『ユナイテッド93』の感想です。結末に触れていますので、ご注意を。
昨日の夜、伏見ミリオン座で『ユナイテッド93』を観た。「9・11」の出来事を描いた作品である。世評に違わぬ力作だった。何よりも、ハイジャック犯たち――テロ行為の実行犯たちを悪辣な存在としては描いていない点に、作り手の見識が窺える。
実行犯たちが負わされている事情が詳しく語られるわけではない。しかし、伝わってくるのは、彼らがそれぞれに葛藤を抱えながらも、与えられた任務を忠実に遂行しようとする生真面目さだ。それはおそらく「信仰」故の行動なのであり、「善と悪」「正と邪」という単純な枠で裁かれる類のものではないような気がする。
ユナイテッド93便の乗客たちは恐怖に怯えながらも、団結してテロの目的を阻止する。特殊な力を持ったヒーローが登場するわけではなく、劇的な展開が待っているわけでもない。映画は呆気ないほど唐突に結末を迎える――つまり、事実と同じく、ユナイテッド93便は墜落する。あとは、のちに明らかになった事実がテロップで提示されるだけだ。そこから伝わってくるのは、国家と軍の不甲斐なさである。もちろん、作り手が訴えたかったのは、必ずしもそれだけではないだろうが。
というわけで良い映画なんだけど、困ったのは全編ほとんど手持ちカメラで撮影されているってことだ。とにかく画面がブレまくるのである。そういうのが苦手な僕は、もう最初の30分ぐらいで気持ち悪くなっていた。
もっとも、そういうタイプの作品であることは、前もって予想していた。なんてったって監督が『ボーン・スプレマシー』のポール・グリーングラスである。『ボーン・スプレマシー』はマット・ディモンの手際の良さがアッパレな痛快作ではあったんだけど、やたら画面がブレるので僕は吐き気を催してグッタリしてしまったのだ。『ユナイテッド93』でも似た様な目に遭うだろう。それでも、9・11をドキュメンタリーっぽく描いた作品なら観ておかないわけにはいかない。映画好きとしては、どういう作品に仕上がっているのか自分の眼で確かめねば。そういう悲壮な覚悟を抱いて臨んだわけである。大げさか?
しかし、僕を襲ったのは、画面がブレることに起因する気持ち悪さだけではなかった。さらなる衝撃が待ち受けていたのである。
映画の中で、ユナイテッド93便を乗っ取った実行犯たちが、便を大きく傾かせるシーンがある。ここで急激に画面のブレが激しくなった。こっちは呼吸を整えようと必死になる。そして、その直後、映画館の中が大きく揺れた。す、すげえ特殊効果! 観客に恐怖感を味わわせるために、スクリーンだけじゃなく客席も揺らすんだ。どういう仕掛けなんだろう……って、そんなわけあるかいっ。
どう考えても地震である。しかも、かなり大きい。どうする? 画面のブレのせいで気持ち悪くなっていた僕は、平常心を取り戻すよう自分に言い聞かせる。冷静にならねば。逃げた方がいいのか? 他の観客の反応は? しかし、前から3列目に座っている僕の前に他の観客はいない。背後で誰かが動く気配もない。このまま映画を観ていて大丈夫なのか?
揺れていたのは10秒程度だった気がする。次にまた揺れたら今度は席を離れた方がいいかもしれない。そう思ったが、しばらく経っても震動を感じることはなかった。しかし、そうなると、今度は様々な想像が頭の中を駆け巡る。映画館の中では少し揺れた程度だけど、外は大変な状況なのではないか。ビルが崩壊し、瓦礫の山になっているかもしれない。もしかしたら地震ではなく、映画館にトラックとかが突っ込んだのかも。スクリーンの中で語られるのが9・11の惨状であるだけに、余計に妄想は膨らみ、不安な気持ちになってしまう。まあ、そんな悲惨な状況だとしたら、上映中止になるだろうけどさ。
エンドクレジットが流れ始めた時、急いでカバンに手を突っ込み、ケータイを取り出した。いつもなら明るくなってから電源を入れるのだが、今回は非常事態である(という割には最後まで観てたわけだけど)。光が漏れないようにカバンの中でケータイを開いてみたら、着信はなかった。ホッ。
家に帰ってから、さっきの地震が震度3であることを知った。けっこう大きいじゃん。ホント、大事にならなくて良かった。以上、真夏の夜の映画館での出来事でした。こんな恐怖体験、もうイヤ。


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