今年食べたカレーのなかで一番印象に残っているのが押上にある Spice Cafe のチキンカレー。
江戸川区や江東区の北側とか墨田区というところは、西葛西から交通機関を利用して行こうとすると意外と行きにくい。バスを利用するか、電車だと一度都心に出なくてはいけない。半蔵門線が延びて墨田区には行きやすくなったが、門前仲町で乗り換えようとすると都営線を挟むので運賃が高い。
高いと言っても知れているのだが、例えば1000円もしないカレーなどを食べにわざわざ出かけるとなると運賃の方が高くなってしまい、なんだか馬鹿をみたような気がする。
結局今まで通り、日本橋から都営浅草線になる。
この店に初めて行ったときは土曜日だった。
一応商店街らしき通りから少し外れた
場所にあるので、最初は店が分からなかった。
遠目から店らしきところをやっと見つけて近づいて行くと、前を歩いていたおばさん2人組も同じ目的だったらしい。
おばさんたちが店の中に案内された後、待っていた私のところに来たスタッフが『申し訳ございません。2時間ぐらいお待ちいただくことになってしまうのですが』だって。
おいおい、今ここで食べている人は全員がこれから2時間もカレーを食うのか?
今入っていったおばさんと俺では2時間も差が出るのか?
西葛西から押上は遠いんだよ。
それなのに前のおばさんが直ぐ入れて、何で俺は2時間待ちなんだ。
この日は、むくれて帰ってきました。
西葛西から来たのは私の勝手だし、むくれることもないのだが。
後から分かりましたが、週末のランチは予約で一杯になってしまうらしい。私の前のおばさんたちは予約組みだったのでしょう。それを知らずにフリーで来た私は2時間待ちとなったわけです。


店の入り口は左の写真のような外観。とってもカレー屋があるとは思えない。
ガレージのような場所の左端に通路のようなものがあり、その奥には右の写真のような空間が広がっている。
こんな造りになっているのには訳がある。
建物はお婆様の持ち物である、築30年だかのアパート。もう取り壊すようなアパートを改築再利用した。しかも業者に頼まず、基本的に自分の手作り。その様子は店の
HPの初めの頃の日記に書かれています。
店の奥には植え込みの庭を作って、店で使うハーブやベリーを植える。
ハーブはやはり摘みたてが良い。ベリーは手間もかからず育ってくれる。
摘みたてのハーブを使ったハーブティーを食後に出して、デザートはこれも獲りたてのベリーが枝ごと出てくる。
食事をしていただく空間は自分で作って、下町らしい木の温かみのある空間にする。
近所の人達がふらりと寄ってくれて、美味しいカレーを食べた後に珈琲を飲みながら本をめくる。
そんなお客さんとの他愛もない会話。
大好きなカレー談義。
商店街からも外れ、店は細い路地の奥まったところ。
そんな立地でお客さんが来てくれるかどうか分からないけど、店主が作った空間で、店主が一生懸命作ったカレーを食べてもらい、交流の輪が広がっていったら楽しい。
そんな思いで作った店。
実はこの店が開店する前から、店のことは知っていました。
偶然にHPを見つけたからです。
徐々に出来上がっていく店の記録をたまに見ていました。
この店主はビジネスをしているんじゃないんですね。
自分の好きなように暮らしていきたい。
そして自分の好きなこととは、自分の出来ることで周りの人をもてなすこと。
こんな感じで店を始めた人は他にも一杯います。そしてことごとく潰れていく。
飲食業は甘くない。
でもこの店主はラッキーでした。
古屋の再利用と言うテーマで地元のメディアが取材に来た。
廃屋同然のアパートを自分で再生し、飲食業を始める。
テーマは地元との共生で、地元の手仕事職人や若い芸術家のために無料でスペースを解放している。
地元活性化と古屋の再利用を取材に来たクルーは、出されたカレーが美味しいのに驚く。
この取材をきっかけに、メジャー誌でも取り上げられるようになる。
ラッキーでしたが、もちろんそれだけじゃない。
そもそものカレーが美味しいから、巡って来た幸運を掴むことが出来た。


チキンカレーには良く煮込まれた腿がまるごと入っている。
身離れもよく、骨付きでも食べやすい。
良く煮込まれているが、スカスカになんかなってはいない。
ココナッツミルクが効いているのだが、タイカレーのようにミルクがいっぱいという風味ではない。ココナッツの香りと甘みがカレーに厚みを加えている。野菜とは違ってココナッツの甘みはコクがあるので、薄っぺらな味にならない。
スパイス使いは基本的に南インドだ。
やや辛めに仕上げてあるのだが、嫌味な野菜の甘みがないのでキリッとまとまっている。それでいてコクと旨味のある美味しいカレーだ。


ラムカレーは定番のなかでは一番辛い。
といっても辛さの質はチキンカレーとは違う。チキンカレーが唐辛子の辛さならば、ラムカレーは黒胡椒の辛さ。ホットなのではなくスパイシーだ。
このカレーにもココナッツミルクが使われているが、ほんの隠し味程度と言う使い方なので、気がつく人は少ないだろう。
カルダモン、クローブが効いた香りは爽やかさもあり、ラムの風味にあっている。
ラム肉にはクセがあるという人が多いが、私個人はラム肉にクセは感じない。マトンは癖があると思うが、ラムのそれは個性的な風味だと感じる。なので気になることはないのだが、ラム肉を好んで食べない人でもこの店のラムカレーは美味しく食べられると思う。
シッカリと肉の味を噛み締めることが出来るカレー。


本日のカレーで出てくるラッサムスープ。
ラッサムとは酸味と辛味のある南インドのトマトスープのようなカレー。豆を煮込んだサンバルとともに、日本人にとっての味噌汁のような感覚で日々食べられるもの。他のカレーと一緒に混ぜて食べたりする。
本来はスープ状のラッサムを、単品でカレーとして食べられるように濃度をつけて作ってある。
タマリンドというマメ科の木の黒褐色の果肉を水に浸して揉むと、酸味の強いエキスが出る。このタマリンドの酸味とトマトの酸味は酸っぱさの質が違うので、あわせて使うことで奥行きのある味わいになる。
本来はスープ状のものをトマトで濃度をだし、辛味を加えることによってクセになる味を作り出している。南インドらしく、きちんとカレーリーフと言う葉っぱも使い香りをつけている。
具はほとんどないが、添えられた小松菜と一緒に食べると美味しい。
これからの暑い季節にはぴったりのカレーだ。
どれも南インドカレーなのだが、この店独自のアレンジがしてある。
正確には南インド風カレーというべきだろう。
このアレンジが如何にも日本人好み。ご飯が美味しく食べられるカレーなのだ。
そして肝心のご飯は硬めに炊かれていて、ご飯自体が美味しい。
私にはこれが嬉しい。
現地のインド料理をそのまま持って来るインド料理店も良いが、ご飯が美味しく食べられるカレー屋も大好きです。
基本のインド料理からは決して外れてないけれど、日本人が好きなご飯を中心に据えている。
こんなカレー屋が近くに欲しい。

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