かくも愛すべき水底の。  







恋人たちが爆死するサマー・ボリディ、灯台から灯台へと渡されたタイト・ロープの上で呑み過ぎた予言者が呂律の回らぬ口を開く…「そこら中が地雷原だ」と。フルーツ・フレーバーの歯磨き粉はセサミ・ストリートに胸躍らせた幼い日を連想させる、ロックンロールの流れるラジオ、六十年代のままに…スーパー・ボールみたいなビートをサッと捕まえて自分のものにしたかった、それはほんとのことだ。ゴブリンは窓枠で、ランプシェードが黒をかぶるまでお行儀よく待っている、どんな世界にも待つべきことはある、丁寧に挽かれ淹れられたコーヒーを飲み干すと確かな息吹がその中には潜んでいる―純粋であり続けるには途方もない才能が必要だ、そいつは間違いない。純粋なだけの純粋さは首吊り自殺で終わるのがオチさ…汚れて見せることだって必要だ、周囲の人間を戸惑わせて、眉をしかめさせることが必要なのさ。そうさ…誰かが認めてくれたのかい、その噎せ返るようなピュアネスはいつだってお前の胸元で蜘蛛の巣に捕われた蝶のようにもがいているだけじゃないか?本当に周囲を巻き込もうと思ったら、戦略は必ず必要になるものさ、小狡さとか図太さの話をしているんじゃない、コントラストを極端に強くしてみせるのさ、指先を自慢したければ手の平を徹底的に汚してみせることだ。誰かがあるとき俺にこんなことを言ったよ、「お前の書くものはどれも似過ぎていて陰鬱で救いが無い」って。それは違うよと俺は思った。でも何も言わなかった。説明してしまえばそれはイデオロギーに過ぎないからだ。「その陰鬱さが僅かな救いをうたう為にあるんだよ」なんて言わなかった、そんなこと、文脈から外れたところで話したって何の意味も無いんだ。読めたらオンの字、読めなかったら残念でした、それ以上のことは小細工に過ぎないよ。おい!と恋人たちの死体が飛散した砂浜で誰かが叫んだ、「予言者の姿が無いぞ!」ああ、なんて馬鹿な…なんて馬鹿な野郎なんだ…あいつはきっとなにか、それ以上のことを声高に叫ぼうとしたのだ、そしてバランスを崩してしまった、喋りたいことに気を取られて、足元に注意を払うことを忘れたのだ、ただでさえ呑み過ぎていたというのに…何人かの人間が海に飛び込んだ、駄目だよ、と俺は呟いた、まずは水面を照らさなくちゃ…当たりをつけて、それから目指さなくちゃ…!闇雲に泳いだところで見つかりっこないさ、見つけたとしても引き上げられないさ、だいたい、落ちた時点で手遅れかもしれないじゃないか。アルコールやら高揚感やらのせいで、心臓麻痺を起こして即効沈んじまってるかもしれないんだぜ…沈んでしまったのなら潜水士を呼ばなくちゃ。手段をたくさん持たなくちゃ駄目だよ、イデオロギーだけじゃ掴めないものなんてこの世には山ほどあるんだぜ…五人飛び込んだうちの二人が溺れた、あいつらを助けるためにあと何人が飛び込むのだろう?ホリディ、サマー・ホリディ、浮かれた愚かしさがやらなくてもいい葬式を手配させる、参列者は上手く泣くことすら出来やしないだろう。沢山の人間が居て、沢山の年代があり、沢山の種類があり、いくつかの性別があり、いくつかの聡明さと、いくつかの愚直さと、いくつかの愚劣さが転移した癌細胞みたいにぼこぼこして息づいている、だけど、いいかい―俺の言うことよく聞いておくんだよ、これはすごく大事なことだぜ―その中の誰でもいい、群れの中から引っ張り出してきて、お前の純粋について懇々と話してみるんだ、いいかい―言葉を尽くすことで理解し合えることなんて、たぶん一度だって無いだろうさ…だから、タイトロープを渡るつもりなら呑み過ぎちゃ駄目だぜ、なあ。





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