深海の寝床で  










なにもない
なにもない
なにもない部屋を塗り潰して
深海の色に変換した
息の続く海底で沈んだまま
太陽に焼かれる夢を見る
三月
手のひらのなかで
なにかが
握り潰された音がしたけれど
ひらいたそこには
欠片ひとつなく
水晶体にまで
無音が染み込んでくる
思考は汗のように滲み
ああ、だが
それは
肉体の存在をあやふやなフォーカスにしてしまう
ここにいる、と
示すべき床がなくなる
あぶくが見え
窒息の予感がした
観念的な死は
継続する限り
本当の死よりも始末が悪い
深海の色にしたのは、おそらく
匿名性を強くするためだ
泳ぎましょうか
浮力はないけれど
ただ腰を下ろしているだけでは
あまりにも退屈で
揺らいでいることを歌いたかった
幻想をすべて
取っ払えばこんなもんさ
丸裸になることは容易ではない
でもほら、
それは成り立っているじゃないか
原稿用紙に鉛筆で書こうじゃないか
それはいつか細胞分裂を起こして進化するだろう
孵化せよ、孵化せよ
薄い膜に包まれたあの頃からやりなおそう
時計の音はぼやけている
魚になりました
痛覚がない
漂っている
鍵がかかっている
水はどこにも漏れることはないよ
触れて確かめるんだ
まだ、そこにあることを
フィジカルとメンタルは分離してはならない
ここにいる、ここから始まる、いつだって
それがたとえば
垂直や水平の保たれた場所でなくてもなんの問題もないじゃないか
環境が人を作るなんて嘘さ
結局は人がそれを塗り潰すんだ
深海
おぞましい魚になろうか
それとも
砂の中に潜ろうか
塩分濃度は悪影響を及ぼしはしないか
ならば順応させるしかないか
生きると決めた場所ならなんだって出来るさ
どのみち、指折り数えてみれば
馬鹿みたいな歴史の方が多いんだ
水面に憧れない
それは生命とは関係がない
欲しいものなんかない
だから求め続けることが出来る
強大な圧力は官能的じゃないか
それは魂を浮き彫りにする手段なんだ
もう声なんか出せないと思えば
きっと横隔膜は本気で伸縮するだろう
手に入れることじゃない
失くすことなんだ
だから
ここにある空気はこんなにも煌くんだ






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