酒はバーで飲み、晩飯は家で食べるのが私の通常のスタイル。
友人と飲むときは都心に出かけてしまう。
なので西葛西で居酒屋風の店に入ることはほとんどない。
私をカレーの無限回廊に落とし込んだ、カレーの師匠とも言うべき旧友からメールが来た。
『最近、西葛西が熱いらしいじゃないか。インド人のドンがやっているカルカッタと言う店でカレーを食わせてくれ』
横浜に住む彼がわざわざカレーを食いに西葛西まで出てくるというので、7時に駅の改札で待ち合わせ。ところがどこかで聞きつけた後輩達が『久しぶりに飯を食うそうじゃないですか。なぜ誘ってくれないんですか』と8時からジョインすると言ってきた。
1時間先に食べ始めるのもなんなので、軽くどこかで飲むことに。
ここで思い出したのが
一番下っ端さんのブログ。
一番下っ端さんは肴の萬屋で仕入れ、仕込み、調理をしていて、店のお勧めだけでなく、食の現場から様々なことを書いている。彼のブログに『緑川 雪洞貯蔵酒 緑』が入ったと書いてあったのを思い出したんです。
緑川はサラリとした酒でクセがなく、蕎麦を食べるときなどには丁度いい。蕎麦の風味を殺すことが無いので、蕎麦屋で見つけると一番に頼む酒。『緑川 雪洞貯蔵酒 緑』は緑川らしさを保ちながらも、旨味の感じられる良く出来た酒です。しかし置いてある店はなかなかない。それがあると言うんですから、1時間1本勝負にいかない手はない。

7時過ぎに入った店には既にお客さんがいっぱいで、なかなかの活況です。
お勧めも沢山あって、見ているうちに1時間で出るのが勿体無くなってくる。もうこのまま居座っちゃおうかとも思いましたが、カレーのために横浜から出てきた師匠に申し訳ない。
あれもこれもと食べてみたい気持ちを抑え、頼んだのは生ビール、えご、活ホッキの貝焼き。
『えご』って知ってました?
新潟の味って書いてあるんですが、私は全く知らなかった。ホール担当のお姉さんに聞いたところ、海藻を煮て固めたものだとか。えご草という海藻を大量の水で煮溶かして固めたものらしいです。寒天のようなものかと思いながらも、新潟の味の店に来て『新潟の味』と書かれた物を頼まない訳にはいきません。

見た目は茶色い水羊羹。
ツルツルプルン、とした食感が気持ちいい。
特に味があったりエグミがあったりする事は無いんですが、仄かな風味が感じられる。コンニャクに似ていますが、コンニャクにはこんな風味はない。カラシ醤油で食べるんですが、酢味噌でも美味しいと思う。
食感の良さもあって、これからの暑い季節のツマミとしては良いんじゃないでしょうか。
でも生ビールじゃないですね。本当に淡い風味なのでやはり日本酒が欲しい。
早速、緑川の生酒を頼んでみますか。
ホールのお姉さんを呼んで聞いてみた。しかし『緑川はこの純米だけなんですよ』とのこと。
そうか・・・旨い酒だもの、売り切れちゃうよなぁ・・・残念。
緑川の純米を飲みながら久しぶりにあった友人と四方山話。しばらくすると活ホッキの貝焼きが出てきた。固形燃料に火をつけて、網の上でネギを乗せたホッキを焼きながら食べる。
汁がジクジクと泡を出し始めると食べごろです。
適度に火を通した貝と言うのは、なんでこんなに旨いんでしょう。貝それぞれに違った旨味があって、滋味がある。それが火を通すと活性化して、旨味が増します。貝特有のクセがあるので不得意な人もいますが、そうでなければこれほど酒が進んじゃうツマミもありません。

緑川の純米はサラリとしているから『えご』をツマミに飲むにはいい。だけど活ホッキの貝焼きには弱すぎる。貝の旨味をしっかりと受け止めてくれる酒にしようと、頼んだのは山古志村復興の酒。
中越地震の被害から立ち上がろうとする地元を応援する為に醸された酒。
前から気になっていた酒です。
飲んでみると、旨味のある、しっかりした酒でした。十四代のような重さが無いので、私には丁度いい。あまり旨味が濃くて重い酒だと、料理を食べながら飲む気がしない。酒とがっぷり四つに組むような料理じゃないと合わないし、そんなものばかり食べて飲むのは疲れちゃう。
その点、この酒は旨味はあるがくどくなく、食べ物と一緒になって旨味を支え合うような感じ。火の通った貝独特のクセや旨味とぶつかることもなく、酒もホッキも美味しく楽しめました。
他にも美味しそうなものが沢山あったのですが、後ろ髪を曳かれる想いで待っている後輩達を迎えに行きました。
と、ここまで書いたところで一番下っ端さんのブログを見てみたら、
更新されていて『緑川 雪洞貯蔵酒 緑』はまだあるという。なんでもホール担当のお姉さん方に伝え忘れたとか。
残念だったなぁ。
けど、活ホッキの貝焼きも山古志村復興の酒も美味しかったからいいかな。
『緑川 雪洞貯蔵酒 緑』はまた別の機会にしよう。
カレーが控えていたので、蕎麦ツユを自前の仕込みに変えたという『へぎ蕎麦』も試せなかったし。
個人経営の店で、素材の無駄が出ないように気を使いながら、料理の品数を増やすのには苦労がある。いろいろな地酒の入荷や在庫の管理をするのも大変だ。冷蔵庫での保管や、口を開けてからどのくらい期間がたったか。いろんな気苦労があるでしょう。
安いだけの店や、旨いものを出すけれどバカ高い店はいろいろある。値段を抑えながら、自分の店で手をかけて美味しいものを出すところは案外少ない。
肴の萬屋は、山古志村復興を手伝いたいという気持ちが伝わってくるような店です。そんな店はなかなかない。だからと言って出すものが美味しいとは限らないじゃないか、という人もいるでしょう。それはそうですが、こういう人たちは少なくとも日々店を良くしようとしているはずだと思います。こういう店には頑張って欲しいと思う。
美味しい酒を飲み、美味しいものを普段着で楽しむことができる店のはずですから。

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