みなさま如何お過ごしでしょうか。
ブログの更新をしなくなってから1年が経過しました。
更新しにくくなっている理由を書こうと思いながら、実はすでに2年近く経っています。
しかし、いまでもコメントを寄せてくれる方がいる。
閉店情報を載せてくれる方がいる。
このまま自然消滅では申し訳ない。
今でも立ち寄ってくれている方々に、せめて更新しにくくなった理由と経緯についてご報告しておこうと思いました。
以下の記事は、今年の8月に下書きしたもの。
何度も手直しをしながらも、これまでアップしていませんでした。
思うところがあって、踏ん切りがつかなかったのです。
しかし今更ながらですが、公開することにしました。
今回と次回をもってこのブログの更新は最後とします。
いままで長い間ありがとうございました。
RAMBLEはフードメニューのないバーだったのだが、3年ほど前からカレーを出している。
はじめはハーフサイズのミニカレーだった。
飲みながら小腹が空いたときに食べるのでハーフが丁度良いのではないかと思われた。
なかなか好評で、ダブル、トリプルと一度に頼む人が続出した。
要するにハーフでは足りずに1人前や大盛を食べるのだ。
そしていつの間にはハーフはなくなって、みんな普通に1人前を頼むようになった。
実はこのカレー、あることがキッカケとなって僕が作っていた。
それはRAMBLEのお客さんが集まって開いた
カレーパーティ。
何かの拍子にみんなでカレーを持ち寄って盛り上がろうということになったのだ。
同じバーモントカレーを使っても家によって味が違う不思議。
それでいて皆が懐かしい味だと思う魅力。
そんな不思議な魅力のあるカレーをそれぞれが持ち寄って楽しもうという趣旨。
1人はバーモントカレーを、他の人はそれぞれ自作のカレーを持ってくる。
その時に作ったチキンカレーが好評で、また食べたいから作って持って来いというリクエストがきた。
初めのうちは仲間内のお遊びだった。
作る僕だって、時間のあるときに4人分ほど作っていただけ。
『公式メニュー』じゃないので、出せないときが多い裏メニューだった。
材料費程度を出してもらって趣味の範囲で作っていた。
でもカレーの香りは人を誘う。
店の中で誰かが食べれば、香りにつられて頼む人が出てくるものだ。
『カレーは私も頼めるんですか?』
そう聞かれると断る理由は無い。
マスターも
『僕が作ってるんじゃないんですよ。だから美味しいんですけどね。』
などと冗談を言いながら出していた。
そのうちにドアを開けるなり
『今日はまだカレーある?』
なんて言いながら店に入ってくる人が現れるようになった。
自分の為に作っていたから必要以上に手間もかけたし、材料も良いものしか使わなかった。
商業ベースで作っていたわけじゃないのが逆に良かったのか、知らないところでカレーのファンが広がっていく。常連さんがたまに食べていたのが、いつの間にか毎日出るようになる。
日本を代表するホテルの厨房にいる人が、これだけ手間も材料もかけているのなら1400円は取るべきだと言ってくれる。某有名芸能人のマネージメントをしている会社の社長がイベントのときに出張しないかと声をかけてくれる。
例えお世辞でも嬉しい話。
でも商売としてやっているわけではないので、それもこれもお断りした。
そんな自信は微塵もないからだ。
そうこうしているうちにRAMBLEはいつのまにか『
モルトと実はカレーの店』になっていた。
誰かが冗談で『週末の昼下がりにカレー食いながらビールが飲みたい』と言う。
ならば週末だけランチでもやってみようか。
RAMBLEのマスターにすれば常連さんへのサービス、僕にしたって辛口コメントでカレーの質を引き上げてくれた皆への恩返しのようなもの。
でも週末だけとは言え、仮にも昼に店を開けるならそれなりのものをコンスタントに出さないと店に迷惑をかける。準備に時間をかけ、仕入先を確保し、打ち合わせもした。
マスターも僕もこのあたりから意識が変わってきたように思う。
レシピを固め、週末に手伝いに入っていた若いバーテンダーを昼にシフトした。
実際に週末の昼に試運転を始めると、常連さんだけでなくフリーのお客さんも入ってくる。
そうなると僕が趣味で作るだけでは追いつかない。
『趣味で作ってんだから固い事言わないでよ』といって今までのように笑っていられなくなる。
もう僕のカレーじゃなくて、RAMBLEのカレーとして独り歩きを始めている。
レシピの提供はもちろん、タマネギの炒め方から若いバーテンダーに教えないといけない。
こうなったら志を持たないとやっていけない。
美味しいものを提供しよう。
今まで通り食材を選ぶ。
手間もかける。
安さを売りにするよりも、手が届く範囲でちょっと贅沢なカレーを出そう。
スタンドカレー屋ではなくBARが出すカレーなのだから、ただ安くて量があるだけでは意味がない。
安くてお腹一杯になるカレーは、なにも僕たちがやらなくてもいい。
もっとシッカリと対応出来る大手の飲食店がある。
モルトにこだわり、シガーを揃え、カクテルに真剣に向き合うBARがカレーを出すのだ。
今までと違うことを始める必要なんかないけれど、今まで以上に真摯にカレーと向き合おう。
週末だけじゃなくて平日もランチをしてくれと言う要望もあった。
西葛西に住んでいる人は週末は都合がいい。
でも西葛西で働いているお客さんには不都合だ。
平日組からの要望は嬉しいことなのだが、ここまでやると完全に『お手伝い』や『趣味』ではなくなる。
このあたりから僕はブログが書きにくくなった。
経緯を知っている人たちや僕自身の意識の中では、僕はあくまでもバーカウンターの外の客のつもりなのだが他の人たちから見れば僕はカウンターの中の人になっている。
つまり飲食を職業としていないのだが、第三者からはそうは見えないのではないか。
だとしたら他の店について何かを発信するというのは僕の心の中で折り合いがつかない。
他の店の良いところを書いていく分には不都合はないじゃないかと言ってくれる人もいたが、読んいる人がどう思うかも考えないわけにはいかない。
ブログの更新が滞り始めたのはこの頃からだ。
そんなことを考えているときに雑誌『サライ』編集部から唐突に電話がきた。
『カレー特集を組むので取材をさせて欲しい。』
電話を受けたマスターは耳を疑った。
マスターから家に連絡をもらった僕も腰を抜かした。
特集の中でBARのカレーも取材したいのだという。
一体なんで僕たちなんだ?
