すっぽんだの、フグだの、トリュフだの、いわゆる高級食材を食べに行くときは多少のお金は惜しまないことにしている。今まで中途半端な金額を惜しんだ為に何度後悔したことか。
それでもお金を惜しまないと言っても限度があるので、そうそう高級食材は食べられるものじゃない。でも、それはそれでいいと思っている。身の丈にあった美味しい生活をしていれば事足りる。
普段の生活の中で工夫をし、手間を掛ければ、案外と美味しい生活は出来るもの。
高級食材食べたさに中途半端な出費をして3級品を食べたところで、本来の味わいを堪能することは出来ない。フカヒレなら何でも美味しいと言う訳ではない。掌の半分もない毛球ようなフカヒレを食べても、フカヒレ料理本来の美味しさを味わったことなどにはならない。例えそれが1000円だとしても、そのために払った1000円は無駄金です。
安物買いの銭失い。
それでも稀にいい意味で期待を裏切られることがある。
最高級品のシビレルような旨さではないものの、きちんとした料理だなぁと感じることがある。そんな時は得した気分になるものです。
つい先日、友人からすっぽん鍋の誘いを受けた。
今年の冬は暖冬予想が大ハズレ。めちゃ寒いので鍋の誘いは嬉しい。
どれくらいかかるものかと話していたら、友人本人が予約した訳ではないと言う。予約した人の話によると3〜4人前で1万円しないらしい。しかも予約した人も含め、誰もがその店は初めて。
話しているうちに2人とも気乗りがしなくなって来た。
一抹の不安はあるもののせっかくの話だからと、結局行くことにした。

店の名前は『味たかね』。
住所は
中葛西3−15−11。
すっぽんを食いに行くというので、てっきり割烹かと思っていたら、思いっきり居酒屋さんだった。
店内に入ると壁に品書きがいろいろと貼ってある。八海山と季節の料理で2000円とか、そのどれもがお手頃価格。確かにすっぽんコース(3〜4人前)9800円と書かれている。
期待と不安が半々。
コースの内容は、生き血、生肝、丸鍋、丸雑炊。
生き血や生肝と書くと泥臭さや癖があって食べにくそうだけど、きちんと処理されたすっぽんは変な臭味などありません。
丸鍋、丸雑炊とはすっぽんの丸い甲羅が由来の名前。よく育ったすっぽんを上手く鍋にして貰うと、最後の雑炊が半端じゃなく美味しい。すっぽんは良い出汁が出るからね。


