別に詩人なんてもんになったつもりもない  












夜は燻りながら、いのちの方角へと転がっていく
俺はそれを見つめながら、道を知らない子供のような
顔で
燻製になった魚の心情を体内で模写する

よどみの中、腐りかけた水の中
まるで親指大の腫瘍だ

朝と昼と夜が
回転灯のリズムでから回る
腐り落ちた肉のあとの
断面に残されたかけら
語れ
語れよ
お前こそが声を発するべきじゃないのか

意味の無い音がこぼれ落ちる
朽ちた木に残された僅かな葉がそよぐように
業だけのために生をめくってきた俺には
眠ることが不可能な夜というものが必ずある
脳味噌の片隅に仕込まれた爆弾
俺はせっつかれて指先を動かす
フレーズがフライングし続ける
回転数を忘れたターンテーブルだ
そして、俺は
そんなきちがいがたまらなく恋しい

終わらないでくれと
終わらないでくれと願う為だけの
欲望が本当に
掴みたがっているものはなんなのか
夜の中にはその答えがないような気がして
俺はカーテンにもぐるみたいに薄曇りの闇を見る
本当に何も見えない夜にこそ
生きることの喜びがあるような気がして
イラついた果てのアスピリンは
もはや気休めにもならない

寝床には俺の影だけがある

たったひとりの自分に戻るための手段
見通しのいい道で
誇り高い迷子でいるような真似はもう出来ない
その選択肢は子供のうちに捨ててしまった
迷いなくそこに飛び込んでいく連中が
ひどく
間抜けに思えて

誰かが歌った暗闇を今夜俺が持ってる
それはいつか君が歌ったものなのかもしれない
目覚まし時計が騒ぎ出す頃に眠りに落ちようぜ
そんなことでも少しは気分良くなれるはずさ
何もしないで明日になるよりは
何もしないで大人になるよりはね

多いか少ないかさ、もうそんな正義しか残ってない
イズムにもなり得ない思考は
つるんで笑う以上の言葉を持たない

空っぽの水槽の中で熱帯魚の記憶だけが泳ぐ
そうさ、例えばこれが蝶が見る夢であったとしても
俺は同じことをし続けるだろう
夜は針を進めない、こちらを騙くらかそうと目論んでいるのさ
眠れない時には眠ろうとするなよ
枕に沈める為のなにかが今日の中に残ってるのさ
魚のように口を開けて食らいつくんだ
飲み込んだら欠伸のひとつも出てくるかもしれないぜ

湾曲した骸骨のイメージ、軽木のように鳴りながら
高周波の歯軋りをばら撒き続けている
パンクロックだって俺は思う
そしてしばらくの間耳を塞いでいる

言葉やそのあらゆる配列を
失った時が俺の終わりだろうか
碎かれて壺にぶち込まれて
置物になって沈黙するのか
それはいつまで白くあるだろう
骨もまたいつか灰になるなら
それはまだ終わりではないのかもしれない









