2019/5/23

焼身自殺のニュースの記憶とテレビジョンの彼方の洗濯物の状態について  

























狂った夏の中に君はいた
汗はとめどなく流れて
叫びは果てしなく溢れた
太陽は執拗なほどの
光と熱を地上に浴びせ続けて
あるものは犯罪者になり
あるものは自殺者になった
飲食店街に流れるクラシックは
時計じかけのオレンジの暗喩だった
川べりの廃車の中に
へその緒つきの胎児の腐乱死体
ある時点まではみんなが
クマか何かのぬいぐるみだと思い込んでいた
だから発見が遅れてしまって
明らかになった時にはなにもかもが手遅れな状態だった
クジラを殺すなと叫んでいる外国人たちの心理は
きっと人種差別から始まっていると思えるのは気のせいだろうか
やあ君、よく晴れているよ
こんな日は一日中洗濯機を回して
こんな世の中でもなにかひとつくらいは
綺麗に出来るものがあるなんて感傷に浸るのも悪くないんじゃないか
トム・ヴァーレンの声が廊下に反響している
気をつけろ、その先は崖だ
洗濯機が回り始めると
同居人が手なづけた鳩たちが餌をもらえるかもしれないと寄ってくる
勘違いするな、俺はお前の友達じゃない
食べ物を分け合うような間柄じゃない
お前らの振る舞いにはおこぼれをもらうためのノウハウが溢れすぎていて
見ていると胸糞が悪くなるんだ
今朝から鼻が緩くて辟易している
昨日は少しやりすぎたのさ
気の利いたフレーズを思いついたのだけど
くしゃみした拍子に忘れてしまった
はぐれた紙吹雪みたいな羽虫が飛んでいる
窓を背もたれにして詩を書くにはいささか暑過ぎる
だから俺の身体はかすかに歪んでいる
ディストーションのかかったギターみたいにさ
なあ、エフェクターをたくさん持っていたとしても
使い所がわかっていないんじゃマヌケな結果にしかならないよな
このまえなんかの番組で見たんだよ
「もうキーボードに転向しなよ」なんて
したり顔で言ってあげなくなるようなプレイをさ
ノウハウが溢れすぎて、手段がよりどりみどりで
寝たきりの老人にだって格闘技が語れる時代だ
ほんの少し先に始めた誰かが
適当にこしらえたプロセスを鵜呑みにするせいで
良く出来てるだけの作品がそこら中にばら撒かれる
そいつには動機がない
快楽殺人よりもタチが悪い
モチベーションとモチーフ、大事なのは
自分がどこに立っているのかを忘れないようにすることさ
それが決まりごとから大きく外れたものであったとしても
実行することで何かが変わると感じるならスイッチを入れることさ
おっと、表通りでものすごいクラッシュの音
路面電車に車が激突したらしいぜ
そういえば、もう結構な昔の話だけど
路面電車に飛び込んで死んだ老婆がいたんだ
俺は彼女がそういう選択をしたことがすごく不思議でしょうがなかった
路面電車っていう乗り物は自殺には不向きな気がしたんだ
だってあれにはどこか呑気な印象があるじゃないか?
だけど、今思うに
彼女にとってはきっと
最期にそれを選ぼうと思うくらい
繋がりのある乗り物だったんだろうな
そう、そういえば昔住んでた通りをそのまま西へ進んだところにあるバカでかい公園の小さな野外ステージでは
灯油を頭からかぶって火をつけて死んだ女がいたんだ
あれはもう何十年も前の出来事だ
45歳の女って話だった
そんな歳になると焼け死にたいほどの人生が待っているのだろうかって思ったもんだったよ
幸い、そんな気分になったことは一度もないけどな
焼身自殺の話をもうひとつ知ってる、今住んでるところから割と近い
たいして遊具も置いてない草まみれの公園さ
そこの向かいのマンションに住んでるってやつに
詳しい話を聞いたことがあるんだ
いまでも屋根の焼け焦げた休憩所が残っていて
俺は時々そこに腰を下ろして
缶コーヒーを飲みながら考えるんだ、ここに黒焦げの死体が転がっていたんだって
この世で一番狂ってるのは自分に火をつける連中だって…おっと
立派な坊さんにもそんなことした奴がいたな
浅はかな考えは間違いを引き起こす
結論に至るにはそれまでの考えを
一度盛大にひっくり返してみることが必要なんだ
そうしないと確かな大人にはなれないのさ
洗濯機が脱水を始めた
俺は必要なだけのハンガーを用意する
こんな天気の日には洗濯物がよく乾くぜ
主婦はみんな暑い日が大好きなんだろうな
ああ、いや
洗濯をする主婦にとってはって話だけど
コール・ミスター・リー
呼び続けてる
面白いものを見せてくれよ
テレビジョン
プログラムは焼け尽き始めている
もう少ししたら俺は
猛烈な便意をこらえながら洗濯物を干すんだ
乾かすには一秒でも早いほうがいい











