うわー、これは安易。あまりに安直すぎる企画であるし、出演者たちには失礼すぎ。
ある日、ほぼ同年代のミュージシャン3人がスタジオに集められる。そして、監督が「3人でひとつの曲を作ってほしい」と依頼する。それ以外に注文は出さない。テーマも決まっていなければ、方向性も定まっていないのだ。
3人の共通項は「40歳前後」ということだけで、特に親交があるわけではない。しかも、3人のうち浜崎貴司と桜井秀俊は面識があったものの、この2人と大沢伸一はまったくの初対面であるらしい。そんな面々を集めて共同作業をさせようなんて、あまりに無礼じゃないか? それでも、たとえば「中高年を元気にする曲を」というような要望があるのならともかく、内容に関してはすべて本人に任せてしまうのだ。いや、そういうのは「任せる」とは言わない。昨今よく耳にする言葉を使えば、「丸投げ」ってヤツだ。まったくもって無責任。
そもそも、どうしてこの3人が選ばれたのかも、さっぱり分からない。たくさんの人に断られた末に、たまたまスケジュールに余裕があった者たち、もしくは深く考えずに承諾した者たちを組み合わせたに過ぎないのではないか。そんな風に勘繰りたくなっちまう。だって、同じ「40歳前後」ではあるけど、浜崎貴司と桜井秀俊とでは4歳の差があるのだ。40歳前後のミュージシャンはいくらでもいるわけだから、実際かなり多くの者が断ったんじゃないだろうか。あと、監督が3人の音楽をきちんと聴いたことがあるかどうかも、甚だ疑わしい。
それでも、浜崎貴司と桜井秀俊はその場ですぐに作業を始め、監督の無茶な注文に応えようとするのだが、大沢伸一は不快感と苛立ちを隠さない。そして、その状態は最後まで続く。感心させられるのは、「何事も勉強」という姿勢で作業を続ける桜井秀俊の態度だ。これぞ、まさに大人の対応。職人中の職人。もしかしたら、無茶な注文を出されるのはYO-KINGとの共同作業で慣れているのかも、なんて推測もしちまった。わはは。
桜井秀俊とは対照的に、大沢伸一は自分の美意識にこだわり続ける。そして、その姿勢も圧倒的に正しい。こういう場で妥協する必要はまったくないのだ。映画の最後で3人は一緒にステージに立って演奏するわけだが、そこでの大沢伸一の行動は会場にいた者すべてを唖然とさせただろう。あれこそ、まさにパンク。とことん自分の美学を守り抜いた大沢伸一の行動は賞賛に値する。
浜崎貴司に関しては……えっと、誠に申し訳ないけど、あの歌い方はあんまり好きじゃないなぁ。でもまあ、最後まで怒らなかったのは立派。というか、もしかしたら舞台裏ではキレまくっていたかも。いや、ここはむしろキレるべき。もちろん、大沢伸一に対してではなく、監督やプロデューサーに対してだ。ひょっとしたら、こっそり殴ったりしてない?
バンドの裏事情を描いたドキュメンタリーは、それがドロドロしたものであっても、どこか楽しい。それは、そのバンドが一度は強い絆で結び付いたものであったからだ。だからこそ、「言い争い」や「内紛」を見せられても、それが感慨深いものになる。
しかし、この『40歳問題』に集められた3人は、まったく関係ない第三者によって勝手に組み合わされ、自分たちの流儀とは異なる方法での作業を押し付けられただけだ。だから、ギクシャクしているところを見せられても、観客も居心地が悪くなるだけ。そして、3人が気の毒になるばかりだ。
この映画のラストは、監督が謝るシーンにすべきだった。浜崎貴司と桜井秀俊と大沢伸一のもとに菓子折を持って謝罪に訪れ、CCレモンホール(だっけ?)に集まった観客にも頭を下げ、スクリーンを通じて映画の観客にも詫びる。そういうラストだったら、それなりに納得できたろう。小川直也に投げられてヘラヘラしてる場合じゃないぞ、中江裕司。
※お気に入り度 ★★★★☆☆☆☆☆☆
※『40歳問題』公式サイト→
http://www.40sai-problem.com/
※名古屋ではセンチュリーシネマで公開中です。

0