ヴィクトリア朝時代に流行したフォブチェーンは
ヴィクトリア女王の夫のアルバート公にちなんで
アルバートチェーン(男性用)、もしくは
アルバーティナチェーン(女性用)と呼ばれ、
懐中時計をチェーンの端に取り付け、もう一方の端に
フォブ(シールやキーなどのチャーム)を錘代わりに付けて、
ウエストコート(ベスト)などに付けて使用されていました。
アルバート公は昼間の正装のモーニングコートに好んで
フォブチェーンを身につけたといいます。
フォブチェーンにはスポーツやビジネス、アートなどの各方面で
獲得した勲章(メダリオン)を提げる、いわば持ち主の
富や社会的地位の顕示という側面もありました。
女性用のチェーンは時計を提げるという機能的な面よりも、
より装飾的なジュエリーとしての側面に重きがおかれ、
男性用のチェーンに比べより華やかで技巧を
こらしたものが作られました。
しっとりとした美しいイエローの金色に黒のアクセントが
ピリリと効いたチェーンです。
棗型のころりとしたパーツにはストライプ状に黒いエナメルが
施されており、エナメルの間とチェーンのエンドクラスプ
には美しい手彫りの模様が入っています。
全長35.5cm
こちらはやや古美がかかった落ち着いたグリーンゴールドの
フレンチチェーン。
バレル型のパーツはローズゴールドで作られ、その上に
グリーンゴールドで薄いレリーフ状のエレガントな彫金が
施されています。
Tバー部分にも同様の模様をあしらった神経の行き届いた
作り。
全長42cm
この時代は上の写真のようにベストや腰回りに付けて
装っていましたが、首回りに付けて少し短めの
ドッグチョーカーのように付けてもとても映えます。
(チェーンの長さはアジャスターチェーンを後ろに付けて
調節することもできます)
こうしたネックレスとしての使い方は必ずしもあたらしい
習慣ではなく、第一次世界大戦の際には妻を残して
出征する夫がフォブチェーンをお守りとして
託していったと言います。
妻はフォブチェーンを首に巻き、愛する人の
無事を祈ったそうです。
貴金属で出来たチェーンはいざという時に持って
逃げられる財産としての意味合いもありました。
数年前の地金高騰の折、こうしたしっかりとした
アンティークチェーンの多くが溶かされ、
インゴットにされてしまったといいます。
かいくぐってきた時代に思いを馳せつつ、
大事に伝えていきたいチェーンです。

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