Rambleでカレーランチを始めたが、当然の事ながら炊いた全てのご飯が都合よく売り切れるわけはない。夜にモルトを飲んでいると、賄いとして食べるのに何か変わった食べ方はないものですかという話になった。冗談交じりにいろんな冷や飯の食べ方の話になる。
カレー炒飯なんかも良さそうだが、店内で鍋を振ると本業で大切にしているモルトの瓶に油滴が付いてしまう。茶漬けで良いじゃないかという人もいたが、茶漬けだけでは力が出ない。味噌を塗って焼き握りにしたものとか、色々と意見が出た。
そもそも店で使っているお米は山形の農家が農薬使用を随分と抑えて作ったもので、現地の米専用保冷庫に保管してもらっている。その米を必要な分量だけ精米して小分けにして直送してもらっている。
米というと魚沼産コシヒカリが有名だが、実は山形の『はえぬき』もそれに負けず劣らず美味しいのだ。魚沼産コシヒカリは十年以上連続して特Aランクだが、『はえぬき』も魚沼産コシヒカリが特Aとなった翌年から連続して同じランク付けがされている。連続して特Aになっているのはこの2種類だけだったと思う。
炊き立てが美味しいのは無論だが、『はえぬき』は冷めてからも美味しい。おにぎりにするなら私はコシヒカリよりも『はえぬき』派だ。
ランチのご飯に『はえぬきの減農薬、現地保管、都度精米、直送』なんて米を使っているところはほとんどない。はっきり言って割に合わない。
そんな米を使っているのだから、旨い冷や飯の食い方は色々あるはずだ。
その場にいた客みんなで、いろんな食べ方が提案された。
そのときにふと思い出したのが骨董飯。
骨董飯は五目飯とか出汁茶漬けと解説されることがあるけれど、それらとは少し違う。
まぁ同じと言われればそうだけど、骨董飯は骨董飯。
五目飯は汁なしだし、出汁茶漬けの具は通常単品だ。
江戸料理で有名な『なべ屋』の主人によれば、骨董飯とは『あわび、揚げ麩、玉子焼き、シイタケ、松葉、三つ葉、セリを飯上に置いて蒸らし、混ぜ合わせ、汁かけにする』というものだという。つまり五目飯と茶漬けの中間に位置するようなご飯の食べ方。
この食べ方は江戸時代の『名飯部類』という本に出てくるもの。ご飯を炊くときの『はじめチョロチョロ・・・』というのはこの本にも出てくる。この本の現代語訳新書があったのだが、残念ながら今は絶版になっていて手に入らない。
だから骨董飯というのは江戸時代のご飯の食べ方だと思っていた。
江戸の旦那衆が遊郭で遊んで帰る明け方に、馴染みの料理屋を叩き起こし何か食べさせろと駄々をこねたときにも骨董飯が出されたものだと聞いたこともある。だからご飯は冷や飯のときもあるが、出汁と具は奢ったものが入るのだと。
でも韓国でも骨董飯と言うものがあり、こちらは今でもポピュラー。
韓国語に近いのがビビンバなのか、ピビンパプなのか分からないが、あれである。宮廷料理として提供されていたこともあり、混ぜご飯の意味であるビビンバという呼び名ではなく韓国語で『骨董ご飯』という呼び名もあるそうだ。
韓国で骨董飯という名前が初めて文献に登場するのは1800年代末。
名飯部類が出版されたのは1802年。
こう書くと日本と韓国とどっちが本家だなどと言う低俗な議論になりそうだが、もともとは中国が明と呼ばれた1400年代の書に出てくるものらしい。
聞いた事がないから、とにかく作って見せろというので別の日に持って行ったのが上の写真。
いろんな具が乗った茶漬けにしか見えないかも。
簡単といえば簡単なのだが、具材によって出汁の引き方を変えたり、吸い地の味付けを変えたりする。塩梅が微妙に異なるだけで随分と違った味わいになる。
それと冷や飯の場合は、熱々の出汁で一度ご飯を洗うことが大切になる。
