米英はイラクから撤退計画、米世界勢力圏は縮小、ブッシュは挫折
前田 進
「ブッシュは嘘をついてイラクに侵攻した」、「イラク戦争は米国の利益にならない」、「イラク戦争のせいでテロや反米感情が逆に増えている」という意見が米国で広がっている。米マスコミでもシカゴ・トリビューン紙のように「イラクのゲリラが米軍の駐留に反対して戦っていて、米軍の掃討作戦は事態を悪化させるだけだ。米軍は撤退するしかない」という社説が出てきている。
6月中旬にはすでに米国世論の60%がイラク戦争に反対で、米上院外交小委員会は「ブッシュ大統領はイラク占領を終わらせる戦略を明示すべきだ」という要求を採択した。89人の米連邦議会議員が、早くも02年にブッシュとブレアがイラク侵攻を密談で決定していた米憲法違反事件を糾弾して、弾劾を指向する公開状を出した。
ブッシュのイラク戦争支持率は8月初旬に過去最低の38%まで落ちていたが、ギャラップ社による05.8.26発表の米世論調査では、さらに大統領不支持率が56%に上がった。これが米国民の審判結果だ。
英国の新聞の暴露によれば、英国防相がブレアに提出した機密メモでは、米軍は06年初めまでに米国と同盟国の軍隊をイラク18州のうち14州から撤退させ、その後の治安維持はイラク人の軍隊や警察に委譲する計画である。米国は、合計16万人(米軍は13万8千人)の外国占領軍をイラク側への治安維持の委譲で6万6千人まで削減する計画だ。
英国防相が存在を認めた機密メモでは、英軍は今年10月までに日本「自衛」隊の駐屯地サマワがあるムサンナ州など2州の治安維持をイラク側に委譲する計画である。日本軍は保護がなくなって、撤退せざるをえなくなる。さもないと、犠牲者が続々と出たあとで「イラク特措法」で撤退することになる。
そこで、「7.7ロンドン爆破テロはイラクからの撤退阻止・「反テロ戦争」継続のため陰のフリーメーソンがアル・カイーダ系過激派を使って仕組んだ」とか、「7.7事件は9.11事件と同じ米英の自作自演だった」(カリフォルニアのPrison Planet TV キャスターAlex Jonesのサイト
http://prisonplanet.com)という新説が出ている。「ブレアは7.7事件の3日前と数時間前にイスラエル諜報機関からテロ攻撃を警告されていたが、ブレアは無視して、insider job(ブレア政権内部の仕事=犯罪行為)を敢行した」(
http://www.rense.com)と暴露されている。
そういうことは大いにありうる。しかし、仮にそうだとしても、「意図した行為から意図しない結果が生まれる」という弁証法の法則と、世界の大勢を変えることは出来ない。今回の自作自演の国家テロは、事実だとしても、逆に米英でイラクからの撤退を要求する世論の高まりをもたらすだろう。insider jobが確証されれば、ブレアはテロリスト頭目として国家反逆罪に問われるだろう。
ロンドンのリビングストン市長は05.7.20にBBCラジオとの記者会見で、同時多発テロは「欧米の二重基準が原因で、外国に占領され、参政権や自決権を否定されれば英国人も自爆テロを起こしていただろう…自国の外交政策伸張のために無差別殺りくを展開するような政府を非難する」と語った。
英政府はイスラム過激派幹部を国外追放すると発表したが、ロンドンのイスラム過激派指導者は05.7.20に声明を発表、ロンドン爆破事件はイラク占領の結果で、撤退しなければ今後も事件が起ると言明した。
ガーディアン紙が伝えた最近の英国世論調査では、「イラク戦争支持のブレア首相にロンドン爆破事件の責任あり」が64%だった。
ロンドンでは05.7.21に再度、地下鉄のノーザン線のウォレン通り駅、オーバル駅とハンマースミス&シティー線のシェパード・ブッシュ駅の3駅と、ハックニー通りとコロンビア通りの2階バスで爆破事件が発生した。前回より爆発規模は小さいが、爆破事件再発で市民の精神的ショックが大きい。
