死はない、死はない、知らない  










ふたたび目覚めたときには
世界は様変わりしているだろう
おまえは目を見開いて
そのひとつひとつを心ゆくまで確かめることだろう


進化の過程に
われわれは必要ない
疑似餌を食らった魚のように
引き摺られていくことが出来るだけだ
草臥れたアスファルトで
弱い肌にいくつもの切り傷をつくって


目覚まし時計はもう鳴ることはないだろう
おれたちは時そのものとなって生きることが出来る
心臓に染み込んだリズムは
有限でありながら永遠を感じさせるだろう
なにもかもありのまま受け取ることは出来ない
それならば出来る限りの
ヴァリエーションを生み出せなければ真実は遠ざかるばかりだ


鳥よ、おまえたちの羽を撃ち抜く
いかづちの鋭さを目にしたか
魚よ、おまえたちを守る天蓋に
機銃掃射のように降り注ぐ雨の音を聞いたか?
おれたちは恐怖を覚え
生き永らえることは後ずさりのくりかえし
すくみ上がった身体は見知らぬ出来事に対して
ぴくりとも動くことは出来ないだろう


神よ、おれたちは勇者ではない
けれど
たたかいはかならずしもそいつを選んではくれない
容赦なく放り込まれて、持たされた剣で
切り刻むものは敵と名付けられた運命かはたまた自分自身か?


植物の葉がメランコリィを口ずさんでいる
おれはあけがたのまどろみの中でそのメロディを耳にしている
手放されたものたちがすこしはなれたところに大勢で佇んで
なにをも感じない表情でこちらを眺めているみたいなメロディ


知らぬ間に貫かれている
知らぬ間に殴り飛ばされている
知らぬ間に切り刻まれている
知らぬ間に息の根を止められて
墓石に残す言葉まですでに発注されている
くちびるに滲んた血をぬぐえ
ずっとそのことが怖かったのなら
どうしていまさらそんなふうに悔しがってみせるんだ?


全身にひとつの烙印が刻まれたあどけない天使は
おまえの血の色をずっと検分していた
仕入れた食材を見つめる料理人のように
木々のしなりを確かめる木工職人のように


死はない、死はない、知らない
一時停止のボタンが押されるだけのこと
思い出せない昔まで遡ってみるだけのこと


やがてこれ見よがしな朝陽が眼球を射貫くとき
おまえはもう一度生まれたわけを知るだろう
それはけっして言葉にはなりはしないが
おまえが死ぬまでおまえのことを突き動かしてやまないだろう
世界のなかに落ちている沈黙をひとつずつ拾い上げて
おまえはそれを自分自身に変えていくだろう
あしあとのことなんて気にする必要はない
それはどんなことをしたって永遠には残れない


すべてがおまえだけを残したとき
おまえはそれでもなにかを口にしようと思うだろうか
語り掛けるみたいに長い手紙を書いてみたりするだろうか
おまえ以外のだれのためのものでもない言葉たちは
そのときおまえを安らかな眠りへと導くことが出来るだろうか?
おれは答えを持たない
おまえだって持つことはない
人が百年のなかで覚えることなど
生命にとっては余興にもならない
安心してすべてを吐き出すがいい
おまえの理想郷は崩れ落ちることはないだろう
おれたちは催眠術師のように
そうだ、そうだと知ってるみたいに繰り返し
ありもしないことについてべらべらとまくし立てる
そしてやがてカラカラになった水を潤そうと
タンブラーを空にした瞬間に錆びのような苦みを覚えるだろう


だれが本当のことなど口にすると言うのか?
そんなことが出来る人間などひとりもいない
みんなひとりよがりで
みんな愚かしくて
そしてあまりにも命が短過ぎる
臨終の床で目を見開いたところで
見えるのは真っ黒い影ばかりなのだ


海岸に並べられた無数のベッドに
世界一静かな恨みごとを吐いて横になろう
やがてすべては砂に飲み込まれる
さあ、始めよう、イントロはさまざまだ
けれどエンディングはおおむね決められている
自分自身のことを果てしなく語るべきだ
たとえ他にだれのすがたも見当たらなくても
たとえおまえの運命がやんわりとそんな行為を拒否しようとしても
出来ることは限られている
始めたのなら
どんな無残な結果になろうと最期まで続けるべきさ


肉体のあちこちに穿たれた穴は
かならずおまえを楽にするだろう
どんな痛みがおまえを覆っていたとしても
思い出にもならないほどに忘れさせてくれるだろう
あの日の、あの時の
身震いするほどの喜びと浄化は
いつだって骨まで軋ませるようなその痛みのせいだったというのに


朝日が昇るだろう
ごらんよ
こんなにも寒いんだ
こんなにも暗く
こんなにも寂しい時間
それはかならず待たなければならないものなんだ
それはかならず耐えなければならないものなんだ
ごらんよ
海原の向こうは


まるで爆撃のように色を変え始めているよ







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