焼身自殺のニュースの記憶とテレビジョンの彼方の洗濯物の状態について  

























狂った夏の中に君はいた
汗はとめどなく流れて
叫びは果てしなく溢れた
太陽は執拗なほどの
光と熱を地上に浴びせ続けて
あるものは犯罪者になり
あるものは自殺者になった
飲食店街に流れるクラシックは
時計じかけのオレンジの暗喩だった
川べりの廃車の中に
へその緒つきの胎児の腐乱死体
ある時点まではみんなが
クマか何かのぬいぐるみだと思い込んでいた
だから発見が遅れてしまって
明らかになった時にはなにもかもが手遅れな状態だった
クジラを殺すなと叫んでいる外国人たちの心理は
きっと人種差別から始まっていると思えるのは気のせいだろうか
やあ君、よく晴れているよ
こんな日は一日中洗濯機を回して
こんな世の中でもなにかひとつくらいは
綺麗に出来るものがあるなんて感傷に浸るのも悪くないんじゃないか
トム・ヴァーレンの声が廊下に反響している
気をつけろ、その先は崖だ
洗濯機が回り始めると
同居人が手なづけた鳩たちが餌をもらえるかもしれないと寄ってくる
勘違いするな、俺はお前の友達じゃない
食べ物を分け合うような間柄じゃない
お前らの振る舞いにはおこぼれをもらうためのノウハウが溢れすぎていて
見ていると胸糞が悪くなるんだ
今朝から鼻が緩くて辟易している
昨日は少しやりすぎたのさ
気の利いたフレーズを思いついたのだけど
くしゃみした拍子に忘れてしまった
はぐれた紙吹雪みたいな羽虫が飛んでいる
窓を背もたれにして詩を書くにはいささか暑過ぎる
だから俺の身体はかすかに歪んでいる
ディストーションのかかったギターみたいにさ
なあ、エフェクターをたくさん持っていたとしても
使い所がわかっていないんじゃマヌケな結果にしかならないよな
このまえなんかの番組で見たんだよ
「もうキーボードに転向しなよ」なんて
したり顔で言ってあげなくなるようなプレイをさ
ノウハウが溢れすぎて、手段がよりどりみどりで
寝たきりの老人にだって格闘技が語れる時代だ
ほんの少し先に始めた誰かが
適当にこしらえたプロセスを鵜呑みにするせいで
良く出来てるだけの作品がそこら中にばら撒かれる
そいつには動機がない
快楽殺人よりもタチが悪い
モチベーションとモチーフ、大事なのは
自分がどこに立っているのかを忘れないようにすることさ
それが決まりごとから大きく外れたものであったとしても
実行することで何かが変わると感じるならスイッチを入れることさ
おっと、表通りでものすごいクラッシュの音
路面電車に車が激突したらしいぜ
そういえば、もう結構な昔の話だけど
路面電車に飛び込んで死んだ老婆がいたんだ
俺は彼女がそういう選択をしたことがすごく不思議でしょうがなかった
路面電車っていう乗り物は自殺には不向きな気がしたんだ
だってあれにはどこか呑気な印象があるじゃないか?
だけど、今思うに
彼女にとってはきっと
最期にそれを選ぼうと思うくらい
繋がりのある乗り物だったんだろうな
そう、そういえば昔住んでた通りをそのまま西へ進んだところにあるバカでかい公園の小さな野外ステージでは
灯油を頭からかぶって火をつけて死んだ女がいたんだ
あれはもう何十年も前の出来事だ
45歳の女って話だった
そんな歳になると焼け死にたいほどの人生が待っているのだろうかって思ったもんだったよ
幸い、そんな気分になったことは一度もないけどな
焼身自殺の話をもうひとつ知ってる、今住んでるところから割と近い
たいして遊具も置いてない草まみれの公園さ
そこの向かいのマンションに住んでるってやつに
詳しい話を聞いたことがあるんだ
いまでも屋根の焼け焦げた休憩所が残っていて
俺は時々そこに腰を下ろして
缶コーヒーを飲みながら考えるんだ、ここに黒焦げの死体が転がっていたんだって
この世で一番狂ってるのは自分に火をつける連中だって…おっと
立派な坊さんにもそんなことした奴がいたな
浅はかな考えは間違いを引き起こす
結論に至るにはそれまでの考えを
一度盛大にひっくり返してみることが必要なんだ
そうしないと確かな大人にはなれないのさ
洗濯機が脱水を始めた
俺は必要なだけのハンガーを用意する
こんな天気の日には洗濯物がよく乾くぜ
主婦はみんな暑い日が大好きなんだろうな
ああ、いや
洗濯をする主婦にとってはって話だけど
コール・ミスター・リー
呼び続けてる
面白いものを見せてくれよ
テレビジョン
プログラムは焼け尽き始めている
もう少ししたら俺は
猛烈な便意をこらえながら洗濯物を干すんだ
乾かすには一秒でも早いほうがいい











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