俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎに  散文




俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎに、とてつもないのっぺりとした感情に襲われてしばらく膝を突いていたんだ。仕事を終わらせて、部屋に戻って、シャワーを浴びた後のことだった、山奥のカーテンの様なもやの中を潜り抜けるときみたいに空気が変わるのを感じてさ、あっ、あっと妙な声が口をついて出た、どこかからふいに落ちるときみたいな軽い調子でだよ。あれはなんと言えばいいんだろうね、塩と酒と味の素で調えた錦糸玉子の一切れになったような気持ち…重さが無くて、細くて、見るからに脆い…試しに指で摘み上げてみるときには細心の注意を払わなくちゃぷつりと切れてしまう、そうなると寿司に添えるときだって切れっ端は無視されてしまう…そういう懸念をいつも含んでいる感じ、判る?俺、息の切れた金曜の午前さま過ぎにそういう気持ちで膝を突いていたんだよね、そういうときってもうなんていうかどうだっていいんだなぁなんてことをいろいろ考えちまうんだ、今日彼女に送った写メールの表情の出来とか、帰りに口の中で溶かすことが出来ずに噛み砕いて飲み込んでしまったカンロ飴の儚さとかそういったことってよ、こだわってみると意外と面白いことだったりするんだけど、何もこだわらないやつにとっちゃどれもこれもどうでもいいことじゃん?いわば俺そういう人種にシフトしたみたいになってたんだよね…そんでまあなんだかそれは良くないことのような気がしたんでね、とりあえずそこから回復するのをじっと待った、そこから回復するのを待ってそういう状態がちょっとした気の迷いみたいなもんだってことを確信するためにこうしてどうでもいいことをあえてこだわりながら息の続く限り文章を連ねてみようという試みをしてるわけ…まあ自慰行為っちゃ自慰行為だね、だけどさ、そういう行為が売り物になったりする世界ってあるじゃん、巷のビデオ屋とか行けばいくらでも値札つきで並んでるじゃん…まあもうビデオなんか置いてないかもだけどね…俺はさ、こういうことはいくらでも好きにやっちゃっていいと思うんだよね。読みやすい文章って何。面白い文章って何。結局のところ主観でしか書かれないものでしょ、そんなの出来てると思って書いてるやつのほうがよっぽど始末に負えないだろうな〜要はさ、オナニーだって金になるってことなんだから。好みのコがアレしてたらみんなやっぱりナニでしょうよ…まてまて、安易に下ネタとか持ち出してアバンギャルド気分とか止めといたほうがいい。特に今は息の切れた金曜の午前さま過ぎ。そんなときにそんなことしたって別に何の救いにもなりゃしないよ。午前さまって不思議なんだよな、針が少し進むたびに何かを宣告されているような気がする。多分、他にあまり気にするものがないからそんな気分になっちまうんだろうね、今日はちょっと太陽を浴びすぎたしな。日射病なんてぶっ倒れるだけじゃないんだろうなきっと、太陽の幻影は意外なほど人間を蝕むものだよ、考えてみりゃそりゃそうだよな、何億光年とかいうふざけた距離から光を放って、それでこんだけ俺に汗を掻かせてんだもの…俺たちみんな炙られて過ごしているんだよな。そういう一体感の持ち方ってどうよ、興味ない?まあそれもそうでしょう。俺にも自分がどういう形で誰かと連帯を得ようとしているのかまったくピンときやしないんだ。そんなこんなでばたばたとキーボードを叩いているうちにだんだん眠気が訪れたりするんだけど人間って不思議なものだね首がすでに舟を漕ぎ始めていても惰性でなんだか指先は動き続けているんだ、このまま動かしていたらとんでもないことになるかもね。閉ざしておいたほうがいいようなことまでつらつらと引っ張り出して大恥を掻いてしまうかも。汗の次は恥かよ。まったく忙しないな。まあそんなわけだからもうそろそろ筆を置いてしまおうかと思う、こんなのよほど興味のあるやつしか目を通したりしないだろうしね…先に自慰とか言っちゃったからなんだか隠したい気すらするんだ、ほら、隠したほうがイカしてるって側面も確かにあるじゃないか?長い長いおやすみの挨拶だと思って読んでくれるとありがたいな。実際この文章には誇るべきものは何もない、ぎこちない自動書記みたいなもんでさ…なんかそういう風に続いちゃうときってあるじゃん……無い?








