骨になったら壺のなか  

















ドブネズミの頭骨だけが綺麗に積み上げられた路地裏の酒場の看板の下にコカインの包み紙、側溝にかぶせられた石の蓋は片っ端から破壊されていて、外灯はけたたましく点滅している…メタリカのショーみたいに…焼夷弾のように少しの間降り注いだスコールが上がる気温に連れて行かれてもやになっている、インチキまがいの霊能者ならそいつをいかがわしい景色のように語るだろう、空気は空ぶかししたあとの排気みたいなにおいがした、ここまで車は入ってこれないはずだけど―路上でいかにもな詩人がいかにもな詩を朗読している、スタンダードから決死の思いでダイブしてそこに立っているはずなのになぜどうして同じ価値観ですべてを話そうとするのだろうか?俺はよほど彼の。大きさだけが頼りの男根を弄ぶような真似を止めてそのことを問いただそうと思ったけれど結局そうはしなかった、俺だってそれぐらいのことは学習した、あらかじめリミッターがかけられた思考の持ち主にその範囲以外の話をしたって理解出来るわけはないのだ…そんな話をしたって意味がないのさ、彼らはすべての話をなかったことにして、俺のことを、自分に否を突きつけるいけ好かない野郎だという結論だけを残すだろう、そして俺がそのままそいつの前から離れても、違う誰かを捕まえてまた同じような真似をするだろう…人間は考える葦なんかじゃない、実際、そこらへんの葦となんら違いなんかないものさ、いまはね―思考は必要のないものになってしまった、カレンダーをいかに多く塗り潰せるか、という目的でしかもう人間は機能していない、いや―俺には彼らを馬鹿にするつもりなんかないよ、だってそうだろう、それは利口だの馬鹿だのという概念からはまるで関係のない出来事なんだから…トラックに並んだ走者の分しかタイムは計られないものだよ…そんなわけで俺は人影の見える通りをなるべく避けて、路地裏や住宅街をたくさん歩いた、ビニール傘とガチでファイトしている50半ばくらいの男が居た、飲んでいるのかと思ったが足元は確かだった、やつがおかしいのはアルコールのせいではないようだ…精神病院にいる弟のことを思い出した、そして、すぐに忘れた―ドブネズミの骨のように積み上げられる人生がいくつも転がっている、風が吹けば転がり、ひとつふたつ居なくなったりして…それにしてもカラカラとよく渇くものだね、なぜそんなに…自動販売機の灯りに吸い寄せられて、欲しくもないのに缶コーヒーを買ってしまう、ろくでもない習性、だけどどうもこれは治りそうもないね…住宅地の終わりには雑草にまみれた展望台がある、街の南端が一望出来る…昼間ならばの話だけど、夜は夜で、ちらほらと浮かぶ灯りが不自由な蛍みたいでまんざら捨てたもんでもない、この季節、蚊にたかられるのが弱りものだけど―少し戻ってコンビニで虫よけの薬を買う、近頃のこういった薬は馬鹿に出来ない、使うのが怖いくらいに効き目があるものもある…効かなきゃ効かないで文句を言うんだけどな、まったく始末に負えない…展望台に上って、ジーンズの裾でベンチの砂を払い、腰をおろして下界に目をやる、ここに居ると、出来事のすべては取るに足らない…取るに足らない世界の、取るに足らない生きものたちの、取るに足らない出来事…俺はこうだとヒステリックに叫ばなければなにも主張出来ない連中…小さな街はそんなやつらの、団栗の背比べのために用意されている、俺は場外に居る、どうこう言うつもりはないよ、どうこう言われさえしなければね…どういうわけかあいつらは、自分が言うのは良いけどこちらが言うのは認めないみたいだから…そんなことをしている間にも、細胞は次々と荼毘に付されていくというのにね…死と再生、死と再生…常にその中に居る、途方もない死と再生のなかに…世間話が上手くなったところでなんの役にも立たないさ、必要なやつらと、必要な話だけして、必要なものだけを選んで生きていきたいものだね、そんなことが本当に出来たらとりあえず幸せには違いないさ…いつか俺の再生も、死に追いつかなくなるだろう、流行病なんかで死ぬのは御免だね、ある程度やり尽くして、面白かったでお終いにしたいよ、今夜は夜明けまでここに居ようか、取るに足らない営みを眺めて、ぞろぞろと蟻が這い出るころにのんびり歩いてご帰宅と洒落込もうじゃないか…。










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