2011/4/22

そんなことどうだっていい  






雨が窓に描く模様は
脳幹で鳴り続けるノイズの色をしてる、指でなぞると
細胞がどのくらい損失しているのか判る
軽く頬を叩くくらいの雨降りのくせに
それは必ず鼓膜まで届いてくる
浮浪者のていで路に横たわる悪趣味な神の静かな予言の様に
今はもう日が暮れてしまった、輝きが欲しいなら明日まで待ってくれ
今はもう日が暮れてしまった、明日まで…
非常階段で誰かがベンドし続けてるハモニカの音色にはくっきりと
「この例えようもない孤独」と
くっきりと記されている
ブレスのたびに雨に打たれてジャンクヤードに転がってゆく
おれは街角に立って
いつかの約束のやり直しをしてた
それがもう二度と果たされないものだとは
ずいぶん昔にしっかりと理解していたけれど
それでも傘をさして街角に立っていた
こんな雨の日にはそれしかやることがなかった
別に非常階段のハモニカを聞いていたいわけじゃなかった
ブルースは
それを歌い続けようとするやつのためだけにそこにあるものさ
昨日まで渇いていた街は一日中
しみったれた雨に濡れて
クラシックなデザインの街灯たちはみんな
涙をこらえているみたいに見える
果たすも果たせぬもない約束のためにここにいるのは
そうしたことで自分が満足したいせいなのだ
そういうのってもう本当は約束とも呼べない
だけどおれはそれを約束と呼ぶ、それだけでここに立つ理由になるから
約束は今日、義務の様に試されなければならなかった
おれはモデルハウスの様な存在理由で
ただここに立っているだけだ
ハモニカが止んで叫び声がした
それから
おれの傘に何か固いものが当たり、カラカラと地面に転がった
それは多分さっきまでうたっていたハモニカだった
それから男が降ってきた
雨とはずいぶんと違うやりかたで
(途中で排水パイプにぶつかって角度を変えた)
おれはハモニカを拾い上げ雨で洗った
そして軽く吹いてみた
地面に落ちた男は僅かにすら動くことはなかった
頭から流れる血液は
雨の夜でもはっきりとそう判るものだ
おれはハモニカを吹きながら
半ば砕けた男の顔を眺めた
年のころは二十代半ばだろうか、激しく泣いたような痕が頬にあった
ああ、ブルースは…ブルースは落下して砕けた、そんな風に終わりを迎えるブルースだって決して珍しいわけじゃなかった
その後の生体となってかれは雨に打たれ続けた
おれはかれほどに上手くベンド出来なかった
おれは約束をお終いにしてそこを離れた
ハモニカはなんとなくポケットにしまってしまった
そのかわり、傘を
かれの頭のあたりにかかるようにさしてきてやった
もうベンド出来ないことに比べたら
ずぶ濡れになることなんか大したことじゃない
ハモニカはまだ
死んだ男のものとは思えないくらいの熱を記憶していた
ポケットの中で発熱してるみたいだった
おれの約束はなんだったのかって?
そんなこと、どうだっていいじゃないか





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