集中して6クラス分のテストの採点を行い、金曜日の午後の予定が空白になったので、これ幸いと年休を取り映画を観に行った。パルコ東館のセンチュリー・シネマで上演されている「嫌われ松子の一生」を観た。山田宗樹の原作は、数年前に出版されたときに、引き込まれるようにして読んだが、さて映画ではあの重い作品をどう描いたのだろう。数日前の朝日新聞の映画時評で、かの有名な文部官僚にして映画評論家の寺脇研が絶賛しているので食指が動いていたのだが・・・。
開演時間まで間があったので、丸栄百貨店の南隣にある「名古屋証券取引所」の写真を撮りに行った。外観を撮影して中に入ったところ、入口横のドアがなかなかいい感じなので思わずシャッターを切ったら、警備員が飛んできて御用となってしまった。総務課に連行され、引き渡され事情聴取と相成った。というのは、大げさで、御用の趣を尋ねられ、事情を説明すると難なく撮影の許可がおりた。何事にも手順というのは大切だと今更ながら感じた。
証券取引所でこのガードであるから、銀行などでは足を踏み入れた途端にチェックされるかなと思っていたら、果たしてその通りであった。「三井住友銀行上前津支店」まで足を伸ばし、店内に入って店内を一渡り見渡したところで警備員に「今日は何の御用で」と声をかけられてしまった。「建物に吸い寄せられて」と答えてから、怪しい答えであることに気付き、「古い建物に関心があるので」と付け加えた。その警備員の方がなかなか建築に詳しく、広小路界隈の残っている昭和初期の建物をすべて教えてくれた。映画上演の時間が迫ってきたので、店内の写真撮影の許可をもらう交渉はあきらめて退散した。(銀行はセキュリティー上、許可をくれないような気がする・・・銀行強盗の下見と間違われかねないかも)
映画は、重いテーマをミュージカル仕立てにしてエンターテイメント化に成功したという感じである。私自身は、重いテーマをさらに重く、じわじわと心に染み込むような描き方のほうが性に合っているので、切なくもあり爽やかさも感じた美しい中谷美紀より、“嫌われ松子”として周囲から胡散臭くみられ豚のように太った孤独な松子が荒川をじっと眺めるシーンが印象的であった。(そういえば奈良の騒音おばさんも周囲に迷惑を及ぼしながら孤独に生きていたんだと連想が飛んだ、彼女も“嫌われ松子”と同じ境遇かもしれない・・・)
ところで、「名古屋証券取引所」について、基本的なことを記しておこう。現在の建物は昭和6年(1931)年竣工。設計城戸武男。施工竹中工務店。当時、昭和恐慌の真っただ中であったが、名古屋株式取引所理事長後藤新十郎の決断により新築された。出来上がったスペイン風建物の壮麗さは、名古屋の経済力の底力を示すものであった。玄関床はモザイクタイルで飾られ地下に複数の金庫室とエレベータを備え、電話設備は520回線収納可能とした。3階には豊かな曲線をもつ大会議室や球戯室があった。戦後、4階部分を増築・改装したため本来の姿を失っているが、内部のデザインなどは当時の面影を残している。


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