トリミング  














ルーティン・ワークが過ぎて、濡れて重くなった土砂のような気分の奥底から
溜め込んだフレーズを吐きながらポエジーがやってくる
「お前最近弛んでるんじゃないか」顔を合わすなりやつはそう糾弾する
俺はやつの語調にわざとらしさがあるのを見抜いて黙って指先を走らせる―ポエジーは少し時代錯誤なやり方を好みすぎる
「言葉が足りなくなってきてるんじゃないのか?」やつは俺をムカつかせようとしているのだ、適当な挑発をして―俺がやつの意のままになるところまで誘導しようとしてる、俺は無視して指先を走らせ続ける「よう」やつは諦めが悪い
一区切りさせて俺は指先を止めてやつに話しかける
「お前、人を乗せるのがああんまり上手くないな」ちっ、とやつは舌打ちをする「いいから続けろよ」とやつは言う
なので俺は遠慮なく進める「なぁ」しばらく静かにしていたポエジーは俺の手が止まるのを待って語調を変える「何でそんな無茶をする?」
無茶ってなんだ、と俺は尋ねる
それだよ、それ、とやつは俺のディスプレイを指差す
「お前は量産するようなタイプじゃないだろう」
「なんだ、心配してくれてるのか?」「当たり前だ…そらみろ、だんだんつまらなくなっていくじゃないか?なんて言われたくないものな」心配ない、と俺は答える
「それは言わせない―それはモチベーションのひとつになる」
一流ぶりやがって、とやつはまた舌打ちをする「そういうわけじゃない」と俺は答える
「モチベーションが欲しいだけさ」いつもと違う何か―いつもと違うテーマ
俺は完全に書くのを中断してやつに向かい合う「詩っていうのは基本的には幾つ書いたって同じものだ―同じ人間が同じ海に潜って多少深いか浅いかのところでスケッチをし続けるようなものだからな」ふむ、とポエジーは続きを促す
「言葉は同じでいい」と、俺は続ける「この前東京に言って詩の話をしたときにさ―そのときはでかい木に例えたんだ「木にね」
「要するに表現ってのは樹齢何千年とかの―でかい木の周りをぐるぐる回って、目に付いた実をもいで食うようなものさ、それが美味いか不味いか、甘いか渋いか、そんなような事さ…同じでいい、っていうのはつまりそういうことだ…もしかしたらそれは、たった一人だけがうろうろしてる木じゃないかもしれないしな」「まあ、趣味趣向―そういうものによって何人か居るだろうな」ポエジーが言う、俺は頷く
「幹の近くに寄れば寄るほどそこにどんな虫が生きているかとかどんな形の節があるかとか、そういうことがより判る―逆に離れてみればそれがどんなに枝を広げているのか、どれぐらい地面に根を張っているのかとか、そういうことが判るわけだ」「うん」
「ひとつの木ってだけでおそらく我々は一生詩を書いても書ききれないだけのものを目にしなければならない、その中で取捨選択をして、どんな風にそれを描くのかということ―それを時々の正直さで描いていかないといけないわけだ」「なるほど、それで?」
「でもそれはあくまで外見に過ぎない―例え斧か何かで幹を切り裂いて見たとしても、それはやっぱり外観出しかないわけだ、判るな?」「ああ」
「われわれは馬鹿でかい木を見つめながら、そいつの中の命がどんな風に脈を打っているのかというところに頭を巡らす…様々なイメージが様々に形を成し、様々な表現でもって語られ始める」「うん」「それを俺はポエジーと呼んでるというわけだ―趣味趣向の範疇でな」やつは笑う
「そうなってからがポエジーだよな―写実主義にしたって魂で描かれなくちゃ意味はないもんな」「写真だってそうだ」「いわばトリミングってやつだな―俺たちはいつ如何なる条件でなにをうたうにしても、きっとトリミングってやつをやってるんだろう」「じゃあお前にとって俺はトリミングってことか?」「少なくとも今日はそこに落ち着きそうだな」
ふむ、とポエジーは少し考え込む
やつがいつまでたっても話し始めないので俺はディスプレイに向き直る、そのときちょっとしたアイデァが生まれる
「なあ、この話今日のネタにしちまっていいか?」かまわんよ、とやつは答える
「俺もそれを提案しようと思っていた―お前今日は何度も出だしをやり直していたしな」そしてやつは幾分綺麗になった住処へ戻っていった―なんだか面倒臭そうに
さて、と俺はピアニストのように指先を構えなおした





そんな風にこの詩は出来た
本当にやつが目の前に居たのかどうか?


そいつは、俺にも本当のところはよく判らないんだな














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