翌7月22日に、あとでブラジル青年と判った無実の非白人青年ジメネゼス氏(27)が、地下鉄ストックウェル駅の列車に乗り込んだところ、追ってきた私服警官にねじ伏せられて至近距離から頭に7発、肩に1発銃撃されて殺された。あとでロンドン警視庁は被害者が無実だったと発表した。英国自慢の人権擁護が投げ捨てられた驚きが、世界中に広がった。25日にはジメネゼス氏の故郷ブラジルで「真のテロリストは英警察だ」と大書した横断幕を掲げてデモが行われ、「謝罪でなく裁きを!」と要求した。
22日にアル・カイーダ系「アブハフズ・アル・マスリ軍団」グループがネットで声明を出して「我々のロンドンでの攻撃は、イラクに派兵する全欧州諸国政府への警告だ。ローマ、アムステルダム、デンマークに次の攻撃をかける」と予告した。
7月23日にエジプトのシナイ半島リゾート地シャルムエルシェイクの中心部にある商業地域オールドマーケットで4回、繁華街ナアマベイで2回、車積載爆弾が爆発して、死者88人、負傷者300人が出た。アル・カイーダ系の「アブドラ・アッザーム旅団」が声明を発表して「イランとアフガニスタン、パレスチナ、チェチェンでのイスラム教徒に流血をもたらす邪悪な国々の犯罪に対する報復である」と言った。これは、イスラム過激派がエジプトのムバラク政権の強権的親米協調路線を対米英ジハードへの裏切りと断定して無差別攻撃したことを示した。
英デイリー・ミラー紙は世論調査機関ユーガブによる世論調査結果を7月25日に発表した。それによれば、ロンドン同時テロと、米英中心のイラク戦争との因果関係があると回答したのは、英国民の85%にのぼった。これで、英国民の審判が下った。
7.21爆破事件でのエチオピア出身英国人フセイン・オスマン容疑者(27)は、7.29の逮捕後に、「乗客殺傷が目的ではなくて、米英主導のイラク戦争反対の示威が爆破実行の目的だった。イスラムやアル・カイーダとは関係ない」と供述したと、英国各紙が7.31に報道した。これはイラク反戦の広がりを示し、ブレア政権への打撃になった。
米軍が作ったイラクのカイライ軍は15万人とされているが、ゲリラと同調したり姿を消したりで実数は4万以下という。武装抵抗勢力は約2万で支持者が25万人だから、米英軍撤退後のカイライ軍との力関係は明らかである。ブッシュは「治安が安定した」と気休めのだましで、撤退の口実をいまから準備している。
占領下イラクのZ.ハリルザド米大使は05.7.13にワシントンで外国記者団と会見して、「米駐留軍の削減協議を着任次第始めたい」と言明した。
そこで、イラクでは米英軍撤退対策が緊要になった。7月7日にイラク「カイライ」政権のドレイミ国防相がイランを訪問して、イランによるイラク・カイライ軍の訓練その他、軍事面での協力強化を決めた。イラクのジャファリ首相は7月16日にイランを訪問した。両国は関係改善を宣言して、イラクの治安対策支援と経済協力で一致した。イランはイラクの石油精製を引き受け、両国間のパイプラインと鉄道を連結し、イラクの石油をイランの港から積み出す協定に達した。
だから、米国がイラクの基地を使ってイランを軍事侵攻すれば、米軍が育てたイラク「カイライ」政権はスンニ派と協力、イランと同盟して米英侵略軍との戦争に参戦する可能性が大である。サマワの「自衛」隊が米英侵略軍に協力することになれば、イラン・イラク同盟軍に攻撃されて殲滅されかねない。小泉が靖国神社に参拝しても後の祭りになる。だから日本の青年の生命を護るためにも「自衛」隊はイラクから直ちに撤退すべきである。
イランの核兵器開発はイラン侵攻を目指すブッシュのデマゴギーだったことが、IAEA(国際原子力機関)の否定で明白になった。中・露・中央アジア諸国の安保機構「上海協力機構」は7月上旬の会議でイラン、インド、パキスタンのオブザーバー参加を決めた。同時にイランの天然ガス・パイプラインをパキスタンとインドに敷設する交渉も進行中だ。