肝と正肉の刺身。久しぶりに食べた生肝。この店のすっぽんの肝と比べると、牛のレバーのほうが癖があると思ってしまうかも知れない。かなり淡白な感じだった。
心臓はいつまで経ってもトクトクと動いています。気味悪がって若い人達の箸が伸びなかったので、私が頂きました。いかにも筋肉。コリッとした食感が良い。
正肉は馬刺しに近い食感と味わいと言えば想像しやすいだろうか。脂肪の旨味がないので馬刺しよりアッサリとした感じ。
生き血は焼酎と林檎ジュースで割ってあった。飲んでみると、ほとんどジュース。潰したのは1匹だけだから、1人分の生き血はたいした量ではない。
生き血はワインで割ったり、アルコールの強い酒だけで割ったりする店が多い。それだと酒が余り強くない人は飲みにくいからと言うことで、林檎ジュースで割る店が増えたのだそうだ。
飲んだことのない人は気持ち悪いと言うけれど、実際に飲んでみると全く血の味なんかしません。
丸鍋が出てくるまでに少し時間がかかるというので、普通の刺身の盛り合わせを貰いました。
魚は価格を抑れば値段相応になる。これは仕方がないですね。
すっぽんを食べに来たという意識が邪魔をして、手頃な価格で出してくれる店だと言うことを忘れがちになる。
この盛り合わせは充分良心的です。
これだけで随分と酒が飲めるな。
丸鍋が出てきました。
具はすっぽんと焼きネギに椎茸。この鍋を見て店を見直した。
丸鍋には焼きネギ以外の具は入りません。椎茸もいらないくらい。
すっぽんを調理する時にはコークスを使い高温で一気に炊き上げる方法が有名ですが、実はそんなことをしている店はほとんどありません。
京都で330年余り、すっぽんだけを出している『
大市』がこの方法で丸鍋を出します。2000度にもなるコークスの火で一気にすっぽんの旨味を抽出する。
純粋にすっぽんの旨味だけを賞味するので、それ以外の野菜は不要です。
でもこの方法を取れるのは大市だからこそです。それこそ300年の重み。
100年に渡って大市用のすっぽんを養殖している養殖家や、高温に耐え得る鍋を作る陶芸家がいてこそ出来る調理。
そこらの土鍋をそんな高温に毎日晒したら、あっと言う間に割れてしまいます。
なので割烹などでは長時間煮込むところが多い。
備長炭を使って高温にすると言っても、2000度にはなりません。そこで灰汁を取りながら2時間ぐらい煮込むことによってすっぽんの旨味を全て引き出します。
大市もそうですが、すっぽんだけを味わうので余分な出汁は引きません。水と酒、少量の醤油、生姜の絞り汁。これだけです。
店によっては灰汁取りも兼ねて昆布を入れるところはあります。
でもこの方法も、料亭や割烹など予約を取る店でしかお目にかかれない。
普通の店だと注文を受けてから2時間も炊き続けられませんよね。お客さんが帰っちゃう。
普通の店で食べるとどうなるかと言うと、テーブルのコンロに捌いたすっぽんと出汁を引いた土鍋が置かれて、葉物野菜がたくさん出てきたりします。他の鍋物と同じように調理してしまう。昆布だけでなく、鰹節で引いた出汁を使う所もある。
これじゃ丸鍋ではなくなってしまいます。
丸鍋は、あくまでもすっぽんだけを味わう物。
味たかねの鍋を見て感心したのは、普通の鍋物にしていなかったから。
テーブルにコンロはありますが、調理場で調理した熱い鍋を持ってきます。
そして具は焼きネギと椎茸だけ。
丸鍋を出そうとしている。
雑炊に入る前に、白菜でも食べますかと聞いてくれた。
これもすっぽんを食べ終えたから聞いたのでしょう。
すっぽんを食べている間は葉物は出てきません。
普通の店ではただの鍋物として出てくる場合が多いのですが、それはそれで美味しいものです。丸鍋ではなく鍋物として食べるのであれば、白菜がたくさん入っているほうが美味しい。だから初めは野菜が入ってないのかと少しガッカリした。
只の鍋物が出てくるのだとばかり思ってましたから。
でもこの店は丸鍋を出したいのですね。
余分な出汁の入っていない味付けでそう感じました。


すっぽんって言うのは、見た目と違って何でこんなに上品な味なんでしょう。
酒、生姜、ネギで癖は完全になくなっている。
旨いです。
骨のまわりの肉を食べ、頭や甲羅の縁を食べる。甲羅の縁はエンペラとよばれ、コラーゲンの固まりです。コラーゲンの最も効果的な摂取方法は経口摂取、つまり食べ物として摂ることです。
すっぽんは女性には抜群に良い食材なんですよ。
すっぽんを食べた後にはお決まりの丸雑炊で締め。
残念なのは、雑炊にした時点でやや中途半端な印象が残ること。
丸鍋を出そうとしていることは嬉しいことなのですが、大市の丸鍋と料亭の丸鍋の中間を行くような格好だからでしょうか。正直なところ、上品なのに力強いすっぽん特有の旨味はもっと突き抜けていたはずだと感じます。
すっぽん鍋の華とも言うべきはこの丸雑炊なので、ちょっと残念。
とは言うものの、4人で9800円。
1人6000円ぐらい払っても只の鍋物にしてしまっている店も多い中、この値段できちんと丸鍋を出してくれる。いいじゃないですか。
普段使いするには充分です。お釣りがきます。
そもそも丸鍋なんて普段は食べられないんだから。
なんだかんだ言っても、すっぽんは美味しいです。

オマケの写真。
すっぽんの頭。
丸鍋に入っている頭をしゃぶった後はこうなります。縁起物として、頭と甲羅を持って帰る人もいます。
この日の同行者は持って帰りました。
グロテスクですか?
でも頭の肉をほじくって食べると、これまた美味なんですよ。
面倒だから、本当は余り好きじゃないんですけどね。

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