2009/1/1

「叛く」とそこには記して欲しい  










組織の剥がれ落ちた楽園
翼に認識番号を振られた天使たちが
朽ちかけたバロックの前でうたを紡いでいる


そのうたは旋律に似合わず哀れで
冬の風に騒ぐ枯草の趣
とうに死に絶えた種族を語るとき
きっと似たような哀しみがあるに違いない


生きているものなどこの世には無いのだ
その証拠に
すべての芸術は過去でしか語られないではないか
上等に仕上げられた
蚕の繭の中は空っぽ
いくつかの糸を
強欲なうたい手が強奪したから
幼虫は凍えた
何も進化しなかった
永い死を示す炭素だけが残った


過去は夢魔の手のよう
恋人の囁きのよう
逃れるもつかの間
餓えた蛇のように
どこまでも伸びてくる


誰かが管理している
どこかで検分している
分類されて
存在はファイルキャビネットの
手首ほどの幅の価値しかない
それがどこにも届かないものだと悟った天使たちは
片端から同胞に喰らいついて死んだ
噛み千切られた彼らの喉元からは
永久に産まれないスペルたちがため息のように洩れた


ほら、頭上に手をかざしてごらん、彼らの血が垂れているのを感じる事が出来るだろう
受け止めてくれる誰かを探しているんだ、彼らが諦めたうたの続きを
楽園とはあらかじめ失われた幸福のようなものだ、君がそれをもしも引き継ぐと決意したなら
もう二度と優しい笑顔など浮かべられない事を覚悟しなくてはいけないよ、どこまでも続くうたをうたおうと決意すれば
君は嘘という名の元素で構成された海に潜らなければならない
うたを持たぬ知らぬものたちが深海魚となって
雑多な口で君の呼吸を奪おうとする、君は唇をきつく閉じて
決して酸素を彼らに渡してはならない
それは君が生きるために自ずから取り込んだものだ


たくさんの死骸を見る事になるよ、君の中にも、君の外にも
生命を信じられなくなるかもしれない、深く潜るという行為はだいたいそういうものだ
もしも君がそういったものに絶望したとしても
手を差し伸べてくれるものなどどこにも居ない、その辺りまで来ると
誰もがそれぞれに絶望と殺し合いをしている
孤独とは
立ち止まってしまうやつらのためにあるものではない
孤独とは
うたを紡ごうとするやつらのためにあるものだ
誰かが管理している
誰かが検分している
翼に認識番号を振られた天使達
世界の上で誰かの興味が涎を垂らしている


どっちみち死ぬ
どっちみち死ぬ
ああ、どっちみち死んじまう
いつかは失速する
いつかは窒息する
言葉を失くし、呼吸を失くし、記憶を失くし、意味を失くす
ああ
代わりに生き続けてくれる魂が欲しい、その為に
俺たちは運命を繰り返す
犬のように走り、猫のように眠り、蝙蝠のように逃げ、虎のように猛り、シマウマのようにうなだれ、そして
そいつらのどれよりも永く情けなく泣きながら
ああ
熱と鼓動を持った致命的な有機体
その性急な震えにしがみつくのだ


組織の剥がれ落ちた楽園、翼に認識番号を振られた天使たちが
朽ちかけたバロックの前でうたを紡いでいる、それは過去だった、それはまぼろしだった、それは茶番だった、それはエピローグだった
すべての記憶は歪み、墓標に吸い込まれ
何も無かったような静けさだけが残る
その静けさの前で何を紡ぐ事が出来るだろう
哀しいと泣くように
愛しいと跪くように
うたはあどけなく零れる事が出来るだろうか?
虚偽の無い涙のように
うたは唇を伝う事が出来るだろうか?


気の迷いでいい、呆れられるような
間の抜けた告白でもかまわないと言うなら
本当のことを話すよ
君と通じ合いたい、一瞬のまやかしでいいから
俺は君の心になりたい
君の心になって
俺のうたを抱いて永遠の一部になる


俺の臨終の後に
俺の死体の後に
俺の荼毘の後に







俺の
埋葬の後に










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