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ある種の理解は手段を選ぶもの  散文



そこにしなだれかかるのは嘘のノスタルジーだ、君はそのずいぶんと確かな感触に決して心を許してはならない…雲の中に潜り込み、水の粒の冷たさと傷みを確かめながらおぼろげに感じるようなものでなければ君は君自身の狂気に折り合いをつけることなど決して出来ないだろうよ
例えば今は真夜中だが、窓の外に何か見えるかい?いいからカーテンを開いて、光を反射する邪魔な硝子をスライドさせるんだ…そうしなければ僕の言っていることは半分以上取りこぼされてしまう…開けたかい?よろしい、今夜はなかなかいい風が吹いているね、冷たいがある種の覚醒にはもってこいの温度だ、そう思わないか…僕たちは少々温度に対して麻痺しすぎた、それは疑いようのない事実だ―寒いと感じる前にヒーターのスイッチを入れてしまうだろ?それが全ての答えだよ
窓を開けたら少し身を乗り出してごらん…ああ、そんなに邪魔になるんならカーテンは本棚の本にでも噛ませときゃいいじゃないか―脱線するのはあんまり好みじゃない―ひとつ迅速にお願いする
さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?住んでる場所を答えろなんて誰も言っていない、もうひとつ断っておくけれど―君のイマジネーションのレベルを計測しようとしてるわけでもないぜ…そんなのは白髪のポップな芸術家にでも任せておけばいいことだろう?しいて言えば視力だ―僕は君の視力を試そうとしているのさ、さぁ、君が今いるそこは何処だ?中空、なるほど、中空か、まあいいだろう!なにが見えた?その中空から、君はなにを見ることが出来た―はじめは闇だった、そうだね、そんなにすぐに夜目なんか利くもんじゃない―はじめに闇が見えたね、それから君はどうした?かなり長い間見つめていたじゃないか―?もっとよく見つめようとした、そうだね?僕が暗に視力という表現で見ることを匂わせたからだ、それから質問があった―何処だ!?とね―だから君は無意識に答えになるものを探したというわけだ
続けよう!君は目を凝らした―闇の中にあるものを見つめようとしてね、それはもうしっかりと見ようと勤めたはずだ、そうでなければ答えを導き出せないことは本能として理解していたはずだからね!本能として理解している―これがどういう意味合いか判るかい?暗闇の中でなにかを見つけ出そうとすれば、きちんと目を凝らして辺りを懸命に見つめなければならない―僕たちは本能でそのことを理解しているのさ!…なんだよ、不服そうな顔をしているね…今の説明にどこかおかしなところがあったかい?これでも僕はあますところなく君に全てを話したつもりなんだけど?―僕は昔からそういうことが上手なんだ、自分の中にあるあらゆる事柄をちょっとした比喩とジョークできちんと説明することが出来る―ああ、もちろん、自分で確認出来る程度のあらゆる事柄という意味なんだけどね、さっきのは―脱線だって!?冗談言うなよ、僕は少しも話をそらしたりなんてしていないよ―むしろ君が僕の話をきちんと聞いていないのではあるまいね…?怖い顔をするなよ、僕は議題を他人に押し付けるのみで話を進めようとするクラス委員じゃない―クラス委員って何かって―?ものの例えだよ…言葉のアヤってやつさ
それで君はなにが判らないんだって…?答え?答えって何の!?さっきの、なんて言い方は駄目だよ、それは問いかけとして適当じゃない…僕の中ではきちんと段階を踏んだ結果のすれ違いなんだから、今君に渋い顔をさせてることの原因となっているものは―質問!?僕が君に何か質問をしたかい…ああ、あれか、あれのことか―「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」―我ながら良い台詞だよね、簡潔で、なおかつ謎を含んでいて、深く読み込もうと思えば、なんらかの衝動を促しているようにも見える―衝動!!ふるえるね、ゾクゾクする…君はこのセクションをクイズか何かだと感じたのか!ふふ…はははは……可笑しいよ、可笑しいね、君―僕はそんなつもりでこの言葉を発したわけじゃないんだ、これくらいは君にも理解出来ると思ったんだけどな―怒るな、怒るなよ…今の言い方は良くなかった、まるで僕が君を見下しているみたいに聞こえてしまったね、今の発言は少しの間君の心に憮然とした感情をくすぶらせるだろう…怒るなよ、僕はそんなつもりで言ったわけじゃない、そうだ、君の疑問に答える前に場所を変えようか?美味い珈琲を落とす店をこないだ見つけたんだ、君だってたぶん気に入ると思うな…金のことなんか!!今のは僕の落ち度だ、お詫びのつもりでご馳走させておくれよ、このことでこれ以上議論はしないよ…さあ、行こう!心配は要らない!あの店は真夜中すぎまで開いている!!おっと、窓を施錠しておけよ…君の隣人にもしも物をくすねるような手癖の持ち主がいたらどうするよ?…失ったものの幾つかは簡単には取り戻せないよ…おや、いい外套じゃないか、何処で買ったのか教えてくれよ―準備は出来たかい?じゃあ、出発だ!!玄関を開けて、廊下に身を乗り出せ…「さて、どうだろう、君が今身を乗り出しているそこはいったい何処だ?」
おっと、冗談だよ、怒るな、怒るなって…




