On The Road Again ( new classics )  








ぼくら、たがいに言葉もなく
薄っすらと曇った空のした
だだっ広い荒野を切り裂くような
一本の道を歩き続けた
おんぼろの靴がいつまでもつかと心配だったけど
気にしたところでどうしようもないことだった
時々しか電波をキャッチ出来ないポータブル・ラジオからは
倒れそうなブライアン・ウィルソンが聞こえていた
「ねえ、いま何時かしら」ときみが言うので
ぼくはポケットの懐中時計を開いて時間を見た
「一時半を回ったとこだ」ぼくがそう言うときみは鼻を鳴らした
「お腹が空くわけだわ」
どういうわけかぼくはそんなふうには感じなかった、でもきみの機嫌を損ねるのは避けたかったので
そうだねと言って休憩を取ることにした、道を外れて荒地を歩き、テーブルみたいな巨大な岩に飛び乗った
ふう、ときみは息をついた
「あなたって、少し歩くの速すぎるわよね」
「そうかな」「そうよ」
「女の子を連れて歩いてるんだってこと忘れないで欲しいわ」
ごめん、とぼくは詫びた
いいのよ、ときみは言った
「これから気をつけてくれるなら」
それから簡単な食事をとった、食パンにも飽きたわね、ときみがつぶやいた
「でも、贅沢は言えないわ」ぼくたちは微笑んだ、そうとも、その通りだ
「次のモーテルまでどのくらい?」ぼくは地図を開いた
「あと三時間は歩くね」きみは首を横にふった「でも歩かなくちゃね」
「歩きはじめればすぐさ」とぼくは言った「いままでだってそうだった」「そうね」「これからもそうさ」
そうしてまた道にもどった


二時間ぐらい歩くと、雲が切れて西日になりはじめた「ねえ」しばらくぶりにきみが口を開けた「このくらいの時間帯好きだわ」
そうなんだ、とぼくは答えた、暑いなと思いながら
「お日様がムキになる感じがして…言うの初めてだっけ、これ?」
うん、とぼくは答えた「初めて聞くよ」
「ぼくはてっきりこういうのはきみの趣味じゃないだろうと思っていた」
「こういうのって?」「こんな毎日さ、歩きはじめてからの…すべてさ」
「あら」ときみはにやりと笑いながら言った「どうせお部屋でわがままばっかり言ってる手のかかるお嬢様だと思っていたんでしょう」
ぼくは苦笑した、たしかにその通りだった
「考えてみなさいよ」ときみは追い打ちをかけた「そんなお嬢様だったらこんな旅にのこのこ着いてくるはずないでしょう」
たしかにそうだ、とぼくは思った「たしかにそうだ」と認めるしかなかった
ふふん、ときみは勝ち誇った、そして、ビーチボーイズをハミングした、アルバム一枚分くらいでその日の宿に着いた


スティーブ・オースチンみたいな宿の主人は、フロントのカウンターで目を丸くした「この宿は十五年くらい営業してるが」
「歩いてやってきた客は初めてだ」
ぼくらはなぜか勝ち誇った
「どこから来たんだ?」ぼくは街の名を言った、はぁー、と男は変な声をあげた
「若さかね」「ケルアックもビックリだ」
ケルアックってだれよ、ときみが聞くと、男は少し傷ついた顔をした「昔のひとさ」「ふうん」それからぼくらは金を払い、男は部屋の鍵をくれた
「ひとつ、確認しとかないといけない」「家出とかじゃないな?」
違うよ、とぼくは答えた、でも詳しい話をする気はなかった
「それならいい」と男は言った、かれにも詳しく聞く気はないようだった
「面倒が起きないならいいんだ」ぼくは笑顔でその心配はない、と答えた
「食事はどうする?」「七時」
ぼくらは三つのメニューからピザを選んだ、「いいチョイスだ」
「おれは昔ピザ屋をやってたんだ」男は胸を張った、「潰れたの?」ときみが聞いた、いいや、と男は首をふった
「閉めたんだ」「どうして?」こほん、と男は咳ばらい「テレビを見る暇がないからさ」ぼくたちは笑った
「自由ってそういうもんだぜ」
「賛成」ときみが言った
ピザは文句なしに美味しかった
ぼくたちは満足してよく眠った


翌朝、きみはぼくより早く目を覚ましていた、それはこれまでで初めてのことだった「ねぇ」とぼくが身体を起こすなりきみは話しはじめた
「あたし、ここにするわ」
いいんじゃない、とぼくは答えた「かれは断らなさそうだし」「でしょ?」
それでぼくらは朝食のときにかれに話してみた
「おれはかまわねえけど」と、やっぱり男は答えた「だけどあんたたちはそれでいいのかい?」
もともとそういう旅なんだ、とぼくは答えた、たまたま落ち着く先を探してた二人が、たまたま一緒に旅をするようになっただけだと
「なるほど」と男は何度かうなずいた「それならなんの問題もない、正直おれは怠け癖があってね、手伝いが居てくれたほうがありがたい、仕事は簡単だしね、部屋は一番離れを使ってくれりゃあいい、そんなに儲かるわけじゃないがひとり雇うくらいなら楽勝だ」しゃあ、ときみは言った「よろしく」「あぁ」


そういうわけでぼくだけが旅支度をして昼ごろそこを離れた、二人は道まで出て来て見送ってくれた「元気でね」ときみは言った「落ち着く先が決まったら手紙を頂戴」ここの住所だ、と男が一枚のカードをくれた、ぼくはそれをリュックの外ポケットにしまった
「あなたと歩くの、結構好きだったわ」ときみは言った「すごく静かに、真面目に歩くもの」
意外だな、とぼくは言った「きみはそういう歩き方は嫌いだと思っていた」もちろん冗談だった、ぼくたちはひとしきり笑った
じゃあ、とぼくが言って、そこからはすごく真面目に別れた、二人はぼくがすごく離れるまでずっと見送ってくれた


ぼくが落ち着く先を見つけるのにはそれから二年かかった
ある小さな街のアパートの五階の一部屋がぼくの住処になった、仕事はザ・バンドばかりが流れるあるビルの地下にあるバーの見習いバーテンだった、ぼくはそのことを書いてきみのいるモーテルへと手紙を送った
返事はすぐに帰ってきた、お腹が大きくなったきみの写真といっしょに
ワーオ、とぼくは言った、そしてこころからおめでとうと言った


それからまた二年が過ぎた、ぼくは休みを取って、記憶を辿りながらきみのいるモーテルへと車を走らせている、後部座席にはベビー用品と、ジャック・ケルアックの本を乗せている、もしかしたらあのモーテルにはそれはあるかもしれないけれど…






クソ真面目に歩いてきた道を、イカしたエンジンで遠慮なくぶっ飛ばす、それがぼくらが手に入れた自分の居場所なんだ





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