2019/11/14

無数の血膨れの夜  










頭蓋骨の中で絨毯爆撃は繰り返され、その衝撃で俺の脳漿は四方八方を跳ね回り、幾つもの白昼夢が同時に展開された、それは不思議なほど幸せな光景ばかりで…俺はきっと薬物中毒患者のように目を見開いていただろう、呼吸は不規則で―まるで両の肺がそれぞれの意思で自殺しようと目論んでいるみたいだった、それはもはや呼吸とは言えなかった、それはもはや呼吸とは…在り得ないマルチタスクの中で精神だけが奇妙なほどに静かだった、白ける、というやつだ、他にどんな精神状態が有り得るというのだろう?俺は確かに沈黙し、目を見開いて、覚束ない呼吸をしながら、何が起こっているんだと自問自答をするしかなかった…散乱した問いにはひとつとして、納得のいく回答は得られなかった、まあいい、どのみち頭で理解したところで、なにかが出来得るという状況ではないだろう―俺は呼吸を鎮めようと試みた、けれど上手くいかなかった、身体は自分のコントロールから外れていた、大きく乱れていた、大きく乱れて…まるで誰かに脊髄を鷲掴みにされて揺さぶられているかのような暴れようだった、何が起こっているんだ、俺はとうとうそれを口に出した、そうしないことにはもう他のどんなことも次の展開を連れてくることが出来なかった、汗が吹き出し―無理に声を出したせいかもしれない、心臓は一昔前に流行ったジャングルビートみたいに左胸で転がった…体温は奇妙なほどに下がり、それに伴って汗の温度も少しずつ冷たくなった、幸せな、穏やかな光景はそれぞれの画面で果てしなく繰り広げられた、なのに、それが喚起させるイメージはおぞましいものばかりだった、頭を轢き潰された男、うつぶせに寝かされて窒息した赤ん坊、ローラーの下の作業員…何かが鼻に詰まっているのか、血の臭いばかりが感じられた、もちろん例えるなら血の臭いということだが―血管が鉄のパイプになった気がした…血液は雨樋を落ちる雨粒のように流れていた、つまり、心臓の動きとはまるで連動していなかった、遮断されている、と俺は思った、すべてが遮断されている、それぞれの器官が好き勝手に主張を始めていた、それはもう人間の身体ではないように思えた、人間の器に放り込まれた人間ではない何かが起こす誤作動なのだ、そうさ、俺は人間にはなれなかった、聖者にもなれなかった、人殺しにだって…そうして詩は溢れてきた、嵐の夜の鉄砲水のように―俺は吐き出すしかなかった、いつだってそうだった、それは己の為の調律だった、すべてが上手く機能するように、正常に働くように…俺はそれをやり続けることに決めた、少々窮屈な、制限された世界ではあったけれど、その堅苦しさは居心地がよかった、だから俺は、いつでもその部屋の中で死んでいた、何度も、何度も…言葉は激しく繰り返され、混乱を吸い取って行った、俺はその、自ら作り上げた暗闇の中へいろいろなものを投げ込んでいった、時には誰かから見れば大事なものもあった、俺の目からしても必要だろうと思われるものだってあった、でも俺はそれを持っているわけにはいかなかった、それは俺自身を嘘に変えてしまう手続きの為のものだったのだ…俺は狂ったようにあらゆるものを吐き出した、吐き出しているうちにそいつらは、自分が望んでいるかたちを俺に語り掛けてくるようになった、それは言葉で、ではなかった、それはいわゆるテレパシーのようなものだった、やつらは、それを望んでいるのだというイメージを俺に投げかけてくるのだ、深夜のテーブルの上で…俺は過去に書いた詩を、声に出して読み始めた、脳内で繰り返されるイメージがひとつずつ、モニター画面が割れるみたいに砕けては消えて行った…時々、そう、ほんの時々だが、何を壊しているのだと思うことがある、俺が生きるためのこの破壊は、もしや俺自身を壊しているのではないのかと―俺自身の構成をほんの少し壊すことで生き永らえる、いわば延命措置のようなものではないのかと…それならば、その繰り返しによっていま生存しているこの俺は、いったい何者なのかと…それはまるで無駄な問いのように思える、あれはこれだと定義することにいったい何の意味がある?断定は自己満足に過ぎない、俺は俺自身の行き先を知りたくて懸命に目を開いているに過ぎないのだ、けれど、でも、その問は時々、静観出来ないほどの圧力を持って俺に伸し掛かってくる、お前が殺し続けているものはなんだと…いまお前の足元に転がっているそいつはいったい誰なんだと…それは俺の足元にうつぶせに倒れている、ひっくり返せ、と問を発する誰かが言う、その要求は拡散し、反響して、群衆の怒声のようなものに変わる、俺はそれがまるで使命であるかのように錯覚してしまう、心の中ではすでに理解しているその正体を確かめんと、血塗れの左肩に手をかけ、蓋を開けるみたいに裏返す、すでに硬直が始まっている、それは…