「上海協力機構」はキルギスとウズベクも賛同して、両国にある米軍基地の撤廃要求を出した。ウズベク政府は05.7.30に米国政府に対して、180日以内の基地使用停止と航空機、人員、機材の撤去要求を通告した。それは、米軍とCIAによるクーデター運動支援の間接侵略に対する反撃になった。
英国のガーディアン紙によれば、米国はアフガニスタンからも関心を弱めて、EUに任せる方向だという。「上海協力機構」へのアフガニスタンのオブザーバー参加も構想されている。「上海協力機構」は今後ASEANとの協力を推進するだろう。日米は孤立する。
中国はIBMのPC部門を買収したあと、米国石油大手ユノカルの買収に乗り出している。米国のユノカル買収公聴会では、「ユノカルは中央アジア、アゼルバイジャン、グルジア、トルコを結ぶパイプラインに投資しており、買収されれば、対テロ戦で重要なこれらの同盟国へ中国の影響力が著しく増す」と、ハンター米下院軍事委員長が言明した。ガフニー元米国防次官補は「世界一の経済大国として米国に取って代わることが中国の目的だ」と叫んだ。それは13億の力に直面した負け犬の遠吠えに聞こえた。
中国人民解放軍の朱成虎国防大学防務学院長は外国記者会見で「台湾問題で米国が軍事介入したら、中国は核兵器で米国の都市を攻撃する。西安より東の都市をすべて犠牲にしても、我々は核兵器で応戦する。我々は世界のどの国も攻撃する意図はないし、米国の軍事力に挑戦するつもりもないが、米国が中台統一を妨害した場合には備えている」と、挑発的な言明をしたが、米国務省マコーマック報道官は05年7月15日に「記事を全部読んでいないが、無責任な発言だ」とだけ言って、返報の挑発的な反論を避けた。
米スペースシャトル・ディスカバリーの05.7.13の打上げは、満タンだのに燃料切れを表示したなどの燃料タンク・センサーの乱調表示で延期されたが、「検査の結果異常なし」で、不可解で無力な原因不明のまま見通しが暗い。宇宙軍事化の実験目的だったため前回は宇宙空間で爆発したが、今回も同じ悲劇を繰り返す可能性がある。宇宙の軍事化は許されない。
イラク戦争の苦戦で募集制の米軍は危機に陥った。ブッシュ政権は、世界的な単独覇権主義で「2正面戦略」を追求してきたが、それは挫折した。彼らは世界戦略を「単一戦争戦略」に後退させた。ネオコンの構想に従ってハイテク化で戦力を補充する世界的な米軍基地の縮小も、実際には挫折の粉飾だった。
こうして、西部劇風のカウボーイ的な策謀による自作自演の9・11事件以来の、ブッシュの無法な軍事冒険主義の侵略的な路線は、10万人が犠牲になったアフガン人民の抵抗武装闘争を経て挫折しつつあって、米国の世界的勢力圏は急速に再編・縮小されつつある。
米国の侵略戦争政策に追従するため憲法改悪を推進しながら、ブッシュへの盲従と買弁軍国主義の復活路線で靖国神社参拝を続けて、中・朝・韓と対立を激化させている小泉は、アジアと世界で日本を孤立させつつある。
小泉は、345兆円の郵貯・簡保の資金を米国資本に乗っ取らせるような郵政民営[私有]化の売国的悪事を強行して、衆議院解散と処分の脅しにもかかわらず衆議院で37人の自民党議員の反対決起と、棄権を含めて51人の自民議員の反対を招いた結果、5票の差でやっと法案を採択させた。だが小泉は傲慢にも全然反省しないので、参議院ではたった18人の自民党議員の反対でも法案を否決される運命にある。参議院での否決を筋違いな衆議院の解散・総選挙にすりかえる小泉の策謀は、失敗させなければならない。
与党も野党も、世界情勢の急変を直視して、内外政策路線を大胆に変えなければならない。
ブログ市民大賞2005:
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