都心に行けばカレーの有名なBARはたくさんある。
何で西葛西のRAMBLEなんだ?
しかもひよこ豆カレーを取材させてくれと言う。
どうしてチキンカレーじゃなくて、あえてひよこ豆なんだ?
いったん電話を切り、頭を整理してから編集部に折り返した。
もしかしたら新手の詐欺かもしれないじゃないですか。
まず最初にATMから掲載料50万振り込んでくださいとか・・・
そんなバカなことを考えるくらい驚いたのです。
だって『サライ』と言う雑誌は小学館のステータス雑誌で、基本的に老舗しか載らない。
その有名雑誌が、
西葛西の地元の人しか知らないBARの、
裏メニュー的なカレーのうち、
さらにマニアックなひよこ豆カレーの取材に来るなんてにわかに信じられない。
いろいろ聞いてみるとRAMBLEのカレーの存在は人づてに知ったのだという。
西葛西にモルトの充実したBARがある。
そこで出すカレーが思いのほか美味しい。
チキンカレーが美味しいが、たまに出るひよこ豆カレーも侮れないよ。
そんな話をする人がいたらしい。
RAMBLEは小さな店だが、いろんな業界の人が来る。
上場企業の役員、歌舞伎役者、メディア関係者。
工務店の親方も来れば、普通のOLさんも来る。
途中下車して店に寄っていく人もいる。
そしてミニカレーを始めてから既に1年以上経っている。
どこをどう伝わったのかは知らないが、口コミと言うのもあるのかもしれない。
それにしても驚きだった。
この申し出には非常に悩んだ。
これで完全に趣味の範囲を逸脱してしまう。
雑誌を見てわざわざ西葛西まで来る人がいるとも思えないが、もしも1人でもいたとしたら失望させるわけにはいかない。
『サライ』にも迷惑をかける。
常に怠りなく準備をしておかなくてはいけなくなる。
そもそも店はそれを望んでいるのか。
しかしいろいろと話し合った結果、取材は受けることにした。
取材したから掲載するとは限らないと言われたが、たとえ載らなかったとしてもRAMBLEにとって好いことである。
僕の立ち位置がカウンターの中なのか外なのかは、僕の中で折り合いをつければ済むことだ。
ミニカレーの頃と比べると店で出しているカレーはずいぶんと変わった。
それは店の客みんなで意見を出し合った結果だ。
次のカレーを楽しみにしている人たちに僕が提案をする。
もっと辛いほうがいい。
辛さの中にも旨味が欲しい。
あんな香りだったらいいのに。
みんなの意見を取り入れながらカレーは変わってきた。
メニューも増えた。
野菜のカレーが食べたい。
牡蠣のカレーはどうか。
蟹のカレーも美味しそう。
基本的にはインドカレーの作り方なので、食材が変わるとカレールーも変える。
しかし日本のご飯が大好きな僕としては、インド料理を作るつもりはない。
これだけのインド人が住んでいる西葛西で、日本人の僕がインド料理をつくる理由がない。
作ろうとしても満足な物に仕上がるとも思えない。
僕達日本人は米が主食。
日本人が食べて美味しいと思うカレーを作ろう。
日本の米を美味しく食べることが出来るインド風カレー。
これこそ自分たちが食べたかったカレーだった。
そんなカレーを作るために、これまでにいろんな人にたくさんのことを教えてもらった。
インド料理店のシェフ。
カレー専門店の店主。
外食産業のカリスマ社長。
フードコーディネーター。
蕎麦屋の主人。
フレンチやイタリアンの料理人。
今まで知り合った様々な方々からアドバイスをもらった。
基本の立ち返るために調理師専門学校の門も叩いた。
その全てを吸収できたとも思わないし、実践できているとも思えない。
それでも美味しいカレーを作るためにいろんなことに悩み、そのたびに相談してきた。
試行錯誤を繰り返した。
3日に一度タマネギを大量に炒めていると、火加減や切り方の微妙な違いで味に差が出ることも分かる。
2日に一度カレーを作り続けると自然と味が安定してくる。
安定してくると違う欲が出て、その欲を満たすためにまた悩みが増える。
そんなことの繰り返し。
もともと趣味で作っていたカレー。
カレーパーティーが発端だったカレー。
実はみんなで作り上げたカレー。
そんなカレーが独り歩きを始めている。
これも何かの巡り合せだろう。
出来るところまでやってみよう。
マスターとそんな話をして取材を受けることにした。
