からっぽの夜  








世界が目覚める前に
おれたちはそこにいて
翳りと虚ろを抱いて
道路標識の下で
帰路を忘れていた
腕時計は電池切れで
携帯の充電もあとわずかだった
夏の装備じゃ思ったより寒くて
自販機を探していたけど
明かりはひとつも見つからなかった
走ろう、とおれは言ってみたが
おまえは黙って首を横に振るだけだった
薄曇りの空に散らばる星は
美しくて容赦がなかった
腰を下ろした縁石は冷たく
強張っていて心地はよくなかった
どこかのバイパスを
時折飛ばしてく車の音が聞こえた
そこはどうしたって歩いて行けるところじゃなかった
夜だから知ってしまう
手の届かないもののこと
ため息をついたが
誰のせいにするつもりもなかった
背後の
朽ち果てた家屋から
野良猫が走り出た
おれたちを
警戒していたのかもしれない
時折振り返りながら
すぐに闇に溶けた
そうさ
あれはどこかへ行ってしまったわけじゃない
ひとりで走り出そうかと思った
そのまま
眠ってしまいそうなおまえのことを置いて
闇の中で
消えてしまおうかと、そんな
ふざけた気分を
知られてやろうかとわざと笑ったが
おまえは
気にしはしなかった
寝返りのように
首を傾けただけだった
遠い闇の中で
さっきの猫が鳴いている
住人の消え失せた部屋の
目覚まし時計のように
動く気のないおまえよりも
おれは行き場をなくしていた
ポケットに残っていたキャンディを
口の中で転がしながら
夜が明ければすべては終わるだろうかと
ただこうしていてもすべては終わるだろうかと
ぼんやりと考えていた
そしてそれは間違いじゃなかったけれど
ホテルから届く忘れ物の通知のように
あの夜がこんな風に
時折目の前で泳ぐ
あんな夜の中で
あれ以上何が出来たのか
あんな夜の中で
ほかに何が言えたのか
選択肢のすべてが正解ではなかった
けれど
後悔ばかりが騒ぎ立てるのはなぜなのか
猫の鳴声が聞こえる
都合よく
眠ってしまえれば
それが一番いいのだけれど―









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