ごまたまごだけでなく、東京ばな奈も売っている。他の定番お土産も売っている。その一画の店は、全部開いているのだ。店の横にある案内板を見ると、開店時間は6時30分。なんじゃそれ〜。上野駅のJR職員さん、頼んますわ。まあ、確かに「たぶん7時頃」と言っただけで、断言してたわけじゃないんだけど。
店が混んでるなんてことも全然なく、ごまたまごを購入した時点で時計を見たら6時45分。あらら、まだ50分近くあるじゃん。どうすりゃいい? 荷物を持ったまま、僕は途方に暮れた。
そう思いつつウロウロしていたら、見慣れた人物が前方から歩いて来るのが見えた。
カラオケ店を出る直前に財布を紛失していることに気付き、おそらく生来のものであろうドジっぷりを遺憾なく発揮してみせた男である。財布が無事に見つかった(ライブ会場に置いたままだったらしい)ことは、コーヒーを飲んでいる最中に届いたメールで知っていた。しかし、それからすぐに東京駅に移動していたとは。すげー素早いじゃん。しかも、乗る新幹線は7時3分発だって。俺様より30分も早いとは。
こっちも同じのに乗ろうかとも思ったけど、切符を買い替えるのはメンドくさい。でも、やっぱり少しでも早いので帰った方がいいかなぁ。うむむ、どうしよう。そう迷いつつ構内のコンビニでおでん缶を手に取って眺めている(結局、眺めただけで買わず)うちに財布紛失ドジ男は弁当を買って足早に去り、再び僕はごまたまごとバッグを持ったまま一人で途方に暮れることとなった。
そうだ、この構内には確か本屋があったはず。時間つぶしにゃ最適じゃん。そう思って本屋のあるスペースに行ったら、まだ開店前。7時になれば開くかもと思って近くの柱にもたれて待つが、7時5分になっても開きゃしねえ。仕方ないから、もうホームに行くか。重い足取りでエスカレーターに乗ってホームに上がると、なんのことはない、自分が乗る新幹線がとっくに停まってるじゃん。考えてみれば、この駅から出発するんだから時間ギリギリに来るわけではないのだ。僕はいそいそと乗り込み、腰を下ろした。以上で回想シーンはオシマイ。
新幹線の中で自分の足を揉みながら、僕は思った。そう、すべての原因は、ごまたまごだ。ごまたまごのせいで僕は足止めを食らったのである。買うのを諦めて6時か6時半頃の新幹線に乗れば、今頃はとっくに家に着いていただろう。布団の上で大の字になって眠ることもできたはずだ。ああ、憎々しきごまたまご。しかし、東京へ来たからには買わないわけにはいかない。あああ、悔しい。悔しいったらありゃしない。
そんなことを考えながら周囲を見回すと、やけにみんな慌ただしく動いている。というか、次々と乗客が入ってきて、空いている席に座っている。その時、アナウンスが聞こえた。グリーン車を除く指定席は、ただいまから自由席とさせていただきます。なぬっ?
そんなわけで、二人分の席を占領できるのもこれまで。僕の隣には20歳前後とおぼしき青年が座った。しかし、その時ちょうど「まもなく運行できるようになりました」というアナウンス。やったっ。しばらくして新幹線が動き始める。車掌さんらしき声によると、結局5時間16分停車していたらしい。
その後は、もう快調に走る走る。おまけに、いくつかのトンネルを過ぎた時には、眩しいばかりの青空。富士山まで見えるじゃん。
名古屋駅に着いたのは14時半頃。「2時間以上遅れたら特急料金は払い戻し」ってことなので、4690円が戻ってくることになった。すげートクした気分。じゃあ、次に新幹線に乗る時は、2時間1分遅れで到着しますように。
家に着いて、ごまたまごを食す。いつもより少し苦く感じた……ってのはウソ。
考えてみれば、日持ちしないわけじゃないんだから、前日に買っておくべきだったのだ。そうすりゃ5時間以上も……いや、そのおかげで4690円が戻ってきたんだから、結果的には良かったのか? 買ったごまたまごは、仕事場用の20個入りが1500円、自宅用の9個入りが680円、実家用の5個入りが500円。計2680円なので、特急料金のキャッシュバックで充分にペイできたわけだ。むしろ僕は喜ぶべきなのか? ごまたまごに、そして上野駅のJR職員さんに感謝すべきなのか? その答は風の中に……あるかいっ。
っつーか、こんなしょーもない話を長々と書いてゴメン。
<おしまい>

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