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いずれすべては跡形もなくなってしまうけれど  











命無き波のように打ち寄せる虚ろには必ずふたつの目があり、そのどれもが焦点がずれている、右目のほうが少しだけ内側に入り込んでいるのだ、それはまさしく俺の目であり、早い話、俺は俺そのものに飲み込まれまいと躍起になっている、昼間には太陽も少しだけ顔を覗かせたが、そいつが沈んでしまうと陰鬱な夏の曇り空だ、エアコンの息継ぎの隙間から多足虫のような湿度が這い上がって来る、覚醒剤中毒者がそんな幻覚を見ると聞いたことがある、だけど俺の身体は綺麗だぜ、少なくとも腹の中よりは…死の感触は初めから隣にあった、おそらくは、生まれてすぐに死にかけてから、ずっと―あの時に俺は何かを知ったのだ、そして、それを思い出そうとしてこうしてもがき続けている、こんなじめついた夏の夜にはいつも同じ夢を見る、同じ場所が出てくる、同じものが生きている、でもそれがどんなものなのかなんて決して思い出すことは出来ない、かたちにならないものばかりが俺を掻き立てている、そこには耐えがたい引力があり、そして報われない、すべて分かっている、でもそんなことは問題にする気もない、結果や成果に囚われるくらいなら、そこらの連中と同じように俗にまみれて澱んだ目をして常套句を繰り返して生きて行けばいい、そして俺は一生そんな人生を許容することは出来ない、真面目さだけに振り回されて死んだ父親が幸せだったとは思えない、曲がりなりにも陰鬱な家を残し、母親と生き続けたけれど…そんな母親も記憶を失くそうとしている、もうすぐふたりの人生はなかったことになるだろう、残された子供らの話はしないことにしよう、三匹の子豚の話よりもつまらなく、どこにも救いがない、俺は言葉にしがみついた、だから少しはまともな人生を生きることが出来ている、人生は一匹の蝶々が見る夢かもしれない、だからって虫のように生きることは出来ない、簡単なことだろ?いま、ふたつの目玉は俺のそれに重なろうとしているかのようにこちらににじり寄って覗き込んでいる、黒目がずれているせいでなにを見ようとしているのか分からない、俺は苦笑する、それはつまり俺の目なのだ、何度も何度も、俺と言葉を交わした誰かがこんな違和感を覚えてきたのだろうな―それなりに楽しくやっていた子供時代を別にすれば、俺がこの世界に感じてきたものは常に違和感であり、そして感じさせてきたものもそれだった、もしも、俗物どもがひっきりなしに口にするくだらない常套句が人間であると言うことの条件だというのなら、俺は人間ではないのだということになる、そして、俺に言わせれば、だからこそ俺は人間なのだということになる、相容れない、それはそうだ、本気であれば相容れないのは当り前のことだ、俺はなにも鵜呑みにしない、あつらえられた型枠はいったん脇へどける、それが信じられるものかどうか分からないからだ、そして、始めに信じられなかったものはほとんどの場合、俺にとって信じる価値のないものだ、実体のない…群れて生きたがるやつらどもが生きやすくするための暗黙の了解、そうでないものを瞬時に見分けるための短いものさし…そいつからは酷い臭いがする、最初に決められたっきり磨かれていないせいだ、放置された家屋の、すでに死んだ誰かの名を刻んだ表札のようなものだ、それは、人間に合わせて変化していくことをしない、人間のほうがそれに合わせて変化していく、そして、たったひとつのプログラムで死ぬまで生きて行けるようになった人間たちが言う、「世の中ってそういうものだから」―愚かしい言葉だ、彼らにとって主体性とはそこにしかない、そのシステムだけが澱んだ目の連中を稼働させ続けている、調和したそばから腐敗していく、ジムジャームッシュ、あんたは正しい、物言いとしてはえらく陳腐だったけれどね…そう、だけどさ、エンターテイメントってもんに陳腐さはつきものだ、それに完全に染まってはいけないが、できもののように残しておかなければいけないことは間違いない、ただ俺に言わせれば、そんなものよりもカウンターであるかないか、そっちの方が大事なことだぜ―ふたつの目は引き潮にのっていずこかへ流れ去って行く、新しい波に乗って、新しい、けれどさっきとなにも違うところのない、ふたつの目がなんとなく俺のことを覗き込む、自分の目が見つめられるか、書き続けるというのはそういうことだ、それを恐れ、それに怒り、いらだち、抗うからこそ生き続けられる、俺には光も闇もない、裏も表もない、そのあらゆる明度、あらゆる感情、あらゆる心がたったひとつの俺だということでしかない、だから俺はこうして純度の高い吐瀉物をぶちまけ続けるのさ、拾い上げて、臭いを嗅いでみなよ、抜けられなくなるか、二度と近づけなくなるか、どっちかだと思うぜ―。








