鏡像は俺でありながら俺ではないものを垂れ流している  












冬の日はどこまでも喉に突き刺さり、痛みと共に脳味噌で弾けるシグナルはいつも、とてつもなく鋭利な刃物によってつけられた鮮やかで細い傷みたいで、呼吸によって生まれるものを俺は血だと錯覚してしまう、勝手に歌われる生の亀裂、崩落の予感は生まれたときから続いている与太話さ、俺は見ていた、俺の命で遊ぶ死神の姿を、いつだって…逢魔が時のような外套はいつだって俺の眼前でひらひらとたゆたっていたのだ、俺は今夜もそいつに向かって長い手紙を書く、生半可なものではやつは納得しない―やつはやつで、なにかままならないものによってどうしようもなく飢えているのだ、俺にはそのことがわかる、それは俺が声を上げる理由と同じだからだ、蝙蝠たちが天井を八の字に飛ぶ、妙に肉感的な羽音を立てて…本当に俺の血を吸うのはお前たちじゃない、そうだろ?パブリック・イメージだけがそんなふうに飛び交うのだ、人の目などこの世で一番信頼するべき機能ではないというのに―夜は軋んでいる、この部屋に蓄積した無数の取るに足らない記憶のせいだ、俺はその音を夜だと思う、この世に溢れているどんなものよりも確かにそいつを夜だと思う、なぜだかわかるか?俺は寝床に居る間中、ずっと、その音を聞いているからだ、それは俺にとってなによりも夜なのだ、俺は爪を噛む、捕らえたばかりの草食動物の肉に食らいつくライオンのように噛み千切る、捨てられた爪の破片は床の上で出来上がらない詩の一部になる、拾い集めてごみ箱に入れておくとそんな破片は決まってもっとも早く腐敗する、俺は死臭を嗅いで過ごしている、詩人にはうってつけの響きじゃないか…暖色の小さな電球は夜明け近くまで黙って灯っている、時折蝙蝠たちが落ち着きを失くすせいでちらちらと途切れる、俺には目を閉じる気がない、目を開いたままそんな天井をじっと眺めている、これまでに何度こうして、寝つきの悪い夜に目を見開いてきたのだろう?どんなに考えてもいつからそうしているのかまるで思い出せなかった、きっとそれは死神のせいなのだ、俺は死神のことを怖ろしいとは思えない、あいつの抱えるものはおそらくは、俺が抱えているものとそんなに大差はない、ひとことで言うならばそれは、感情の死体というやつだ、肉体の死がそいつの人生を如実に語るのと同じように、感情の死もまた俺には詩となる、俺はどこかに居る聴衆のために叫ぶ、俺自身の洞穴の奥深くから競り上がって来るうらぶれた魂の塊について、そしてそれが吐き出されることによって生じるある種の渦について…なあ、人はとにかく暗い色を怖がるね、視界が奪われるのが恐ろしいのか、あるいは、それによってよからぬことを考えてしまうのが嫌なのか…誰もが道化のように流行歌みたいな希望について歌っている、でも俺は喀血のように綴るのが好きなんだ、そうして初めて、綴ることが出来たと感じるのさ、ごらん、俺の吐き出した血の、無数のイメージの羅列、それはここにしかない、そしてすぐに消えてしまう…俺が何度も同じフレーズを織り込むのは、なにひとつ片付いていないせいなのさ、俺は凄く若いころには、そうしたものの一切はそのうちカタがつくだろうと考えていた、でもそれは間違いだったのさ、それは生まれてから死ぬまで一度も終わることがないものなんだ、だからこそ俺は早いうちにそいつに手を付けたのさ、早く終わらせたかったわけじゃない、どこまでもそれを解きほぐしたいと考えたからだ―途中まで気づかなかった、オウムが片言を喋るみたいに並べ続けてきた、それは知的探求心とか、心理学の研究などとは同じではない、そこには明確な目的などない(神や死神はそんな麻痺を呼び覚まさせようとして現れるのかもしれない)、生肉を屠るライオンの本能に近い―本能の為に俺はそうしているのさ、それは欲求ではなく欲望なのだ…咆哮する冬よ、俺の首をもいでいくがいい、俺は最期の目を見開いて己が肉体の断面を見るだろう―そして死神は古い友達のように俺の肩を抱くだろう、一度くらいは一晩中語り明かしてみようか、お前の持つ刃物にこびりついた古い血のように疼く俺の理由を受け止めてはくれないか…完成は、することはないだろう―そしていつか次の生を迎えたとき、俺はきっとその続きから手を付ける事だろう。















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