人物シリーズを記事にし始めて、改めて何も知らない自分を再認識している。別に知らなくても生きていけるし、生きてきたが、新たなことを知ることでまた新たな感動や目から鱗が落ちるという経験をしている。
最近呼んだ本に『
人物で語る 東海の昭和文化史』(樋口敬二監修 1996年風媒社刊)がある。NHK名古屋放送局70周年を記念して10年前に出版された本だ。
なおNHK名古屋放送局の開局については以前記事にした。
http://white.ap.teacup.com/applet/syumoku/68/trackback
70名近い執筆者が総数150名に及ぶ昭和という時代に足跡を残した人物の記事を書いている。何気なくページをめくっていたら、「岡久美子」という文字が目に飛び込んできた。執筆者一覧で確認すると「岡久美子」(女性学研究者)とある。岡さんは、わが「東区まちそだての会」の初代代表である。いつもエネルギッシュに新しい課題に向けて驀進している岡さんだ。*シニアライフ研究所
http://www.riamo.net/oka/
早速、岡さんに連絡をとり、このブログに全文掲載させていただくことの了解を得た。わが会は、現代表兼松はるみさんを筆頭に女性会員のパワーで運営されている。この機会に表題の安川悦子さんたちの取り組みを知ることは、市民活動にとっても参考になるだろう。
「男女の平等を推進する女性研究者−名古屋市立女子短期大学長 安川悦子」 執筆 岡久美子
女性独自の職能団体発足
平成7年8月30日から9月15日まで、第4回世界女性会議が北京で開催された。この会議には、世界行動綱領を採択する政府会議へのロビー活動と交流を目的にNGOフォーラム(非政府機関)だけでも世界各地から約3万7千人の女性が集まり日本からも約6千人が参加をした。
“平等・発展・平和”実現の具体的戦略を練る女性たちの力強い熱気の中に身を置きながら、私は
「女性が社会で働くことを権利として認め、家事と育児が社会と男女双方の責任だと認めた女子差別撤廃条約の存在が重要。それが建前にすぎないとしても武器にできる建前すらなかった時代があるんだから」
と言った安川悦子(名古屋市立女子短期大学長 *当時)を思い出していた。
第1回メキシコ会議が開かれた昭和50年、日本でも男女平等推進の運動が各地で始まっていた。安川は、水田珠枝(名古屋経済大学経済学部長)、中田照子(愛知県立大学文学部長)らと、“愛知女性研究者の会”を設立、初代事務責任者に就任している。男性運動体下部機関として、ともすればハウスキーパー的役割を果たしがちの組織形態を拒否して女性が独立することに男性研究者からの強い反対があった時代である。
この会は当時全国でもユニークな組織となった。約140名の会員を擁して、研究者として生きてゆく女性を励まし、時には就職を斡旋するネットワークの役を果たしながら、20年間女性団体であり研究職の職能団体として存続してきた実績がこの方法の正当さを立証している。
女性学の裾野を広げる
安川が女性問題に初めて気付いたのは、名古屋市立女子短期大学に就職したその時だった。
「女子教育を真面目に考えたらこんな矛盾に満ちた所はない。2年間女性だけを集めて、家政学という特殊な教育をして主婦を作る。女性の矛盾の集約点」
しかも、研究者としても短大で、家政学中心で、女性だからと低く観られる。安川は性別役割分業とともに研究職における性別職務分離とも闘わなければならなかった。
市立女子短に女性論担当者として中田照子が赴任してからの女子短大の活動はめざましい。性差別を解消する手がかりに、家政学を生活文化学にしたいと新たな道を求めて、平成元年には生活文化研究センターを設立した。中田が初代センター長になり、安川を中心とした女性論研究プロジェクトが組まれている。
学生への総合科目として女性論をいち早く設け、社会人に公開して毎年40名近くの聴講生が輩出されている。さらに同センターでは夜間に社会人に向けて女性論セミナーを開講した。
安川をはじめ、女性研究者の地域に根を降ろした先駆的活動は、愛知県におけるフェミニズムの裾野拡大に重要な役割を果たしてきた。地方の時代とは掛け声ばかり、中央指向の強い文化状況下では特に貴重な存在でもあった。
「女性の働くことが牽引力になり目に見えない革命が起こっている。良妻賢母主義に守られた女性抑制、家族賃金イデオロギーと女性の家族依存の半人前賃金、人間の生き方考え方など、期成のパラダイム解体が社会の全体に拡がっている。経済構造の変化も企業一家主義とその下にあるマイホーム主義を支え切れなくなってきている。長い時間がかかるけれども、女性と男性が対等平等になれる日は必ず来る」
科学者としての安川の言葉は明快だ。
平成7年7月に国信潤子(愛知淑徳大学教授)がジェンダー・女性学研究所を開所した。戒能民江(東邦学園短期大学助教授)も女性自立支援センター設立準備も進めている。
世界の女性たちと手を携えながら、日常生活の一つ一つの場面を大切にする、男性とは異なるオールタナティブな方法で、女性たちは着実な歩みを前に進めている。
*名古屋市立女子短期大学は、名古屋市立大学に改組され現在はない。
左 北京で開催された第4回世界女性会議
右
安川悦子 昭和11年、神奈川県生まれ。名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。昭和40年名古屋市立女子短期大学講師に、平成7年女性として初の学長に就任。第13・15期日本学術会議会員。著書『イギリス労働運動と社会主義』(日本労働協会賞受賞)等多数。
現在広島県の福山市立女子短大学長。
*文中の女性研究者の現在は
水田珠枝は、名古屋経済大学経済学部教授。
中田照子は、同朋大学教授。
戒能民江は、お茶の水女子大学生活科学部教授。
国信潤子は、愛知淑徳大学コミュニケーション学部・大学院教授、ジェンダー・女性学研究所所長。

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