鏡像  








殺意がある
おそらくは
得体の知れないものを
殺るための
そうして
奇形してゆく
正常な道を辿るために
入り組んだ鍾乳洞に
明かりもなしに潜り込むんだ
石のつららで頭を打ち
濡れた足元で滑り
傷を増やしながら
わけもなく奥へ
わけもなく奥へと
味方かどうかすら
わからないものに
手を
引かれながら
先に死んだやつら
先に狂った奴らが
異界から見物している
俺は
魂を投げ捨てるショウマンだ
地底湖に浸かり
芯まで凍えながら
出口を目指しているのか
それとも
どん詰まりを目指しているのか?
(それはどちらにせよゴールと言えるのではないか?)
ただ生きるだけなら無意味な
自問自答を繰り返す
たとえば
こんな
中途半端な明け方に

得体の知れないやつ
たぶん
産まれたときからずっと
俺のそばに居る






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乱反射する生の所在地  










言語は解体され、意識の破片となって、冷たい寝床で検死医を待っている、風が鳴くような音は、体内に残留した空気が逃げ場所を探す音、死後硬直のトーンは灰色、アルミニウムのような冷たさだけがそこにある、空調によって冷え過ぎた部屋が鳴らす音が葬送曲を奏でているみたいにけたたましい、皮膚の下のラジオステーション、枯れ落ちる血管を受信し続けている、刻み付けられることだけがすべてだった、無自覚な存在の明確な記録、可視化出来るものだけが真実なんて愚鈍にもほどがある、本当の意味で生きるには内側の記憶が要る、ひとつの元素だけで構成された物質にはそれ以上を語ることが出来ない、異なるふたつの要素を同時に語れないのは破綻を恐れるからだろう、語れる部分だけで思考する連中は同じ穴の中に落ちる、ジェットレースと同じさ、躊躇したら限界まで走ることは出来ない、生身と魂のサーキット、高速で通過する奴らの振動は心臓までをも不安定にさせる、まるでスイサイド、だけど高濃度、星が燃えるような熱は人の中にもある、欲望だけの食事を掻き込め、純度の高いものは身体に悪いなんて、内臓の腐った連中の言い訳に過ぎないさ、黒焦げの肉塊から水蒸気が溢れている、それはきっと天国の輪郭をなぞるための道具だ、美しいものだけが陳列された棚が美しく見えるはずがない、そんなこときっと語るまでもないはずだ、本当は、羊膜の中からの景色、もう二度とそんなもの目にすることは無いと思っていた、だけど現象はいつだってままならないものだ、ずっと眺めていたつもりだったけど、もしかしたらひととき目を閉じたかもしれない、大人しい景色は狂気を孕んでいるものだから、なにを言っているか理解出来ないって?表面化したものはすべて現実でしかないじゃないか、それは感じ取るものではない、受け止めるしかないようなものだ、誰かが口を閉じた瞬間こそが最も言葉に満ちているものだ、ざらついた床の上で鈍い光を放つ硬貨を見つけて拾い上げる、そうして埃を払うとそこに記された数字は希望について話しているみたいに見える、沈黙があるからこそ成り立つ、そんなものがきっと本当は役に立つ、小便にたって生温い水で雑菌を洗い落とすとき、排水口を流れ落ちていく悲鳴のことを考える、それはきっと何の役にも立たない行為だ、けれどイマジネーションとしてはひとつも間違っていない、有を無に変える、無の中に有を見つける、分類の方法は自分次第だ、決まりがあるとしたらただひとつだけ、与えられたものを鵜呑みにしてはならない、それだけだ、真実はすべて、自らの感覚によって生成されたものでなければならない、コミュニティの真実や、社会の真実によって能面になってしまったら、書類に記されるだけの人生になってしまうだろうさ、魂の中でなら、粒子レベルにまで散らばることが出来る、その成り立ちを、ハードディスクをデフラグするみたいに並べ替えることが出来る、人生は有限だ、だから、無限の幻想の中で広がろうとする、それがあらゆる芸術の正体なのさ、センテンスじゃない、エビデンスでもない、ノウハウなんて合理主義者の戯言さ、そこに留まるのなら安いスーツを着て会議に出ていればいい、こうあるべきものなど魂の中にはない、心を持つ人間は自由だ、それは戯言なんかじゃない、人が文字を覚えたときからそれは何度も証明されてきた、言葉を得たから、言葉の奴隷になるのか、言葉を得たから言葉の先へ行くのか、選択肢はふたつしかない、有名な戯曲にもあるだろう、行くべきか死ぬべきか、って、あれは本当のことさ、不思議な話じゃないか、いまじゃ考えられないような髪型や服装をした連中がペンを取り綴り始めたころから、俺たちが抱えるテーマは変っていないんだ、それはきっと変わりようがないものなのさ、自由について知ろうとすれば、縛られていることを自覚しない限り始まりようがないものな、俺たちはいつか気化していく、水蒸気になって、天へ昇っていく、存在なんて曖昧なものだ、確かに身体はあるのかもしれない、けれど、それはいつか無くなってしまうものじゃないか、だから、言葉を使って魂を残そうとする、便利な時代さ、どれだけ年月が経ったって色褪せない、好きにやればいい、価値観はうつろう、現在など大事に抱えていることはない、俺たちの存在など御伽噺になる時代だってきっとやって来る、なあ、これはもしかしたら、記憶に挑もうとする行為なのかもしれないね、俺は時々そんなことを考えてしまうんだ、身体が失われても、感情が失われても、名前が失われても、更地に残された杭のようにこれが残ればいい、それはきっと俺の墓石よりも俺に似ているはずだから。










