無数の血膨れの夜  










頭蓋骨の中で絨毯爆撃は繰り返され、その衝撃で俺の脳漿は四方八方を跳ね回り、幾つもの白昼夢が同時に展開された、それは不思議なほど幸せな光景ばかりで…俺はきっと薬物中毒患者のように目を見開いていただろう、呼吸は不規則で―まるで両の肺がそれぞれの意思で自殺しようと目論んでいるみたいだった、それはもはや呼吸とは言えなかった、それはもはや呼吸とは…在り得ないマルチタスクの中で精神だけが奇妙なほどに静かだった、白ける、というやつだ、他にどんな精神状態が有り得るというのだろう?俺は確かに沈黙し、目を見開いて、覚束ない呼吸をしながら、何が起こっているんだと自問自答をするしかなかった…散乱した問いにはひとつとして、納得のいく回答は得られなかった、まあいい、どのみち頭で理解したところで、なにかが出来得るという状況ではないだろう―俺は呼吸を鎮めようと試みた、けれど上手くいかなかった、身体は自分のコントロールから外れていた、大きく乱れていた、大きく乱れて…まるで誰かに脊髄を鷲掴みにされて揺さぶられているかのような暴れようだった、何が起こっているんだ、俺はとうとうそれを口に出した、そうしないことにはもう他のどんなことも次の展開を連れてくることが出来なかった、汗が吹き出し―無理に声を出したせいかもしれない、心臓は一昔前に流行ったジャングルビートみたいに左胸で転がった…体温は奇妙なほどに下がり、それに伴って汗の温度も少しずつ冷たくなった、幸せな、穏やかな光景はそれぞれの画面で果てしなく繰り広げられた、なのに、それが喚起させるイメージはおぞましいものばかりだった、頭を轢き潰された男、うつぶせに寝かされて窒息した赤ん坊、ローラーの下の作業員…何かが鼻に詰まっているのか、血の臭いばかりが感じられた、もちろん例えるなら血の臭いということだが―血管が鉄のパイプになった気がした…血液は雨樋を落ちる雨粒のように流れていた、つまり、心臓の動きとはまるで連動していなかった、遮断されている、と俺は思った、すべてが遮断されている、それぞれの器官が好き勝手に主張を始めていた、それはもう人間の身体ではないように思えた、人間の器に放り込まれた人間ではない何かが起こす誤作動なのだ、そうさ、俺は人間にはなれなかった、聖者にもなれなかった、人殺しにだって…そうして詩は溢れてきた、嵐の夜の鉄砲水のように―俺は吐き出すしかなかった、いつだってそうだった、それは己の為の調律だった、すべてが上手く機能するように、正常に働くように…俺はそれをやり続けることに決めた、少々窮屈な、制限された世界ではあったけれど、その堅苦しさは居心地がよかった、だから俺は、いつでもその部屋の中で死んでいた、何度も、何度も…言葉は激しく繰り返され、混乱を吸い取って行った、俺はその、自ら作り上げた暗闇の中へいろいろなものを投げ込んでいった、時には誰かから見れば大事なものもあった、俺の目からしても必要だろうと思われるものだってあった、でも俺はそれを持っているわけにはいかなかった、それは俺自身を嘘に変えてしまう手続きの為のものだったのだ…俺は狂ったようにあらゆるものを吐き出した、吐き出しているうちにそいつらは、自分が望んでいるかたちを俺に語り掛けてくるようになった、それは言葉で、ではなかった、それはいわゆるテレパシーのようなものだった、やつらは、それを望んでいるのだというイメージを俺に投げかけてくるのだ、深夜のテーブルの上で…俺は過去に書いた詩を、声に出して読み始めた、脳内で繰り返されるイメージがひとつずつ、モニター画面が割れるみたいに砕けては消えて行った…時々、そう、ほんの時々だが、何を壊しているのだと思うことがある、俺が生きるためのこの破壊は、もしや俺自身を壊しているのではないのかと―俺自身の構成をほんの少し壊すことで生き永らえる、いわば延命措置のようなものではないのかと…それならば、その繰り返しによっていま生存しているこの俺は、いったい何者なのかと…それはまるで無駄な問いのように思える、あれはこれだと定義することにいったい何の意味がある?断定は自己満足に過ぎない、俺は俺自身の行き先を知りたくて懸命に目を開いているに過ぎないのだ、けれど、でも、その問は時々、静観出来ないほどの圧力を持って俺に伸し掛かってくる、お前が殺し続けているものはなんだと…いまお前の足元に転がっているそいつはいったい誰なんだと…それは俺の足元にうつぶせに倒れている、ひっくり返せ、と問を発する誰かが言う、その要求は拡散し、反響して、群衆の怒声のようなものに変わる、俺はそれがまるで使命であるかのように錯覚してしまう、心の中ではすでに理解しているその正体を確かめんと、血塗れの左肩に手をかけ、蓋を開けるみたいに裏返す、すでに硬直が始まっている、それは…












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