俺のアッパー・カットはすごく下から  










車体を軋ませながら
ショッピングモールの駐車場の出口をかすめてゆくキャデラック
ハウリン・ウルフが辺りを
ビリビリと揺らすほどに吠えてた
けたたましく鳴きながら
あとを追っていくポメラニアン、誰かの手を離れて
寄生虫みたいに長く首から垂れ下がった赤いリード
末端の小さなリングに
過保護な飼い主の孤独がこびりついてた
昨日生まれた街のあたりで起きたスクーターに乗った男二人組のひったくりのニュース
ぶっちゃけた話俺の兄弟の仕業じゃないかって本気で疑ったぜ
ハング・ファイヤーを口ずさみながら空がクローズする時間帯を眺めている
携帯電話の中の見覚えのない番号に回したら
「神様があなたに清く正しく生きる為のヒントをお与えになります」という自動音声ガイダンスが流れた、特に悪い気はしなかったので俺はそのまま聞いてみた
「ハルマゲドンはご存知でしょうか」と
聖堂で聞かなければいまいち効果がなさそうな物静かな語り、清く正しく生きる為のヒントをお与えになる神の言葉を俺たちにお与えになる年老いた(らしい)男は
「とりあえず神の名において我々は裁かれます、生きとし生けるものみんな死にます」と言った、ふうん
ドラマツルギーが間違いばかりを引き起こすのはストイックな宗教のお家芸だ、何故だろう?
「我々はイエスの子でありノアの子であります、聖書により
学びを得たものたちは神の声を耳にし、災害を逃れ
新天地に向かうことが出来るのです」
ふうん、するとあんたたちは
聖書を開かない者達はみんな裁きによって滅びるとこういうわけかい?
先着百名様のバーゲンセールみたいだ、あるいは
優秀な学生に微笑みかける教授みたいだ、なるほど、神は陶芸家のようなものか
出来の悪いものは完成を待たずにすべて壊しちまうんだな?俺は音声ガイダンスにそう話しかけた「そんなことはありません」自動音声ガイダンスは俺の言葉に呼応した、驚くべきことだ
「神はその学びを得るためのチャンスを万人にお与えになります」彼の声は示唆と啓示に満ちていた、らしい、俺はそうは思わないけれども
俺は口の中に溜まった唾を吐いて彼に話しかけた
「学びを得ることが出来なかったやつは切り離すんだろう?出来の悪いものは完成を待たずに壊しちまうんだろう?「そんなことはありません」
「学ぼうとしさえすればそれでいいのです、それだけで」
「我々は箱船に乗ることができます」
俺は電話を切った、判った、判ったよ
あんたの神様とやらは他人の話を聞くことを教えてはくれなかったんだな
携帯のフリップを閉じてポケットに滑り込ませた時
一台のジャガーがタイヤを激しく鳴らしながら俺の立っている歩道に突っ込んだ、俺は街灯の後ろに逃げ込んで事無きを得た、どうだい、学びがなくても人は生き抜くことが出来る
横断歩道の向こうにこちらを見てにやりと笑う―携帯電話を耳にあてた男
とても神とつながりがあるような人間には見えなかった、胸の内にある腐敗が
そのまま臭ってきそうなそんな面をしていた、信号はちょうど青になるところだった
俺は飛び出してその男のもとへ走った、男は身をひるがえして俺の視界から消えようとした
一度振り向いた時の薄笑いが俺の神経を逆なでした、あいつにひとつ俺の教えとやらを学ばせてやろう
薄暗い通りを男の背中を見ながら走った、男は背中に「ストリート・リーガル」とロゴの入ったシャツを着ていた
男の足はあまり速くなかった、追いかけるうち
俺の頭の中にはほんの少し嫌な予感がした
―仲間の待ってるところへ行くんじゃないのかな、一人の落第者を切り捨てる為に?
すっかり改心したマイク・タイソンなんかがどこかの角に身を潜めていて
飛び込んできた俺に向かってハリケーンみたいなパンチの雨を降らせるかもしれない、まあ、タイソンなら
負けてもそんなに恥ずかしいこたぁないってことだよな
ヤツは勇敢だった、郵便局の横の
街のどんづまりの空地で足をとめて振り向いた
「不信心なおっさんには罰を与えないとな」にやりと笑いながらファイティング・ポーズ「神の名において」息を整えながら俺はやり返した
「二百年も戦争したりするのはお前みたいなヤツらなんだろうな」男の小鼻が膨らむ
「清く正しく生きる為に異教徒を殺すんだ」
「神を冒涜するやつはただじゃおかない」
「俺も今ちょうどそんな気分だよ」
俺が喋り終わらないうちにやつはジャブを打ってきた「おい!」
「ルール違反だ!」
「長くなりそうだったからな」
男はタイソンではなかったがそこそこのボクサーだった、俺のパンチは一発も当たらず、ヤツのパンチはすべて俺のどこかを捕えた、俺はほどなくノックアウトされて地面に倒れ込んだ
火がついたみたいに顔が熱かった「どうだおっさん」男は息も切らさずに言った
「神の裁きは抜群に痛いだろう」
「ぼうや、お前の名前を教えてくれよ、教会に請求書を送るから」
男は鼻で笑って周囲をちょっと確かめた後、もときた暗がりの中へ走って消えていった
俺は起き上がれないほどのダメージを楽しむことにした、冷えた土の感触が頬に気持ち良かった、しばらくそうしていたが突然額に濡れたタオルが当てられた、俺は間抜けな声を出した髪を短く刈りあげた痩せぎすの女が俺の顔をごしごしと拭きだした「あんた誰だい?」「いいから静かにして」
彼女は俺の上半身を難なく持ち上げ、服の砂を払った
「立てる?手を貸すわ」
「手際がいいな、看護婦か?」
「そんなようなものよ」
そんなようなものか
彼女の言葉はまがいものについて話してるみたいに聞こえた「ちゃんと手当てするから私のうちに行きましょう」「でも俺歩きたくないんだけど」「下心でも掻きまわしてるうちにつくぐらいの距離よ」そういうわけで俺は彼女の家に行った
シャワーを借りて痛む体をほぐしてから俺はようやく下心を掻きまわした、手当のあいだ中俺はギンギンだった
手当てが終わると当たり前のことみたいに彼女は俺をベッドに誘い、そして俺達は十五回戦じゃ済まないくらいに激しく打ちつけあった
「ところであんた誰なんだい?」
ひとしきりうとうとしたあと、俺は彼女の髪をがしがし撫でながら尋ねた
「当ててみて」「…判んないよ」
「ヒントがない」「そうね―」女は何か考えていたが結局なにも思いつかなかった
「さっきあんたをボコボコにした男の―配偶者よ」俺は笑いだした
俺のアッパー・カットはすごく下から、生臭い息を吐いてヤツの顎から脳髄まで粉々に打ち砕くだろう―テン・カウントだ


やったぜ!











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