サイレン  









正確に流れる音楽がたまらない不快感を残すので
折った鉛筆の先で中指を突いた
瞬間に骨に達するもの
瞬間に骨に達するもの
馬鹿馬鹿しいことだけれど一番重要なもの
簡潔すぎて流血すら遅れる
壁の向こうで朝が騒いでいる
昨夜剥いだ蜜柑の皮が死別のあとの色になってる
正確に流れる音楽がたまらない不快感を残すので
果物ナイフで頭の皮を少し剥いだ
痺れに似た痛みと汗のような血液
ねぶってみると汗よりは確かに甘かった
痛みを抱えたまま風呂に入った
あまりにも湯が沁みてひとしきり笑った
消毒をして包帯を巻いて
表通りへ散歩に出かけた
はしゃぐ子供を見るたびに沸き立つ
即効性の殺意に辟易しながら
あらゆる店のショーウィンドウを覗きこんでいると
あるときガラスに映る自分の角度がおかしいことに気づいた
(そこにあまり執着してはいけない)予感のようなものを覚えて
それきりどこかを覗き込むことは止めた
額をぽんと叩いたら皮を剥がれたところに響いて
それでどうにか騒ぐ心は静まった
弱点は多い方が防衛には適しているというものだ
喫茶店に入った
少し懐古主義が過ぎる喫茶店に
モンブラン・ケーキとアメリカン・コーヒーを注文した
味には特別語るようなものはなかった
まあ腹に入ればみな同じとしたもんだし
ガソリンスタンドに居たんだよ
前足のひとつをかばいながら歩いている猫が
だけど俺はそいつが歩くたびに
可哀そうだと思って欲しがっているみたいに見えたんだ
運命を認められないやつみたいでイライラした
きっといつもそうして餌を欲しがって生きてきたんだろう
まあその猫にしてみれば
俺の考えなんて知ったこっちゃないんだろうし
だいいち俺がそいつについて思うことは
そいつにとっての真実かというとそういうことではないのだ
数年前に閉店したパブの店先に貼ってあるストリップのポスター
色褪せた欲望の釣針が飛べない羽のように風にはためいている
生まれては死んでいく種族の国旗だ
国旗はためく下に集まれ
根拠のない望みのもとへ泳いで行け億の単位
居酒屋の立ち並ぶ路地の物陰で突然嘔吐する
半分溶けたモンブランの哀れな雪崩
ごめんよかなり長いことポンコツなんだ
お前にしたことはずっと忘れない
別れ話のような約束を交わして
足早に路地をあとにした
時刻はもうすぐ正午になるところ
サイレンが鳴る前に家に帰ろう
サイレンが
サイレンが
サイレンが





鳴る








0



コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL





AutoPage最新お知らせ