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2019/11/5

狼狽える詩人どもに  
















激しい痙攣のあと、強制終了のように訪れる眠りの中で見る悪夢にも似た感覚を現実まで引き摺り出してしまう不得手な目覚めの数十秒、果たして俺はすでに死人なのか、と無意識に手首に触れている…微かに、致命的な嘘つきのようにそれは脈動している、でっちあげでもなんでもいい、とりあえず眠りと目覚めは、滞りなくこの朝も俺のもとに在った―寝床を抜け出すとぶるっと震え…それから初めて寒いのだと気がつく、ついこの間まで―やめておこう、とうにかすれたフィルムをもう一度回すような真似は…パーソナルコンピューターに飲み込ませた音楽データ、ストーンズはパラシュートの歌をうたって…いや、女の歌と言うべきか―いつものように…目覚めが早過ぎる、致し方ないことだが…まだ太陽は始まっていない、地平線の下でウオーミングアップの真っ最中だ、薄め過ぎた黒絵具のような闇が硝子戸の外に広がっている…無意味な走馬灯のように、往来を行き交うヘッドライトが瞬間光の線を描いては居なくなっていく―トーストが焼き上がる頃にはそんな、主役の居ないメランコリックは真っ白な夜明けに塗り潰されている、世界は今日もころころと色を変えていくのだ、死滅した文明の中央部分で稼働を続けている生物コンピューターのように…珈琲を口にするのは早過ぎた―喉元には火傷の感覚がある、剣山で軽く引っ掻かれたみたいな痛み…ふと、この痛みはいつまで持続するだろう、と、俺は考える…痛みは、人生においてもっとも忘れ去られ、そしてもっとも訪れるもののひとつである、そしていつでも、初めてやられたかのように必ずダメージを残す…それが感情のように語られるようになったのはいつ頃なんだろうか…?マグカップを口から話すとき思わずため息をつく、日常には誇らしいと思える羅列がない、そこいらを掘ってもなんの成果もないことはとうに理解出来ている、けれど…無意味なことは必ず否定しなければならない、そうさ、それをしなければ…一生をただ器用なだけの動物として終えることになる―カフェインはほんの少し脳味噌をクリアーにする、ほんの少しだけ…泥水がプールの水になるくらい…それでも今日この日なにかが出来るかもしれないと思うくらいのきっかけにはなる、もちろんそれは幻想に過ぎない、そう、いま俺は口にしたばかりじゃないか…「誇らしいと思える羅列はない」それでもさ―多かれ少なかれ、遅かれ早かれ、望もうが望むまいが、そんな世界の中で生きていかなくちゃいけない、器用な動物たちが、どんぐりの背比べに精を出す世間さ―そういうやつらは実にせせこましい手段ばかりを使うぜ、みみっちくて…見てるこっちが恥ずかしくなるくらいさ―だけど突っついてやるなよ、口を開けばクソだのクズだのと…まるで痴呆症の老人のような言語感覚だ―だけどあいつらにとっちゃ、それが聖剣なのさ…エクスカリバーってやつだ…OK、慣れるなよ、落ち着くな…俺は自分の頬を張る、盲目になっちゃいけない、集団の色に混じることで、自分が偉くなったなんて勘違いをしちゃいけないよ、そんな人間の醜さは嫌と言うほど見てきただろう―俺は服を着替える、音楽は鳴り続けている、冬の太陽が無数の氷柱のように世界を照らし始めている、いまが朝だろうと夜だろうと知ったことか、てめえの頭の中でガチャガチャ転がっているものをぶちまけながら生きるだけだ、世界は繰り返す、俺は渦の中へ巻き込まれながら、昨日とは少しだけ違うことを書く、パラレル・ワールド、無間地獄から抜け出すための常套手段さ、少しずつ少しずつスタンスをずらせば渦の流れから抜け出すことが出来る…昨日と同じ今日であってはいけない、それが俺がこの人生で学んだもっとも大きなことだ、一〇〇年あるかないか、それだけの時間だぜ、同じ色だけで塗り潰すなんて俺には出来ないよ―たったひとつ見つけることだ、たったひとつ見つけることだよ、なにか新しいものを手に入れたら、古びて要らなくなったものは自然に零れ落ちていく―人生の命題など持たぬことだ、フリー・チケットさ―その時に決めた行先だけが本当に行くべき場所だ、彷徨え、彷徨えよ、狼狽えたる詩人ども、小競り合いをしている間にも時間は流れてゆく、下らない連中は放っておくことさ…そうしていつかいまよりもほんの少し居心地のいい場所を手に入れたら、程よく晴れた朝に一緒に珈琲でも飲もうじゃないか…









