何度も香港を訪れていますが、今回の香港訪問ほど
色々と実感し沢山の事を考えて精神的に得る物が
大きい旅は無かったと思います。
オークション会社での長話。
美術商での長話。
そして最後に驚いたのは日本から10年前に脱出
して香港に居を構えたとある宝石商の兄弟。
御徒町の汚くて小さなオフィスで彼らが仕事を
始め、15年ほど前に私を訪ねて来たのも宝飾雑誌
に載っている会社を見てビジネスの可能性がある
会社をシラミつぶしに訪問してきたことがきっかけ
でした。
今では香港の銀座の様な所のビルのワンフロア
(物件価格何と17億円!)を購入し、信じられない
ような大きな取引を目の前で数時間で済ませ
億のつく金額の宝石がゴロゴロ転がり、取引をやすやす
と扱う彼らに心の底から驚き尊敬しました。
下がっていると言われる中国経済のあおりを受けた宝石や
美術品などのラグジュアリービジネス。
然し乍ら彼らの顧客はそんな事を気にせず高額な宝石を
買い続けています。
その理由はお金の価値は一日にして下がってしまったり
不安定な政府の下では急に没収という最悪の事態も起こり
かねない、宝石に変えておけば国から持ち出して別の国で
それを売却して暮らす事も、秘密の場所に隠しておく事も
手元において楽しむ事も出来る。。。
と言う事です。
ジュエリーの歴史を見てみると一番華やかで贅をつくした
品が作られたのは何とジュエリー史でも知られたアールデコ期
世界大恐慌の始まりの1929年から1930年代と
重なっています。
なぜでしょう。。。
株やビジネスで財を築き大恐慌のあおりを受けた富裕層
はパニックになり手持ちの宝石類を売り、また暴落直前に
気付き富を築き上げた投資家や宝石商は売りに出た大量の
信じられない様な贅沢な宝石類を安価で購入し、贅を
つくしたジュエリーを製作したのです。
ジュエリーの歴史を見てセオリーは理解していても
この今の決して景気が良いと言えない時代に本当に価値の
ある大きな金額の大きな石のジュエリーが勢い良く売れて
いくのを見てまさに歴史の教科書通りの事が起きている
のを知り本当に驚きました。
またこの香港に移住した宝石商の兄弟も香港に移ってからの
10年間は一日19時間オフィスにこもり仕事、まるで犬の
様な生活をしてここまで来た!と言っていました。
大きな煌びやかな新しいオフィスでゆっくりと私と
カプチーノをすすりながら寛ぐお兄さんに
”まさかこの新しいオフィスにベットは無いわよね。。。”
と聞くと“実は。。。”と言って隠れ扉を開けてベッドルーム
を見せてくれました。
”シャワーもつけようと思ったんだけど奥さんがシャワーを
つけたらあなたは家に帰らなくなるから駄目って反対された
んだ。。。”と言う彼を新しいオフィスのデザインの打ち合
わせに参加する為に来ていた奥さんがニコニコと微笑んで
うなずいていたのがとても印象的でした。


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