九分九厘、最終出口  
















行方不明者の残した手紙は
どんな気持ちで読めばいいのかわからない
閉じ込めた引き出しは空っとぼけている


ソプラノのリコーダー、その割れた吹き口の残骸、観賞用のナイフみたいな役立たずの形状、いつまでも見下ろしているととらわれるような気がして、滑稽なくらい狼狽えて逃げ出した、いまだってなにが違うのだ、横たわるそれとおまえは…廊下は長過ぎて、足取りはおぼつかな過ぎて、いらだちは足音のたびに増えていく、リノリウムを跳ねるゴム底の嘲笑のような摩擦

速度が結果への近道だと思ったら大間違いだ

プールサイドのまぼろし
教えてもらったお気に入りのメロディーを
思い出しながら辿っていた夏の終わり
泳ぐつもりじゃなかったから
水着は持っていなかった
後悔しなかったと言えば嘘になるけど
あきらめのありかたは面倒臭さが押さえつけた


大好きなラジオプログラムはいつだって真夜中だったよね


小さな明かりをつけたベッドの中で
いつだって上手く眠れたためしはなかった
とめどないあてどない
着地点がないことがあらかじめ気づかれているもの思いが
枕を何度も殴りつけるから
その中で見る夢は頻繁に騒々しかった

トラックの巨大なタイヤに飲み込まれた友達


思い出を語ろうとすると決まって夏のカードから引いてしまうのはどうしてなのかと、繋がっていない深夜の公衆電話の中で長いコートの女が泣いている、受話器を繋ぐコードは運命のように彼女の肘の辺りに絡みついて、愚直なほどに白い蛍光灯のあかりに、あまり魅力的ではない混沌が蜃気楼のように浮かび上がっている、タクシーが一台だけ、日常のアスファルトを滑り去って行く、女はそれ以上どうすればいいかわからないみたいで、台詞どころか段取りそのものまですっぽ抜けた初演の役者みたいにみえた、誰かが彼女の喉を掻き切ってやるべきなんだ、小さなナイフでそれは充分なことなんだ…でもそこには誰も現れはしなかった、おかげで女は、小さなブラックホールを待っているきちがいのようだった、血よ、報われぬもののためにこそ踊りなさい、ああ、血よ、行き場ない思いの先でこそそれは美しいのに

ダンスパーティーでお金を盗んだよね
ピザがどうしても食べたかったんだよね
財布の中を丁寧に調べればそれだけのお金はあったはずなのに
どうしてもそれを失いたくなかったんだよね
誰かの隙を窺うことだけは得意だった
そういうことばかりして生きていたからだよね
でもそのあとひどくお腹を壊したって聞いたよ、なにかのバチだなんて考えもしなかったんだろうね


年老いたタクシードライバーのハンドルは山ほどの話を抱えているのにろくに言葉も知らないことにイラついているみたいに見える、そんなハンドルを握りながら彼は何度かこちらに行先を確認した、ナビゲーション・システムが故障しているのだと忌々し気に語って、記憶の奥底にあるはずの番地を引き摺り出した、経験は便利さを必要としない、画面を確認しない分だけ彼の運転はスムーズだった、そしてハンドルはまた新たなエピソードを飲み込んで悶々としていた、タクシー、運転席と後部座席の他人、不思議といえば不思議な光景に違いない、財布の中の札と小銭をどういう風に組み合わせようかと悩んでいた、だいたいいくらになるかの見当はついていたから…あんなことがなければなかなかに上手く組み合わせられたはずだった、つまりは、運転手の心臓麻痺ってことだけど

信号待ちはそのまま終わらなかった


文房具屋の絵具の前でしばらく立ち止まって
自動販売機で欲しくもない缶コーヒーを買って
すぐに飲み干して脇のボックスに捨てる
良く冷えている、とうたうステッカーのすぐ隣に
エコマークのついたステッカーが貼ってある
すぐそばの公園は
老若男女問わず
ニコチンを風に漂わせるやつらばかり
やつらの脳味噌は鮮やかな糞色に違いない


あれッ、夜明け前だ
いつのまに、どうしてこんなに
ひとっこ一人居ない車道のど真ん中で
色を失くしていく夜を見ている
ああ、いまなのに
この場所なのに



行方不明者の手紙を読むのなら










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