ヌメリを取ると同時に出汁を含ませて温めるためだ。
これをするとしないでは大違い。
吸い地はやや薄めの味付けなので飲み飽きることはないようにしてある。なので骨董飯に吸い地を張る以外に別の片口でも供した。具が残ったときに、その具を入れることによって吸い物感覚で飲める。
吸い地を張ったご飯に、たらこ、葉とうがらし、鮭、海苔、三つ葉、山葵を乗せる。
全て混ぜてしまっても良いし、別々に入れて食べても良い。
具材は彩り良く3種から5種類にするものだ。
江戸料理の世界では3原色である赤、青、黄を中心に、白と黒を組み合わせる。
具材に下味をつけたりするのは当然としても、彩りで食べさせるくらいの気持ちで作るものだ。
出汁は薩摩本枯れ節と一等検の利尻昆布でとる。
そこに三ツ星醤油とゲランドの塩、料理専用酒で味付けをする。
具の塩分を考慮して塩は薄め。
無着色、化学調味料無添加の虎杖浜産釣りたらこ。
京都くらま辻井の葉とうがらし。
村上の塩引き鮭のほぐし身。
盤州里海の会が復活させた本物の浅草海苔。
水耕栽培じゃない、畑で作った本三つ葉。
天城の5年物の本山葵。
こんな材料で作ったらムチャクチャ旨いに決まっていると思ったら、出汁が優しく体に染みるように味を決めるのは難しかった。それぞれの具材が主張してしまう。何とか塩梅を決めてほっとする。試食してもらうとなかなか評判が良い。こりゃ二日酔いの昼飯にぴったりだということで、ランチで出したら喜ばれないかという話になってきた。
でもあまりにも材料が贅沢だ。1200円取っても割に合わないだろう。
厳選した米だといっても冷や飯を使うのだから、お客さんに出すとしたらなんとか700円以内で出したいと言う。そこで最低限譲れない線だけ残そうということになった。
米は良いものなのだから、決め手となる汁の材料をケチらなければいい。
旨い米を美味しい出汁で食べれば良いのだから。
出汁を引く材料と、その出汁を吸い地にするための調味料は変えない。
具の中でも、本物の浅草海苔は外さない。むしろメインの具材にするためにもっと使う。
以前
レポートした、盤州里海の会が復活を計画したアサクサノリ種の海苔。最近NHKで何度か里海の会の活動が放送されたが、紹介されたアサクサノリ種はもう手に入らない。プロジェクトに参加した会員たちに配られて、既になくなってしまったからだ。
その本物の浅草海苔が幸いにも手元にある。焼きたての香りは素晴らしく、食べると甘みがあって美味しい。送られてきたときに家族で手巻き寿司をしたんですが、子供たちは海苔がいつもより旨いと言って海苔だけ先に食べちゃった。
『あんたたち、ご飯とお刺身だけ残してどうするの!』とカミさんは怒りながらも呆れてた。マグロやタイの刺身より海苔を先に食べちゃうんですから。
数に限りはあるけれど、この海苔を店に進呈することにした。
山葵をどうするかは思案のしどころ。
せっかくの出汁と海苔。やはり本山葵で食べたい人もいるだろう。
でも山葵は使わないという手もある。もともと車海老の塩茹でに沢庵と三つ葉を使う骨董飯では山葵は要らない。錦糸玉子、岩海苔、白魚なんていう具でも山葵は使わない。
どうするのかわからないが、コストを無視して本山葵を使えとも言えないしね。
Rambleではランチのご飯は出来るだけ炊き立てを食べてもらうために一度に炊くお米の量は少量だ。だから冷や飯に回るのはせいぜい4〜5合だ。10人分にもならない。
たかだかそれだけの冷や飯のために、ああだこうだと試行錯誤してるところが面白い。
来週のランチでは形が少し変わっているような気がする。

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