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2019/11/3

晩鍾、狂ったように木魂するさなかで  








あとどれだけ生きられるのかなんてまるでわからない、人生の終わりは以前より確かに親しげな笑みを浮かべて、横断歩道のむこうでこちらを眺めている、風は少しずつ冷たさを増し、そのせいでなにかに急かされるような気分がますます酷くなる―ポエジーなんか欠片もない街で生まれた、下層社会の部品みたいに役割を繰り返すだけのやつら…食い過ぎた胃袋の悲鳴を聞きながら夜のベッドに横たわるたび、一日がまた終わったのだとため息ふたつ分の陰鬱さを枕元に落とす―俺が幸せになることは難しい、そのことにはずいぶん若いころから気がついていた、俺は誰とも歩調を合わせたりしないし、天気の話やテレビのニュースについて語ることに興味が無い、スナックのスツールに腰を下ろしてカクテルを飲む時間なんてまったくの無駄だし、愛想笑いなんてしようもんなら顔の神経がおかしくなっちまう―手に入れたいものはひとつだった、知りたいこともひとつだった、追いかけたい影もいつだってたったひとつだった、心臓を握り潰すようなポエジーだけが欲しくて毎晩キャンパスノートを塗り潰していた、ラップトップのキーボードは買って半年でAのキーがグラグラし始めた―まあそれについてはただの不良品かもしれないけれど…人生の意味などいまは知りたいと思わない、運命にも、宿命にも用はない、それを知ったところで何が変わるわけでもない、俺は俺のやりたいことを続けるだけさ、そう、やるべきことじゃない、やりたいことなんだ…肉体はリズムを持っている、それがある限りは書き続けるだろう、そこには規則などない、俺は自分の書くものについてこう考える―それが詩なのかどうかなんてどうだっていい、とね―極端な話、それがまるで詩だとは思えないようなものでも構わない、俺が欲しいのはポエジーだけだから、俺が見せたいものは…もうずいぶんとたくさんの詩を書いた、たったひとりのために書いたものもあるし、インターネットにばら撒いたものまで、さまざま―いくつかの詩は誰かを動かしたし、いくつかの詩は誰にも相手にされなかった、だけど、もしもいまここで命を落としたとしても、数少ない誰かが俺のことを語ってくれる、それだけのものは残した…だけど、俺はもっと書くことが出来る、もっと残すことが出来る、それは昔ほど懸命なことではない、でも昔より速度が増しているし、昔よりも楽しいと感じる、生きている間は書き続けていないと、ひとの言葉は本物にはならない、近頃俺はそんなふうに考えるんだ、それは視覚化された鼓動であり、血液の流れるさまであるからだ、記録されるものは、だから、毎日、毎週、毎月、毎年、その在り方を変えていく、出来る限りのことを記録しなくてはならない、俺は同じものであって同じものではない、つまりそれはとても膨大な時間を必要とする自己紹介みたいなものだ、やあ、と、今夜も俺は見知らぬ誰かに話しかける、俺のポエジーのゲートをくぐってくる誰かに、俺の血のにおいを嗅ぎつけてやってくる誰かに―それは名前や年齢や性別や性癖なんかよりもずっと、俺のことを鮮明に語ってくれる、俺はなにも遠慮する必要はない、思いつく限りのことを並べればいい、そこに誰かがあっと思うようなフレーズが隠れていれば、なお良い…俺は無駄なお喋りをするための言葉を持っていない、こんな場所に書きつけるための言葉しか…それは俺にとっては誇らしいことだ、だって、それはずっと磨かれてきたものなのだから―規制や規則、そういったものとは全く関係のない、混じりものなしの俺の在り方だから…それがなければ俺はとうの昔に、いろいろなバランスを崩していたことだろう、もしかしたらこんな歳になるまで生きては居なかったかもしれないな、父親は頭をおかしくして死んだし、弟は精神病院の一室から出て来られない…だからって俺もそうなるなんて思っちゃいないけどさ、こればっかりは自分でこうだなんて言い切れるものでもないからね―ほんの少し、誰も居ないところで誰かに話しかけられたりするけれど、それぐらいのことさ、姿があるかないかって、それぐらいのことさ…あとどれだけ生きられるかなんてまるでわからない、人生の終わりはある時突然しびれを切らして俺の喉元を掻っ切るかもしれない、もしそんな瞬間がやってきた時には、俺はなにかひとつ人生について気の利いたフレーズを残すことにしよう…あくまで声帯が傷ついて居なければ、のことだけどね…。








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