アイ・ガット・リズム  












騒々しい球体がずっと頭蓋骨のあちこちを転がり続けているみたいな目覚め、ふやけた景色が見覚えのあるものに戻るまで起きていないふりをして憂鬱をやり過ごし、生存確認のような慎重さで身体を起こし気温の低さに身震いをする、知っているはずのすべてがまるで知らないものなのではないかと疑ってしまう瞬間は確かにある、まばたきは最も簡単な自己暗示だ、そうするだけで現実のいくつかは涼しい顔をして戻って来る、起きた瞬間に忘れてしまう夢は一番質が悪い、どうしてもそこに覚えていなければならない何かがあったような気がして、そして結局は思い出すことが出来ないままに終わる、かと思えば、何年も経ってから気が触れたように思い出したりすることがある、そのせいか近頃は先々思い出すのではないかと奇妙な安心の仕方をするようになった、思い出したところでそこには決まって覚えているべきだった事柄などひとつもなかった、そんな気がした、ということはつまり、そんな気がしたというだけのことだ、ある種の出来事については、感覚などまるで信じるに値しない、そしてほとんどの人間はそのことを知らない、知らない人間ほど確信する、自分の目に映るもののすべてを直観だけで判断してしまう、そしてそんな調子で一度定義されたものは二度と揺らぐことはない、彼らにとって現実とは使い捨てだ、ファーストフードや、マスクみたいなものだ、ようやく洗面で顔を洗った、目覚めて数分は下らない考えの中をだらだらと泳いでしまう、どこかがまだ夢の世界に繋がったままでいるのかもしれない、イマジネーションへのアクセスだけは昔から抜群に良かった、そしてそのせいでその他のほとんどの回線とは上手く繋がらないままいままで生きている、昔はそれが良くないことなんじゃないかと考えたこともあった、まだ本質的になにも確立されていないころだ、少しずつ、いろいろなことを試している間に次第にそれでいいのだと考えるようになった、それだって結構昔のことだ、どんな些事に追われることとなっても、そうして得たものは変ることはなかった、自分の生きるべき人生を生きている、簡単に言葉にするとそういうことになる、自分の人生を生きているということは自分の使うべき言葉があり、それを理解しているということだ、そこに至る人間と至らない人間が居る、知らない人間ほど確信する、という言葉について事細かに説明するとそういうことになる、歯ブラシの動くリズムでイマジネーションは続く、トーストを焼き、ピーナッツバターを塗り、インスタントコーヒーを入れる、考えてみればこれだけ同じことを繰り返して生きているのだ、時折それを疑う日があるくらいが正常なのかもしれない、人間は変化を求め続ける、なのに本当の変化の前では目を閉じてしまうことがある、臆病な人間がもっとも頑ななのだ、ニュースを見ているがボリュームは上げない、ほとんどのことは字幕が教えてくれる、言葉に頼り過ぎるのは絵を持つ媒体としては敗北なのじゃないかといく気がする、もちろん本気じゃない、テレビ・プログラムはそれを作成している人間以外はそれほど真剣に受け取るべきではない、タレントの発言にいちいち口を尖らせている連中は日頃余程脳味噌を遊ばせているのだろう、朝食はすぐに終わる、しっかりした建物に住むようになってから人は生きるために食うという感覚を忘れた、バランスのおかしい食が世間には蔓延している、それはバランスのおかしい身体を作り上げる、エネルギーを感覚的に理解していないからそういうことになる、メンタルだのフィジカルだのについて論ずることには意味はない、メンタルはフィジカルだし、逆もまた然りだ、周囲はいつでも感覚が断線している、Wi-Fiの電波を気にし過ぎて他のことを気にしていない、思考は一度のタップ程度にしか動かない、服を着替えて外出する、群衆は魑魅魍魎だ、百鬼夜行を描いた人間はおそらくそのことを知っている、安い靴の靴底は脆い、歩きやすくするためにインソールを入れていると破れ始めても気がつかない、どこかを補うとどこかが綻びるのだ、ほとんどのことがそういう風に出来ている、街は変り映えしない、田舎町には文化という概念がない、文明の端っこがあるだけだ、この辺の連中は判りやすいことをシンプルだと言う、シンプルイズベストだと、あきれてものも言えない、それはあらゆることを試してその中から最良のものを選択した人間だけに言える言葉だ、それはもっとも日常から遠い概念だ、本棚が空っぽなことを自慢するべきではない、だから本屋に行く、たくさんの本が置いてあるところに、スワイプやスクロールで読むものは奥深くまで入って来ることはない、それがどうしてなのかは判らない、古い人間だからかもしれない、もしそうじゃないのであれば、そこにはリズムが生まれにくいからだ、リズムだった、リズムと共に生きてきた、そしてそれはこれからもずっとそうだろう、リズムの為にキーボードはノックされ、ワードは埋め尽くされるだろう、新しく手に入れたものはなかった、けれど、新しく何かを書くことは出来るだろう。













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