赤星の引退が、私の耳に飛び込んできたのは、師走でクソ忙しく働いている時でした。
静寂の中、パソコンのキーボードの音がカシャカシャとあちらこちらで飛び交う中「うそ!赤星引退やって!」と同僚が声を上げたわけで。
それを聞いた私は「冗談はええから、早く終わらせて飲みにいくぞ」と言い返したのですが、「ほんまやって」と真剣に言い返してくるので、私もパソコンをチェックすると、本当に引退の記事が掲載されていたわけで、正直驚きました。
引退を知った時の感想としては「遂に来たか」という感じでしたね。体の状態が相当悪いのは、阪神ファンなら誰もが知っていた事でしょう。ですので、「来年赤星が1年間働くのは無理」という過程の中で、「誰を赤星の代役に据えるのか?」という課題を感じていた人も多かったと思います。
そういう感じでしたから、赤星が引退という言葉を出したとしても、不思議ではありませんでした。ショックはショックでしたが、漠然としたショックというよりは、以前から確信していたモノが、急に迫ってきた感じのショックですかね。
赤星が阪神に入団した頃は、俊足系の選手が高波や上坂ぐらいしかいなかったわけです。打撃力に劣る選手達だったので、出塁率が悪かった。足は速くても、出塁出来なければどうしようもない、というやつで、当時監督だった野村氏も、そういう選手達に「考えが足りん」とぼやきまくっていた事を思い出します。
そんな中で、飛び込んできたのが赤星でした。入団時の評価は「足は速いが、非力で打撃力は皆無」という評価でした。しかし、赤星にとって監督が野村氏だったという事が、幸運な巡り合わせだったのでしょう。
非力な赤星に対して、無理に強い打球を求めるより、「とにかく足を活かせ」という事に集約したわけで、それが赤星にとっても、1年目から活躍できる要因になったと思うわけです。
非力だから、スイングが弱い。つまり強い打球を求める事が出来ないので、だったら転がす事に集中しようと。バットを短く太いものにかえ、当てる確率性を高める事と、三遊間に転がす事を徹底して行い、「足」という武器を1年目から活かしたわけです。 盗塁するには、出塁率を高める事が当たり前で、そこの課題を1年目からクリア出来たのは、無いモノを求めるより、今の自分の能力で出来る事を追及した結果だったと思う。ようは「敵を知るより、己を知れ」という事です。
そんな己をよく知っていた赤星が、盗塁の数を増やす事で、阪神の戦いの中に「足」という武器が加わったわけです。これが、低迷期脱出の原動力の一因になったと言っても、過言ではないでしょう。
年間60の盗塁数は、クイック全盛の今の野球では、本当にすごい事だと。年間60も盗塁してくれるのだから、ベンチとしては作戦のオプションを立てるうえで、相当助かった事だと思います。攻撃のオプションが増えるという事は、相手も警戒の度合いが増えるわけで、必然的に阪神が試合の主導権を握りやすくなりますしね。
ま〜間違いなく、強くなった阪神の象徴の一人だと思うし、最大の功労者の一人でもあるという事です。
脊髄の損傷というのは、本当に恐い事。体の半身や全身が不随になったり、死の危険性も当然ながら出てくるだろうと。そんな中で、これ以上のプレイは望めない。だから、復帰も望まない。もう、ゆっくり休んで欲しいという事だけです。
ゆっくり休んで、色々な世界のモノを見て聞いたりして、自身の世界観を広げてから、コーチ業なり指導者の道に進んでほしいと思うわけです。
後は、残された者が先人の意志を継いで、先人が残した灯を絶やさない事です。その役目を誰がするのかは知りませんが、赤星は間違いなく新庄が残した灯を、9年間消すことなく守り続けたわけです。無名の新人が行えたという事は、能力よりも、まずは強い意志があるかないか?という事が重要いなると思う。
本気でセンターを奪う気持ちと、赤星の穴を埋める気持ちが強い人間が、センターを守っている事でしょう。
という事で、熱い活気のあるセンター争奪戦を期待しております。

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