朽ちた世界に降り積もる渇いた灰のささやかな音  







ヒスノイズ駆け巡る頭蓋骨抱えて朦朧する呆然のミッドナイト、乾燥気味の手の平で触れる顔は、切り刻まれた死体のように味気なくて空洞だ、どうしようもない睡魔を抱えたまま雨が落として行く一分一秒を眺めていた、通る…通り過ぎてゆく夜、透過的な百鬼夜行、この身に障りながら…風の中で瞬間に腐敗して渇き灰になりさらわれてゆく、日常という名の血肉、砂漠の砂のようにサラサラだ、蓄積しないものはゼロに等しい、確かなものは頭頂部の割目から抜け出して行く、霊魂が身体から抜けるみたいに…肉体はその余波を模倣して揺れる、だけどそれは正確な揺らぎとは途方もなく遠い、抜殻はだけど存在で輪郭ははっきりしていて、この身につけられた名前も成り立ちも周囲のやつらはみんな知っている、認識されれば命は出来あがる…鼓動など聞かせる必要は初めからない、温度など感じさせる必要は…冷たくても個人的で動作さえ目視出来れば…可能な限りまで折り曲げてみる関節、最後まで巻いたねじまきのような音が聞こえてくるまで…最後まで巻いたねじまきの音は浅い眠りの中の歯軋りの音に似ている、眠りが削がれている、眠りが…目を開けろ、流れを変化させて、死んだように眠る必要がある、だけどまぶたは開かない、同じ音が鳴り続ける、錆びている、とその音は語るだろう、どうしようもなく錆びついているのだと…そうして鳴らなければ気付くことが出来ないのだろう、と…一日の間止むことがなかった雨のためにそんな言葉は生まれる、どうでも構わないことをひとりで喋るみたいに、ぽつぽつと…ぽつぽつと、降り、床を打ち、流れてゆく、ベルトコンベアの上の部品にひとつずつボルトをはめ込み続ける工員みたいに、ぽつぽつと…ぽつぽつと…染み込んでゆく、染みついてゆく、リズム、どうしてそんなもののために、みそぎはあるのだろうか……同じ景色がうっすらと見えるだけだからカーテンを引いたままでいる、どうせこんな日は太陽など出ることはないし、窓越しに何が起こっているのかは知ることが出来るから…寝床の上で胡坐をかいてこんな日に濡れ続けているものたちについて考えた、役目もおぼろげにしか判らず、それがいつまでなのかも判らないまま…それは人が去り朽ちた家屋が語るものとよく似ている、その中ではたくさんの動物が死んでいる、たくさんの動物が死んで渇いている、もはや臭いもなくなっている…もう動物すらそこには近寄らないのだ、渇いていて…その佇まいは命とはリンクしないから、いつからか…床であった場所に散らばっている壁や天井であったもの、それらは牙のように地面から鋭角な先端を突き出している、まるで座礁した船のなれの果てだ、本来の目的を失ったものたちのなれの果て、錆びて、渇いていて…サラサラと少しずつ存在が消え失せてゆく、それらのものはかならずかつてという言葉ともに語られる、かつてなにかであったもの、かつて、そこに誰かが住んでいたもの、かつて、誰かがそれで海を渡ったもの…美しい女の死体写真のようにそれらは愛される、美しい女の死体写真のようにそれらは美しいのだ、いや、それらは美しい女の死体写真のように美しくあることでしかないのだ、それ以上も以下もない、開いたまま終わってしまった瞳孔のおだやかな艶だ、飴のように舌で転がりそうな…なれの果ては我知らず愛してしまうのが道理だ、己の中の渇きと、そう、同じ調べを見て…自分によく似た石膏像にキスをするかのように道理だ、渇いてひび割れてゆく己が内臓を、そこに重ねているのだ……少し肌寒いくらいの夜に起きていようとすると肩の付け根におかしな痺れを感じ始める、麻痺させられているかのような…じりじりとした微弱な電流だ、なにかに気付かせまいとするノイズだ、僅かな音でも気をそいでしまう、そんな種類の…抗うことは得策ではない、神経は消耗品だ、摩耗してゆくのだ、研ぎ澄ませようとすればするほど…気付いたときには劣化した電線のように焼け焦げて細くなってしまっている、流れに乗りながら見極めることだ、流れに乗りながら見極めることだ、あとどれだけ残っているのか…動くための機能は、あとどれだけ残っているのか…朽ちた家の張り出した屋根を叩く雨の音はどこかのドアをノックし続ける知らせみたいに聞こえる、お知らせです、遅すぎた、もう遅過ぎた…どこか新しいものを当たってください、この知らせに返信出来るような新しいものを…それがどんなものかは判りません、そんなものに知らせが行くことはありませんから…新しいものは知らせを必要としないのです…配達人は瑪瑙のような眼球でそんな言葉だけを繰り返すだろう、そんなものは殴り殺してしまえばいい、新しいものなどどのみち関係はないのだから……薄着をし過ぎて凍えている、凍えた身体は寝床を欲している、どこかに意地があるから一日を終わらせることが上手くない、本来の目的を失くしたまま濡れ続けるやつらのことを思う、それは渇いていて…死体のように味気なくて空洞なのだ。






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