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2019/5/19

知らない道で親し気に話しかけてきた男  












ハーレー・ダビッドソンに跨った売女が陽の当たる大通りで存分にハンドルを振り回しているころ、西のほうの古いアーケードじゃ昨日そこでショットガンを撃ちまくって逃げている少年のニュースでもちきりだった、なんでもやつは黒字に白い文字でGODって書いてあるシャツを着ていたってよ、だからってわけじゃないだろうけどなんとなく宗教のせいだってことになってた、「神のために」って叫んでたのを聞いたってやつもいたけど、どうだろうな、少年の周辺にいた連中のほとんどは殺されたって話だから、案外目立ちたい誰かがでっちあげた与太話かもしれないな、そんなことがあったんだよ、昨日、まさにあんたが立ってるその辺りさ、なあ、信じられないだろ、昨日は一日中封鎖されて人っ子ひとりいなかったそうだよ、店もみんなシャッターを下ろしてさ、首尾よく逃げたガキが自分のところに来るんじゃないかって震えてたんだ、それがどうだ、まだそいつが捕まってもいないってのにいつも通りの繁華街さ、もちろん、ここで殺された連中のためにお悔やみくらいは口にしただろうけどね、あっけないもんだよな、あっけないもんだぜ、今朝はみんないつもより一時間早く起きて、そこらへん全部に水をぶちまけて血をきれいに洗い落としたって言ってたよ、そりゃまあ、商売しなきゃいけないんだからそのへんのことはわからなくもないけどね、なあ、日常ってのは惨酷なもんだよな、どんなことがあろうとそれはいつも通りに行われなけりゃいけないんだ、何人死んだところで生きてる人間のほうが多い、多数決なら必ずそいつらの勝ちになっちまう、まあ、数の力に価値を見出すのならって注釈はつくけれどね、だけどさ、釈然としねえよ、他人事なら命さえどうでもいいんだって言ってるみたいでさ、なに?犯人はどこに行ったのかって?それがまったくわかってないらしいんだな、なにしろ、間近で顔を見たやつらは全員殺されてるわけだし、騒動になってからはみんな自分の身を守るので精一杯だっただろうからね、どっちへ逃げたのか、どうやって逃げたのか、銃はどうしたのかって、だれもなにひとつ思い出せやしないって話だよ、でもたぶん、大きなバッグでも持ってたんじゃないのかな、そんなもんでもなけりゃうまく逃げられないだろうからね、おそらくだけど、事前に車でも盗んどいてさ、少し離れたところに止めてあったに違いないよ、ちょっと南に大きなホームセンターがあるだろ、たぶんあそこの駐車場だよな、なにしろ馬鹿でかいからな、あそこの駐車場はさ、警備員はいることはいるけど、出口の交通整理くらいだし、それに、何人いたってすべての車のチェックなんか絶対に無理だろうからな、うん?ずいぶん詳しいねって、おいおい、やめてくれよ、そんなふうにからかうもんじゃないぜ、おれ、そういう小説読むの、好きなんだ、バンカーとかさ、そういう物語に出てくる悪事の常套手段ってやつだよ、ああそうだ、知ってるかい、そういう話っていろんなのあるけどさ、クレバーなやりかたってのはやっぱり同じになるんだよな、そういうのもあってよく覚えてるんだ、動機はなんなんだろうって?そうだな、近頃のガキはすぐ癇癪起こすからな、おまけに、大人がみんな腑抜けになっちまっただろ、「ガキのすることだから」「ガキのすることだから」って、そんなことで収めようとしやがる、そんなふうに育てられた子供がどんな大人になるか知ってるか?大人になっても癇癪起こして、駄々こねてなんとかしようとすんだよ、本当に増えたよな、そんな連中が、確かに子供は天使だよ、だけど、そのまま大人になったら悪魔になっちまうんだ、そんなことも知らないのさ、最近のやつらは、ところであんたこのへんのもんじゃないよな?ああ、そう、随分遠いところから来たんだね、昨日じゃなくてよかったよな、永遠に帰れなくなってたかもしれないもんな、まあ、とにかく、これからどこに行くか知らないけど、気をつけていくんだよ、なにしろ犯人はまだ捕まってないんだから、どこかでばったり出くわすかもしれないよ、まあ、あんたはでもまだいいよ、無事に帰っちゃえばそれでおしまい、御の字なんだから、ここに住んでる連中はたまらんさ、とくに年頃の子供のいる親なんて気が気じゃないだろうな、まさかうちの子が、なんて、疑心暗鬼になったりしてさ、でもさ、これあくまでおれはそう思うってだけの話なんだけど、おれ犯人は子供じゃないんじゃないかっていう気がしてるんだよな、小柄で、声の高い男なんじゃないかって、おいおい、またそんな顔する、確かにおれもそうだけどさ、おれがそうだったら旅行客捕まえて自分からこんな話始めたりはしないだろうさ、それにほら、手ぶらだぜ、ショットガンなんてどこにも持ってない、だってそうだろ、あれは小回りが利かないからね、結構大変なんだぜ、たくさんの人間を撃つのって、そう、やっぱりナイフだよな、ひとりふたりくらいなら気づかれずに殺れるし、隠すのも簡単、素早くやれば返り血だってもらうことはないしね、おや、どうしたい、青い顔して…まあ、これから、もっと青くなるかもしれないね…。











