最近、やっとネット上でデリーダルバールのことを見かけるようになってきました。
カレー好きのブロガーの方々も注目してくれているようで、この店のファンとしては嬉しい限り。
昨年から南インド料理がブームになっているので、その流れのなかで注目されている感じ。
でもインド宮廷料理やムスリム料理の第一人者であるモハメッド・フセイン氏が腕を振るっていた店としての顔も持つのだから、北インドのカレー調理技術にも注目して欲しいと思います。そうなるためにはさらに食材の質を上げるとか、または価格改定をしながらお客さんを掴むとか、いろいろとハードルはあるのでしょうけど。
今回は3か月ぶりの訪問。
南インド料理のミールスを食べに来ました。
フセイン氏直伝のインドカレーもいいけれど、今のシェフであるスブラ・マニアン氏の南インド料理も勿論おいしいのです。
頼んだのはマドラスターリーセット。
手前から時計と逆回りに、ラッサム、サモサ、ケチャップ、サンバル、ポリヤル、カード、マンゴープリン。真ん中はご飯。
写真の他にプレーン・ドーサとチャトニがついてきます。
ラッサムは酸味のあるサッパリとしたスープのようなもの。
サンバルは豆と野菜を煮込んだちょっとポッテリとした優しい味のカレー。
ポリヤルは野菜のスパイス炒め。
カードは自家製のヨーグルトです。
いわゆる南インドの『ミールス』ですね。
でもこの店では北インド式の『ターリー』という表記になっている。
ミールスとは、いろんな南インド料理が盛り込まれた定食です。一般的に北ではターリーと呼ばれ、南ではミールスと呼ばれます。ミールスという場合にはラッサムとサンバルは外せないと言われる。
デリーダルバールの店主によれば『ミールスという言い方はイギリス支配が長かったせいでの英語表記。マドラス風インド料理をターリーという名のお盆のような器に盛り込んで提供するのだから、ウチではターリーという言い方にしています』とのこと。
もともと北インド料理を得意とする店主らしい考え方。
カレー伝道師の異名を持つ渡辺玲さんによれば、南インドのマドラスに行くと
ボンベイミールスという物があるらしい。ボンベイ(北インド)風のカレーを盛り込んだミールスなのだそうだ。
北インド料理が得意な店が
マドラス風料理を
ターリーのなかに盛り込んだのが
マドラスターリー
マドラスのインド料理店が
ボンベイ風料理を
バナナの葉の上に盛り込んだのが
ボンベイミールス
南インドではバナナの葉を使うのが主流だが、勿論ステンレス製のターリーを使うことだってある。つまりターリーを使うかどうかは呼び名が異なる要因ではない。ボンベイ風料理にはラッサムやサンバルは入らないから、これもミールスと呼ぶには必要不可欠なものというわけではない。つまり一般的に、定食のことを北ではターリーと呼び、南ではミールスと呼ぶということでしょう。
出てくる料理がしっかりしていれば、日本人である私にとってはどちらの呼び名でもよい。
マドラスターリーを頼んだら、真ん中にご飯だけ残してターリーの中からカトゥリという小さなカレーの入った器を全部外に出しましょう。空いたスペースにそれぞれのカトゥリから好きなカレーを盛りつける。そしてご飯と混ぜ合わせて食べれば、窮屈な思いをせずに食べられます。
さらにラッサムとサンバルをターリーの中で混ぜてご飯と合わせたり、ポリヤルとサンバル、カードとポリヤルなどいろいろと好きなように混ぜながら食べてみてください。
カードというヨーグルトをご飯にかけるというと初めての人は気持ち悪がりますが、これも結構いけるんですよ。
ドーサというクレープのようなものも出てくるので、これは手でちぎって好きなカレーをつけて食べましょう。このドーサと言う食べ物は生地を発酵させるので、発酵による酸味が浅いときと進んだときがあります。早い話、たいして気になるほどのことではないけれど、厳しい言い方をすれば味にばらついきがあると言うこと。
でもこの立地では仕方がないと思っています。
適度に発酵したものだけを出そうとして努力していますが、なんにせよドーサを頼むお客さんの数が一定しないため仕込みの量を決めるのが難しい。早い時間にどかどかと頼まれるとどうしても発酵の浅いものが出てしまうし、夜の遅い時間では逆に発酵が進んで酸味の効きすぎたものになることはある。
ブレ自体は客である僕にとっては充分許容範囲なので、全く文句を言う気になどならない。むしろ気にしているのはスブラ・マニアン氏と店主で、それだけ自分たちの供する料理の質を維持しようと心がけているということなのでしょうね。
これは客である私たちにとっては良いことです。
こちらは別の日に単品で頼んだキーマドーサ。
ドーサの中身は鶏挽き肉とタマネギのスパイス炒め。
一緒に器に入っているのはサンバルとココナッツチャトニ。
サンバルは豆と野菜の優しいカレー。
食べるとなんだかホッとする感じがします。
インドの味噌汁と言われるのも分かる気がする。
白いのはココナツチャトニで、これはがまた美味しいんです。
いわゆるチャツネと呼ばれる、果物を甘く煮詰めたような市販のものとは違います。
インドでスナック類を食べる時につけるタレの様なもので、ココナッツの他にミントを使った爽やかなものや唐辛子を使う激辛チャトニ、トマトのチャトニなどがあります。
店ではココナッツチャトニしかないですが、これがあるとないとでは大違いなんです。
ほんの少し酸味を感じるクレープのようなドーサの皮。
それで中の具であるキーマを挟み、ココナッツチャトニをつけて食べる。
サンバルに浸して食べる。
ドーサだけ食べる。
美味しいです。
単品で頼んだチャナマサラ。
北インドのひよこ豆のカレー。
マサラは普通のカレーよりもグレービー(カレールーのようなもの)が濃い料理です。
このチャナマサラはかなり辛い。
かなり辛いですが、かなり旨い。
浅めに炒めたタマネギはシャクシャクとした食感を残しているのに甘みがある。
ひよこ豆のホクホクした食感と合わさるとなんとも言えない。
濃厚なグレービーはトマトの旨味が凝縮している。
美味しいです。
南インド料理を出し始めた当初の3人の料理人のうち1人は日本の水が合わなかたらしい。
現在は2人で厨房を回しているが、始めた当初よりも料理はすんなりと出てくる。
半年経って、週末などは満席にもなるようだ。
本物を出せば遠くからインド料理好きが足を運んでくれる。
非常にありがたい話。
そんな人達も大切にしなくてはいけない。
ちょっと偏ったオタクのような人達も来てくれるが、彼らは遊牧民のようなもの。
店に定着してくれるとは限らない。
やはり地元の人に美味しいインド料理を食べてもらいたい。
でも変なアレンジはしたくない。
しかし本物を出して普通の日本人に受け入れられるのかどうか。
相変わらずジレンマを感じているようだった。
大丈夫ですよ。
美味しい料理には人は集まります。
『美味しい物を出していれば問題はない』などと言うほど飲食業が甘くないのは知っていますが、まずは美味しい物ありき。
そうすれば食べた人は友人に紹介し、人の輪は広がっていきます。
現に私は何人の人にも話してますもの。
そのうち何人かは確実に来ていますから。
それがネズミ算式に増えていけば大繁盛ですが、そう簡単にもいきませんよね。
店の経営的なことに口を挟むほど愚かではないから、何も言いませんし言えません。
でも私は、この店の料理が美味しいということは声を大にして言えますよ。
久しぶりに伺ったデリーダルバールは、やはりいい店でした。

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