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浸透と官能という真実の概念の緩やかな交わり  散文



君は長い長い弛緩のあと、おいそれとは手に入れられない感覚を用いて俺に謎かけをひとつした。俺はイエスともノーとも答えることが出来ずに愛想笑いを浮かべて窓際の鉢植えに気をやろうとしたが君はそれを許さずに俺の頭を観念的な万力で押さえつけ…「私が口にしていることをただの言葉だとは思わないで欲しい。」人ならざる何かに呪文を聞かせるようにゆっくりと、概念を噛み砕くように俺の目を覗き込んだんだ、俺はその間ずっと君の目の奥に転移した自分のある種の喪失を見つめていた、ああ、おぼろげには今までも感じていたが、俺は確かに君の中に自分がいつか失ったものを見つけようとしているのだ、君が俺の頭蓋骨を支える両手にさらに少し力を込めたときベッドのスプリングがわずかに空気を震わせて、多分君はそれすらも自分の言葉なのだと主張したがっていると俺は感じた 。けれどそんなものに返答出来る用意のあるやつなんて少なくともこの半径にはきっと存在しちゃ居ないよ、君が何を俺に伝えようとしているのか、俺はすでにきちんと感応だけはしているつもりだけど。本気の心情を投げかけようとするとき、言葉はきっと糞の役にも立ちはしない…俺たちは馬鹿でかい湖の浅瀬に身体を浮かばせて、泳いだつもりになっているのさ。君の景色を理解しよう、俺の出来る限りの脳髄の最適化を持って。俺は君の瞳の中で構成を変えてゆく自分のことを見つめる、それはある意味で君の何たるかを見つめることでもあるのだ。君の湖の浅瀬はずいぶんと大胆だ、リアス式の海岸のようにさまざまな形に侵食されていて、その形状の危うさが何故だか俺にはひどく心地がいい。君は何かを狩ろうとするみたいにギラギラとしている、情熱なんて詩に植えつけられっこない、君はいつかそう言っていたっけな…焼き付けている間にそれは色を変えてしまうって。だけどどうだい、俺はいくつかの情熱をきっと文脈の中に組み込んできたよ…君にそれを見抜くことが可能かどうかはまた別の話だけど。君の子宮はスナップショットのような一瞬しか認めることは出来ないんだな、そしてそれはきっと俺が認めるところの君の最大の美点でもあるんだよ、俺は観念を水晶体の中に組み込んでみる、そういうデフラグが瞬間的に、ずいぶん上手になった気がするんだ、君、君が俺の目を覗き込んでいるわけは、そこに君が転移していることを認めたいからなのか?あるいは君は、俺を侵略しようとしているのかもしれない、俺の湖の際も、君のような幾何学な形状に変化させようとしているのかもしれない、ああ、そいつはなんて素敵な話なんだ!まだほんの五分程度のようだが、そいつはすでに短針の活動の領域を超えていた、俺と君の領域、君と俺の湖の対岸。観念的な会話。それは直列する霊体のような感覚だ、俺と君とはある一定の不確かな法則の元に繋がれたエクトプラズムの対流の中に居る…ねえ、いつしか謎かけは優雅な旋律のような軟体に変化して俺たちの周辺をはぐれた旗のように漂う、それはイデオロギーも、モラルも、アジテーションも、なんにも含んではいないまっさらな記憶のような概念だ、俺はそういったものが語る無垢な感覚というものをこれといった理由もなく無条件に受け入れてしまう…真剣である君の強固なる魂はなんだか楽しそうだ、俺たちはすでに世界の外に居る、肉体は不自由な入れ物なんかじゃない、俺たちの意識をぎりぎりまで圧縮する自由度の高いフォルダなんだ。エクトプラズムが物質化するときに必要なものを知ってるかい。それは雲のようなものだ、湿度、そう、湿度だよベイビー、それが俺たちを形のないものに平然と変えてゆく、ゆっくりと立ち上る煙のような何か、今では俺たちはそのことを知っている、君の両手は痺れることはない、俺のまぶたが疲労することがないように。俺たちの寝室は聖域となる、キリストだってジダンダを踏むはずさ。人なんて言葉に何の意味もない。俺たちが生きていることに人なんて何の関わりも持たないのだから、俺の瞳と君の瞳の中で生まれる流動的で絶対的なパイプライン、それは天地の理さえ飲み込もうとするときがあるのだ。真実は官能だ、それは揺らぐことはない、珍妙な器の中で、俺たちはいつだってそのことを感じているじゃないか?神よ、俺たちは絶頂の元に生存しているのだ…戒律などがなんの役に立つだろう?それは犬につける首輪や口輪のようなものだ。あまがみの出来ないものたちがその地位に甘んじるのだ、俺たちは殺風景な寝室でそれを悟ることが出来る。コーラルを持つことなく我々はあなた方を信仰するのだ。俺の対流と君の対流が交わる、君、いつか俺たちは二人のいびつな中間色を手に入れるだろう、指先が脳に溶け込み、俺は、君の謎かけとやらに関心を示さなくなるだろう、それこそが君の望んでいる双方向の―双方向の、双方向の生存にきっとなりえるのだから。アラウンド、アンド、アラウンド。今夜二人で眠るときには、部屋中の電気系統を破壊してしまおう。そして、そんなもののことは忘れてしまうのだ。フィラメントなんてきっと互いの顔を眺める役には立ちはしないよ。



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