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世界中のさよならの鐘をふたりで  














フォー・ビートが沈み込んでいく
目録のない夜の隙間
非常階段の泣声
男か女か分からない

カルヴァンクラインの残骸
浴室に注射針
充血した瞳が
最期の瞬間に見たものは

あなたは間接照明のように
世界を偽装する
わたしは
穏やかな暗闇を気にして
ずっとマグライトを手元に置いている
細やかな嘘が歴史になるのなら
わたしたちは混じり気のない水晶になれるでしょう

雨がどこからか土を連れてきた舗装道路で
スクーターがスリップする
ガーベラかなにかのイラストのついた
ジェットメットの女の子は
短い生涯をずぶ濡れで終えた

取りたくない電話の
コール音は小さい
フォルムは夜に紛れてしまう
ただひたすらに根気が
届かない手を伸ばし続けている
もしもし、もしもし
わたしはコネクトせず
返事だけを繰り返す

大きな橋の上で
ずっと
川面を見つめている
挙動のおかしい大柄な男が居た
口の中でずっとなにかをつぶやいていた
それはきっと
聞こえても理解出来ない類の言葉だっただろう
ずっと首を傾げている彼は
呪いをかけられた動物のような
幼さと哀しさを
小鳥のフンのようにそこらにばらまいていた

大きな文具店の
ノートのコーナーのそばの
空の棚が気になって
ずっと
立ちすくんでいたのです
それに気づくことが出来たら
今夜はどんな迷いもなく眠れるような気がして
一番下の段で潰れていたハエトリグモは
わたしの視線を疎ましく感じたかもしれません

ひとは嘘をつくとき
本当のように話します
だからわたしは
どうでもいいことばかり口にするようになりました
どうせそれは床に落ちるばかりなのです

『でもね、おれは
それをひとつひとつ
拾い集めて大事にとっておいたよ
それはどんな解決にもならないけれど
おれにとっては確かにやらなければならないことだったんだ
すでに諦めかけていたのではないかと言われたらそれまでだけどね』

空地に捨てられた
人の形に黒くカビたマットレス
火葬して、埋葬して
そのままにしておけばきっといつか
ろくでもない思いのためにまた動き始めるかもしれないから

雨の日のにおいが窓のほうから流れてくる
世界は本当は洪水を待っている
呼吸のたびに始まりと終わりが
理のなかできちがいのように鬩ぎ合う
きっと、きっといつか
流れの果ての途方も無い海の上で
愚か者のわたしたちは
変わり果てた姿でもう一度出会うでしょう
知らないふりをしないでね

多分楽しみにしてるから






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