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2019/5/13

バッド・アティチュード  




















さあ、とくと御覧あれ、なに、遠慮は無用だ、その辺の連中よりも、俺は見られることにはずいぶんと慣れている、もしもそういうことを気にしているのなら、君、本当に、少しも気など使う必要はないんだよ、特に関係のない相手に対してそうであるように、露骨に無遠慮に眺めていただいて一向に構わない、そもそも、俺はある種の覚悟でもってこの世界を生きている、そのことについて特別詳しく語る気はない、それは俺の個人的なスタンスというものであって、俺の中で完結していればいいだけのものだ、スタンスを殊更に語るのは、政治家か、あるいは、そいつらを叩きまくる連中がすることだ、そして、そんな連中とは一生涯、俺は関わる気はない、実際、そんな世界に興味を持つことはないだろう、この世がどんなに美しい世界であれ、どんなに醜悪な見世物であれ、俺は俺の人生を生きるだけなのだから…ほら御覧よ、この俺の内臓は君らの知ってるものとはずいぶん違ってしまっている、これはいつからかそういうものになってしまった、いや、勘違いしないで欲しい、病とか、そういう類の話ではない、回りくどい説明で非常に申し訳ない、けれど、世の中には、非常に湾曲させたりしなければダイレクトに伝わらない内容というものがあるのだよ、君がそれについてどれだけ知っているか、俺にはわからないけれどね、なに、これもスタンスの下りの中に押し込んで、聞いたような聞いてないような、朧げな記憶の中にでもとどめておいてもらえればいいよ、その程度で全然問題ない、もしもそれが君にとって必要なフレーズなら、あるとき君の記憶の壁を突き破って脳髄に突き刺さってくるだろう、ああ、初っ端から話が逸れてしまった、とかく詩人というものは、次から次へと思いつくままに喋り過ぎる、たったひとつの言葉だろうと、眩暈がしそうなほど書きつけられた言葉だろうと、それが書こうとしているものは同じなのにね?まあ、だけど、これは、あくまでも俺がそう思っているというだけのことなのだけど、参考までにひとつ話しておくよ、それはさ、言葉そのものを信じているのか、詩という形態を信じているのか、そういう違いなのさ、わかるかい?俺は言葉など信じてはいない、言葉それ自体は、部品のようなものだ、それをネジに例えるなら、誰が見たって同じネジだろう、でも、それをたとえばネジ本来の目的で使用せずに、テーブルいっぱいにばら撒いたら、それはもしかしたらネジでありながらネジでないものに見えてくるかもしれない、回転させれば小説にだってなり得るんだ、つまりはそういうことなんだね、俺が信じている形態というものはさ、もちろんそれはいくつもの意味を持つことが出来る、あえてネジというものにこだわることも出来るし、ネジであることなどどうでもいいといった見方をすることも出来る、ネジ以上、ネジ以外の意味を、同時にいくつも持つことが出来るんだ、そんなことのためにいつもいつも指先を動かしているせいか、俺は時々詩を書くという行為を、自分を解剖しているようだと感じることがあるんだ、内臓なんてたとえを使いたがるのはそのせいさ、自分の腹の皮膚を鋭利な刃物で慎重に裂いて、内臓を引き摺り出しているみたいだと感じる、そのとき聞こえる音や、指先に残る感触のことを、センテンスに変換しているんだって、つまりそれは、俺という思考のホルマリン漬けみたいなものなのさ、俺の部分的な死体だ、煙が出るくらいに稼働した、ある種の感覚の部分的な死体なのさ―俺はそれに理由を必要としない、これは何度も書いてきたことだ、なにかしら自分にとって意味のあることだからそれは作り出されるのだろうし、長いこと作り続けることが出来ているのだろう、それ以上どんな意味付けが必要だというんだ?余計なことを話したがる連中が多過ぎるんだ、プリンの作り方の話ばかりして、いつプリンを作っているのかわからないような連中、ウンザリするほど居るだろう?作り方は作り方であり、作ることは作ることだ、それは一見同じことのように思えるけれど、まるで違うふたつのことなんだ、同じだよ、君、そんなもの誰も納得したりしない、もっともらしい話が大好きながらんどうの頭蓋骨がカラカラ言いながら集まって来るだけだ、そんなやつらの仲間入りを果たしたいのか?俺は御免だ、吐気がする、高い服を羽織って、高い人間であるみたいな振る舞いをする道化には用がない、とにかく俺は、なにかを書き続けなけれならない、内臓を引き摺り出して、青褪めた顔でにやにやと笑いながらそれを両手に持ち、そこらの連中に差し出したり臭いを嗅がせたりして、喜ばれたり首を傾げられたり、鼻で笑われたりするのを楽しむだけだ、さあ君、少しは理解出来ただろう―それがどんな道だったかなんて、歩いてきた人間にしか語れないものなんだよ。














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