2015/4/12

歩いても歩いても終わらない  










長い長い回廊の内側に等間隔で開けられた正方形の小さな窓からは、中庭が見下ろせる、回廊もおそらくは正方形で(と言うのは、まだすべてを歩ききっていないからで)、その回廊に囲まれた中庭も、きっとそうだろう、中庭の中心と思しき場所には遠い昔に涸れて崩れかけた簡素な石細工の噴水があり、その噴出孔であっただろうあたりにひとつのうつくしい羽根が置いてある、おれはその羽根を手に入れたくてもう長いことそこを歩いているらしいが、回廊はその場所で感じるよりもずっと大きなスケールで造られているらしく、どれだけ歩いても中庭への出口はおろか正方形の角にすらたどり着けなかった、なにかがおかしいことには気がついていた、だって、はるか遠くと言ったところで、向かうべき場所はずっと目に見えているのだし、移動しているにしては涸れた噴水の上の羽根はずっと目の横に見えている、おれはもしかしたら歩いていないのではあるまいかと足もとを見やってみると案の定同じところでずっと足踏みをしているに過ぎなかった、いったん足を止めてどうしてこんなことになっているんだ、と考える、もしか、おかしなまじないにでもかけられたのではあるまいか、おれはここから移動出来ないような仕掛けの中に組み込まれているのかと―そう考えたら無性に怖ろしくなり駆け出した、が、やはり結果は同じことで―向かうべき場所との距離はいっこうに変わらなかったし、噴水の上の羽根はずっと同じところに見えたままだった、なのでおれはすぐに諦めた、こんなことをしていても意味がない、移動出来ないのなら足を動かしていても…そもそもなぜおれはこんなところを歩いているのだろうか?おれは床に腰を下ろしてすこし考えてみようと思った、だが、座ったはずの身体は同じところにたたずんでいて、視界はまったく変化しなかった、わかったよ、とおれは思って、動くことも座ることも諦めた、そして、窓の方に向いて中庭をながめた、時刻は午後に入ったばかりだろうか?空には薄く雲が張ってあるらしく、間接照明のような明るさで世界は照らされていた、まるで、目覚めてすぐに目にする世界みたいだった、鳥や、虫の姿は見えなかった、噴水の周りは低木が柔らかなバリケードのように植えられていて、やはり正方形だった、徹底的に正方形の設定だった、おれにはそこがどこだかはまるで理解出来なかったが、そこがどこなのかを理解することはたいして重要じゃないように思われた、もしかしたら奇異過ぎる状況のせいでそうした部分に対する考えが欠落しているのかもしれないが、とにかくもそういうことはたいして重要じゃないような気がした、重要なのはただひとつで、ここでいったいなにをしようとしているのかということ、どうすれば事態は進展するのかという、それだけだった、まるで、バグだらけのゲームの世界観の中に放り込まれたみたいで、なにもかも釈然としなかった、プログラムのミスならおれには動きようがない―そうだろ?そうした世界観はいったん壊す以外に動かしようがないはずだ…あ、とおれは思わず声を上げた、壊すことか?たとえばこの窓を壊して、あの中庭に出て、あの羽根を手に取ることが出来ればこの不愉快なゲームはハッピーエンドを迎えるのだろうか?いや、だけど、それはバッドエンドかもしれない、この先を正しく移動することを考えれば、もしかしたらなにかしらの答えが得られるかもしれない、おれはしばらくの間窓から羽根をながめながらそうするにはどういう条件が必要なのだろう、と考えた、歩いても、走ってもダメ、座ることも出来ない、ここでこうして立っているか、動いているフリをすることしか出来ない、なんて理不尽な状態だろう?おれはなぜこんなところに放り込まれているのだろう…?とりあえず、すべての動作を試してみることにした、寝転んでみると、寝転ぶことが出来た、床はとてもつるつるに出来ていて、寝転んだまま移動することが出来そうだった、おれはそのまま、氷の上で遊んでいるペンギンのように腹で滑ってみた、上手くいった、ほどなく最初の角にたどり着いた、そこから曲がってみても見える景色にたいした違いはなかった、ただ太陽の位置が違って見えるだけだ、怖ろしいほどに特徴のない建物だった、まるで、余った場所にノープランで建てたどんなものでもかまわない建物のように思えた、おれはそこも同じように滑って移動した、開いている窓もなかったし、中庭に下りる出入口的なドアもまるで見当たらなかった、そして動いてみると、回廊はたいした大きさではなかった、おれは惑わされているのだろうか、とおれは考えた、でもなぜ?こんなわけの判らない世界でいったいどんなことをすれば終わらせることが出来る?裏技だけで終了させなければいけないみたいなゲームだった、ヒントらしきものも、目的も、理由も、まるで判らないまま、ゴールを目指さなければならないのだ、どうしていいか判らなかったので、とりあえずすべて回ってみようと思った、まだ、ふたつの辺を制覇したに過ぎないのだ、あとふたつの線に解答は置かれているかもしれない、おれは少し先へ先へと物事を考えすぎる、また腹ばいになりつぎの廊下を目指した、角を折れて新しく目に入ってきた廊下も、それまでの廊下とまるで同じ造りだった、開きそうな窓もなかったし、中庭に降りられそうな出入口もなかった、おい、よしてくれよ、とおれは思いながら最後の辺を目指した、そこで見える世界もやはり同じだった、まてよ、とおれは思った、だったらおれは、どうやってここに入ってきたというんだ?おれはすこし混乱した、瞬間的に頭に浮かんだのは、子供のころに飲料水の空ビンに詰め込んだアマガエルのことだった、やつらは柔らかいから、小さな穴からでも放り込むことが出来るのだ、そして、取り出すことは出来ない―おれはそういうものを想像した、おれはどこか、出ることの出来ない入口からここに投げ込まれたのかもしれない、思わず上を見上げた、味気ない天井があるだけだった、それはおれをすこしだけ冷静な気分にさせた、おれはつぎに床を叩いてみた、鈍い音の中にひとつだけ、奇妙に高くなる音を立てる場所があった、苦労して床板を外すと、そこに地価へ下りる階段があった、うそだろ、と思わず口をついて出た、ためしに降りてみると、きちんと降りることが出来た、そこから中庭に出て、噴水のそばにたどり着いた、崩れかけた噴水の細工には、「一九五〇」と刻まれてあった、ただ、そうとだけ刻まれてあった、たぶん年号のことだろうと思った…羽根を手に取ると、すべては一瞬で消え去った、おれは砂漠の真っ只中に居た。








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