私はとんこつラーメンよりも醤油か塩が好き。
とんこつが旨くないというわけではないんです。
旨味が濃すぎて、もはや私には重過ぎる。
重すぎると思うなら完食完飲しなければいいんですが、美味しいものを出されたらどうしても残せない性格でして。
コッテリしたものは好きなほうなんですが、最近のとんこつラーメンはいろんな旨味を重ねすぎているように感じてしまう。濃い味を求める客が多くなる中で、独自色を打ち出そうとして行き過ぎてしまっていないか。
とは言っても実際はそう感じ始めた数年前からラーメンをめっきり食べなくなってます。思い出したように
一之江の二郎には行くわけですから、全く食べないわけじゃないんですけど、かなり少なくなった。
だから『最近の・・・』と言うのは、雑誌やテレビを見る限りと言う断りを入れなきゃダメですね。
絶滅寸前の東京醤油ラーメン派である私に、ある人が新小岩の店を教えてくれた。
この人が勧める店で大ハズレになることはない。
しかし新小岩まではそうそう行けるもんじゃないので今まで訪問せずにいました。それを思い立って行って参りました。
自転車で新小岩まで。
行ったのは匠屋。
住所は葛飾区新小岩4−8−1。新小岩駅手前の右に入った
この辺です。
いちおう商店街なのですが、普通の住宅地と大して変わりはない。
そんな場所なのに、大した繁盛店です。
ラーメン好きの方にはたいそう有名な店だそうで、某テレビ番組がこの店の醤油ダレを借りに来たという。
数量限定の塩ラーメンもあり、こちらには南高梅の梅干が入ると聞いた。
そのほかにも味噌やらマイルドやらとラーメンの種類があります。
こだわり醤油ラーメンに煮玉子を追加しました。
手前が白っぽく見えるのは湯気です。
熱々での登場ですね。
色が随分と黒っぽい。
見た途端に、こりゃかなり醤油辛いのかと思ってしまいました。
その昔、東京のうどんは醤油がきつ過ぎて丼の底が見えないと言われていたのを思い出してしまった。関西人からすると、あんなものは飲めないと言われていた関東の醤油味です。
ところが、これが全くもってスッキリしているんです。
とにかく香りが良い。鶏や豚の臭みが全くない。香る程度の醤油の匂い。
はじめにスープを口にしたときは、スープストックをキチンと取っているのか疑うくらいあっさりと感じた。拍子抜けするくらい。
スルスルと飲めるスープ。色から想像した醤油の角なんか、まるで感じない。
麺を食べてみようと引き上げると、これまたビックリ。
写真に写っていませんが、細い縮れ麺なのですが平打ちです。
どこかのカップ麺にこんな形状の麺がありました。
この平打ち細縮れ麺が程よくスープと絡むんです。
茹で加減や柔らかめですが、かん水臭くない麺で美味しい。
量もそこそこで、食べでがある。
半熟の煮玉子ですが、もともとは固茹でだったのでしょうか。
ちばき屋のおかげか、煮玉子は半熟に限ると言う意見はよく聞きます。
この店に対するコメントでも煮玉子が半熟でないのが残念とか、固すぎるというものを見かけるのですが、私が食べたものは半熟煮玉子でした。
客の意見を取り入れて変えたんでしょうかね。
チャーシューは柔らかく、シットリしている。
巻いたバラ肉を程よく茹で上げてあり、脂の抜け具合も良い。
煮過ぎて旨味も肉汁も抜けてしまっているパサパサのチャーシューとは違います。
スープに良くあっています。
それに対してメンマは味気ない。
ほとんど味付けされてないか、味付けされているとしてもスープのコクに完全に負けている。
若布が入っているのですが、最近の若い人は海草を食べませんからどうなんでしょう。私は美味しく頂きました。若布という食材は結構癖が強いものですが、やはり醤油の力なんでしょうか、他の具から浮いてしまうことなくスープの中で調和している。
こだわり醤油というだけあって、この醤油ダレの力はすごいです。
フジトラの醤油を使っているそうですが、フジトラ醤油を作る大高醤油は江戸時代から200年続く醤油蔵です。地道に昔ながらの醤油を作っていて、質にこだわる。アレルギー対応の醤油も作っています。この醤油を知ったのは、松翁と言う神田の蕎麦屋が酒を仕入れている
神田和泉屋で扱っていたからでした。
神田和泉屋は売れればいいという仕入れの仕方をしません。
店主が見て、飲んで、食べて、作り手が信頼できると思うものだけを扱います。だからこの店に行けば、まがい物を掴むことはない。
もちろんこの店で扱っているものだけが本物と言うわけではありません。店主の好みもあるし、日本国内全ての蔵を知っているわけでもないでしょう。でもまがい物がないのであれば、あとは買い手の好みに合うものを見つけるだけで良いんです。
そこで扱っている醤油の一つがフジトラでした。
醤油ダレはただの醤油ではないので、仕込があります。タマネギ、長ネギ、味醂、塩、砂糖、椎茸、チャーシューの煮汁など、いろいろなものを煮込んで漉したりするのが一般的です。
最終的にスープストックとあわせたときにどのようなスープになるか、店主のイメージするラーメンの姿によって仕込が変わる。
匠屋の醤油ラーメンのスープは、スッキリしている。まろやかな旨味が具と麺をまとめ上げているので、ガンガン食べてスルスル飲める。それでいてきちんとしたコクを感じることが出来ます。
それは、醤油ダレもスゴイですがそれだけじゃなく、その良さを膨らましているスープストックがあるからです。
クセを出さずに旨味だけを出し、コクも与える。旨味が単純じゃない。
豚骨、鶏がら、モミジ、貝柱、その他沢山の旨味が溶け込んでいるはずなのに、全然くどい旨味じゃない。
しかし本当に美味しいなと思ったのは店を出た後でした。
久しぶりの旨い醤油ラーメンを堪能できたと満足しながら自転車を漕いでいる時に気が付きました。口の中に旨味が残っているのです。
変な中華料理屋で旨味調味料を使いすぎた料理を食べた後に感じる、まとわりつくような嫌な後味ではありません。
口の中が、舌が、味蕾が、未だ種々の旨味に酔っている様な感覚。
それがサラリと消えることなく、口の中に残っている。
ワイン評論で言うフィニッシュが、恐ろしく永くて素晴らしい。
ラーメンを食べてここまで満足したのは本当に久しぶり。
良い店を教えてもらいました。

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