃいけない(これは視力の話じゃない)、ふっと目に止めた景色だって、永遠のように生き続けることがある、特別な話じゃない、ただじっと見つめていればそのことには気づけるはずだ、必要なものを見つめるためには、そうでないものも視界に入れなければいけない、そこから先は果てしない疑問符と解答の繰り返し、ほら、気づいたらもう眠る時間だ、頭の中にあるたくさんのことを、枕元に投げ出して目を閉じてしまえばいい、知らない時間がたくさん過ぎて行ったところで、心臓が血液を循環させている限りまた明日すべてを目にするだろう。









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真夜中はマシンガンのビートで  










もはや狂気が正気になっちまって、俺の日常はどす黒い憎悪と底無しの生への渇望の渦だ、時計の針が過ぎてゆく人生を切り刻む、零れ落ちた断面が冷たい床でべたりと嫌な音を立てたそばから腐敗臭を立て始め、毛羽立った感情を余計に逆撫でする、声無き咆哮が口を閉じたままの声を擦れさせ、たまに口を開けると轢死体の最後の呼吸のような音しか出ない、オーライ、どっちだって生きてられるものだよ、どっちでだって生きてられるものだ…どうせこの世の中には真っ当なものなんて存在しないんだ、そうだろ?薄っぺらい、お仕着せのイズムに寄りかかって安心してる連中なんざみんなキチガイさ―バラバラにされた譜面だ、散乱した音譜なんだよ、それがいけないと思ってしまうのは、まともな旋律だったことを思い出してしまうせいなんだ、いまとなっちゃそんなものは関係なくなったんだ、それが理解出来ない連中は最後まで狂ってしまう…まあ、もっとも、俺はこんな御託を並べて遊ぶことが出来るから、余計ややこしい袋小路に入り込んでいるって話もあるけどね―でもまあ、そんなことはどうでもいいんだ、「本当はこうだから」「本当はこうじゃないから」そんなこだわりやプライドが何の役に立つ?俺はこのままだよ、穏やかなキチガイさ、そうして生きてい居ることになんの不都合もないよ…不都合があるとすれば、自分の狂気を認められない連中にはそうかもしれないな、俺のようなものはべらべらと話すべきじゃないってことになってるだろ?たぶん、あいつらの中ではさ…でもそんなことどうでもいいんだ、そうしたことはまったくどうでもいいことなんだよ、俺は俺を掻き回すために生きてる、どこの誰にもその邪魔をする権利なんてないよ―年齢は人を大人にしたりしない、大人になったと錯覚させるだけのことさ…大人ってのは、精神的に出来上がった人間のことだろう…そんなものの定義を年齢で判断するなんて馬鹿なことだとは思わないか?周りを見ろよ、大人ぶった、もっともらしい口をきいてるやつほど醜態を晒してるってもんだぜ―俺を見なよ、俺は穏やかなキチガイだ、だけどそんなにみっともない真似はしたことがないぜ…寒さに震えあがるが、眠る前に出来ることはまだある、それはいつだって突発的にやって来る、そんな衝動に逆らっちゃいけない、それを抑え込んだままでいたらたぶん本当に取り返しのつかないところまで行ってしまうだろうさ…目はふたつのものを見る、見えるものと見えないものさ、その両方が見えないと駄目さ、それが出来ないやつが分かり易いカードだけを切り続けて得意になっているんだ、いいかい、物事は単純かもしれない、だけど、単純じゃないかもしれないと思う方が、ためになるってことは確かにある―すでに解答が用意されてるものを信じちゃいけない、すべてを自分の手で、思想で探し当てることだ、それが出来るなら頭がおかしいことなんか別に気にしなくていい…そんなこと、生きていくこととは何の関係もないことだ、そこは終着地点じゃない、それは死ぬことでしか有り得ない、いや、もしかしたら死の先に続くものがまだあるのかもしれない、「自分はこうだから」やかましい、たかだか一〇〇年足らずの人生で何が分かるっていうのかね、下らねえ悟りを開く暇があるならキーボードがひび割れるくらい曝け出してみたらどうなんだ、かっこつけてんじゃねえよ―語ることより先に来るもんが多過ぎると、昨夜食ったもんすら上手く伝えられない人間になっちまうぜ、自分を掻き回して、掻っ捌いて、皿の上に並べるんだ、ぐっちゃぐちゃに並べられたそれを、誰かが鷲掴みにして食ってくれるかもしれないぜ、俺は真夜中に大笑いする、なあ、晩飯には少し遅過ぎるんじゃないのか―言っただろ、だって俺、さっきまで寝ようとしていたんだぜ―そうさ、正しく眠るための何かが足りなかったんだ、足りないまま眠ろうとしていた、そのまま眠ってしまう時だってもちろんあるさ、だけど、でも、それじゃいけないときには必ず何かが待ったをかけてくる、首根っこを引っ掴んで、ここへ連れてくるのさ、そして俺は真っ白いワードの画面をあっという間に塗り潰して、真っ白い自分になってようやく寝床に潜り込むんだ、死体のように眠り込むおれが見る夢は、もう死んだ人間ばかりが現れてにやにや笑っている、今夜あたり俺はそいつらを殴り殺すかもしれないな、理由なんかないよ、あいつらは多分そうされることを期待して俺のところに姿を現すんだ―。











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