平日のランチも始めることにした。
手が届く価格でちょっと贅沢なカレーを出す。
こういう店が一番危ないのは分かっている。
ビジネスとして成り立ちにくいのは知っている。
でもこれが僕たちみんなが食べたかったカレー。
他の人たちに受け入れられなければ夜だけのメニューに戻ればいい。
もともと商売で始めたカレーじゃない。
失うものなど何もない。
取材の日、美味しいからと言って家で待つ奥様のためにカレーの持ち帰りが出来るかと取材スタッフが聞いてきた。もちろんお金は頂いたが、この申し出は非常に嬉しかった。
取材に来た人が素で美味しいと言ってくれたのだから。
西葛西以外から来るお客さんもちらほら出てきた。
胡散臭い店だと思われていたのかもしれないが、店を覗いて立ち去るのではなく入ってくる人が増えてきた。
昼だけの常連さんが出来始める。
そして江戸川区ウォーカーからの取材。
『広告の依頼ではないんです。取材の許可が頂けないかと思いまして』
そんなことを言われるのは、今でも不思議だとしか思えない。
その後もいくつかの雑誌が来てくれた。
気がつくとブログで取り上げてくれている人がいる。
ランチに限って言えば、三流立地だ。
RAMBLEの通りには他に飲食店がなかった。
サラリーマンの人はルーチェの角は曲がらない。
友人とランチをする主婦たちも郵便局までは来るが十字路は曲がらない。
だからこんな場所でカレーを出している店があるなんて知っている人は少ない。
それでも何度となく来てくれるOLさんがいる。
毎週末の遅いランチを楽しみにしている人がいる。
わざわざ電車に乗って来てくれる人達がいる。
僕たちは取材をキッカケに一歩踏み込むことにした。
飲食で食っているわけではないけれど、もう単なる客だとも言わない。
そうなると、このブログをどうしようか?
まだまだ書こうと思っていた西葛西の店はある。
でも自分が純粋な客だと言わない以上、これまで通りに書ける自信はない。
僕のブログは客側の視点で書いていることが前提だった。
大手チェーンのどこで食べても同じように安定した食事ではなく、店主の顔が見える街場の飲食店を探すことから始まったのだ。
西葛西にいる僕達だからこそ楽しめる店を探していたのだ。
もちろん食べ物には好みがある。
僕が美味しいと思っても、他の人も同じように美味しいと思うかどうかは分からない。
人に勧められて行った店が全て当たりだったなんてあり得ないと思う。
それでも僕の知っている範囲で勧められる食材だったり調理手法だったりすることを紹介するのは、他の人にとっても一つの判断材料になり得ると思って書いてきた。
しかし『勧められる』のは僕が客の立場だったからだ。
自分が食べ物の対価としてお金を頂く以上、他の店の手間や原価について書くことは、例えそれが読み手に良い印象を与える事であったとしても反則のような気がする。
この点はまだ迷っている。
失うものはなかったはずだが、唯一失うとすればこのブログの更新か。
そして更新せずに長い期間が経ってしまった。
このまま自然消滅させてしまおうかとも思ったのだが、いまでも見ていてくれる人達がいる。
コメントを寄せてくれる人がいる。
このまま消えてしまうのは、そんな人達に対して失礼だと思う。
これまでアクセスしてくれる人達がいる事が励みになっていたのだから。
何も言わずに去っていくのは申し訳ないじゃないか。
そんな思いで今回は書いています。
趣味のカレーが発端で、ブログの更新についてこんなに悩むとは思ってもみませんでした。
何度も書こうと思いながら書けずにいた更新停滞の理由。
それは趣味のカレー作りが独り歩きしはじめたことなのです。
独り歩きしはじめたカレーは人のつながりで広がっていき、5月からは木場のバーのランチタイムでも出すようになってしまいました。
商売として始めたのではなかったからこそ、
僕達のカレーは独り歩きするようになったのかもしれない。
それならそれで、好きなように歩かせてみようと思っています。
何かの縁のような気がするから。
でも、そのためにブログの更新が全く出来なくなるかもしれません。
いままでアクセスしてくれていた人達には、この辺の事情はお話しておきたかったのです。

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