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足音が聞こえないやつこそがいちばん長い距離を歩いている  
















脳髄を静かに掻き回すマイルスのエレクトリック
インスタントコーヒーの粉を食パンにぶちまけて湯を飲む
退屈にかまけた下らない遊びさ、ハナから味なんか期待してない
だから心配しないで、俺はまともさ
少なくともまともさを疑うこともない連中よりは
ただ同じことを繰り返したくないだけ
日常に慣れて、間抜けな面をさらしたくないだけさ
ダブ、その感覚
シルクで出来た蛇が身体を這い回るようだ
俺はいつしかポカンと口を開けて
細胞に染み込んでいく音に世界を植え付けられてる
台風が近づいてる、窓の外が揺れてる
みんな必要以上に死ぬことを怖がる
緊急避難速報がそこらで鳴り響いている
俺はそいつを鳴らすなって自分の携帯を躾けた
奇妙な献立は最後まで食わなかった
あとで屋上をうろついてる鳩にでも投げてやろう
情熱のあとの温度は低い、だけどそのかわり
そいつでは語れないいくつものことを語ることが出来る
黙って立ち上がれ、黙って始めろ
動機や意志を誰かに向けて話す必要なんかない
食事と同じで、ただ食い始めて飲み込めばいい
誰もお前が食おうとしているもののことなど知ろうとはしない
お前がそれを食っている姿に何かがあるかどうかさ
黙って行え
意欲は現実を超えない、すべてを捨てたって
たとえば命を懸けてみたところで
それはお前の指を重くするだけさ
動くべきところで動けなくなるだけさ
唸るだけの音だってグルーブになることが出来る
ただ鳴らされるだけの音はそれだけで意味を持ってる
そして
そうなるべくして加速していく
音楽を知っていればそういうことは自然と行われる
夜が切り開かれていく
マイルスが始まる
俺は力を抜き、耳を澄まして
夜を解体して部品を拾い上げていく
同じ部品から拾い上げるくせがついているのに
出来上がるものはいつも似ているようで違う
ブロックで遊ぶ子供みたいなもんさ
それは衝動がきちんと生きている証拠なんだ
出来上がったものが出来上がりなのさ
欲しいものが出来るから
こうしていつまでも続いているんだ
薄暗がりの回廊の中を
まだ覗いていないドアを探して歩き続けているのさ
それはきっと見つけ出すものに意味があるのではなくて
見つけ出そうとしている行為にこそ
理由というものが隠れているんだ
俺はそれを見つけ出したことがない
見つけ出すつもりもない
それは道路標識みたいなもので
目にしたところで「ああ、そうなんだ」で終わるものだから
だからこうしていつまでも続いているんだ
その日語るべきすべてを語るから
一見は無意味な羅列に過ぎなくても
なにかを残せた気がして
気分で始めてしまうのさ
いま、水を飲んできたんだ
丈夫な廃墟みたいな俺の家の給水管は剥き出しで家の壁に張りついていて
生温い水がたっぷり二十秒は出続ける
だけど、だから
最初から美味い水が出る最新式の住宅に住んでいる奴らよりは
水というものをよく知ってるんじゃないかなんてそんな気がするんだ
見つめている時間というものが必ずあるからさ
無自覚でいい、無駄な力を入れなければ
バックグラウンドで動き続けるシステムが出来上がる
表面上の動きや記録なんて細やかなものに過ぎない
そうでなければ表現なんてものにはなんの意味もなくなってしまうだろ
いつだってそうさ
すべてを語る気でいなければ
安売り商品を煽る看板とそんなに変わらないものになっちまう
偽物のシンプルの上に胡坐をかいちゃいけない
顕微鏡で世界を覗いてもでかい蟻が見えているだけだろう
俺は多分
俺自身を曖昧にしたいんだろうと思って
こんなことを書いている
本当はこんなことをするのに存在なんて邪魔なだけなんだ
俺の言ってる意味が分かるかい
俺にとってこいつはおそらく
瞑想の果てに観る世界みたいなものなのさ
配列し直される脳味噌、必要な記憶と感情の組み換えなのさ
命のないところ、人生のないところ、名前のないところに
俺の語るべき言葉がある
そう思えるのは楽しいことだぜ
だって一生追いかけられるって保証されたようなもんじゃないか
インプロビゼーション、ある日突然に始まり
ある日突然にゆっくりと終わる
今日がそのすべてであればいい
こうして黙って始める日のすべてが
俺は今日数時間、青空のそばにあった
臓腑が沸き立つような温度の中で
すぐに忘れてしまう詩をいくつも思いついた
言葉なんか書き留めておく必要はない
それはいつか必要になった時に帰ってくる
本当にそれを話すべき時に
もし俺にそれを話す機会がなかったら
こんなものをここまで読んでくれた君に訪れるかもしれない
もしもそんなものが君のところにやってきたら
そう
食事をするようにゆっくりと黙って始めてくれればいい










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