足音が聞こえないやつこそがいちばん長い距離を歩いている  
















脳髄を静かに掻き回すマイルスのエレクトリック
インスタントコーヒーの粉を食パンにぶちまけて湯を飲む
退屈にかまけた下らない遊びさ、ハナから味なんか期待してない
だから心配しないで、俺はまともさ
少なくともまともさを疑うこともない連中よりは
ただ同じことを繰り返したくないだけ
日常に慣れて、間抜けな面をさらしたくないだけさ
ダブ、その感覚
シルクで出来た蛇が身体を這い回るようだ
俺はいつしかポカンと口を開けて
細胞に染み込んでいく音に世界を植え付けられてる
台風が近づいてる、窓の外が揺れてる
みんな必要以上に死ぬことを怖がる
緊急避難速報がそこらで鳴り響いている
俺はそいつを鳴らすなって自分の携帯を躾けた
奇妙な献立は最後まで食わなかった
あとで屋上をうろついてる鳩にでも投げてやろう
情熱のあとの温度は低い、だけどそのかわり
そいつでは語れないいくつものことを語ることが出来る
黙って立ち上がれ、黙って始めろ
動機や意志を誰かに向けて話す必要なんかない
食事と同じで、ただ食い始めて飲み込めばいい
誰もお前が食おうとしているもののことなど知ろうとはしない
お前がそれを食っている姿に何かがあるかどうかさ
黙って行え
意欲は現実を超えない、すべてを捨てたって
たとえば命を懸けてみたところで
それはお前の指を重くするだけさ
動くべきところで動けなくなるだけさ
唸るだけの音だってグルーブになることが出来る
ただ鳴らされるだけの音はそれだけで意味を持ってる
そして
そうなるべくして加速していく
音楽を知っていればそういうことは自然と行われる
夜が切り開かれていく
マイルスが始まる
俺は力を抜き、耳を澄まして
夜を解体して部品を拾い上げていく
同じ部品から拾い上げるくせがついているのに
出来上がるものはいつも似ているようで違う
ブロックで遊ぶ子供みたいなもんさ
それは衝動がきちんと生きている証拠なんだ
出来上がったものが出来上がりなのさ
欲しいものが出来るから
こうしていつまでも続いているんだ
薄暗がりの回廊の中を
まだ覗いていないドアを探して歩き続けているのさ
それはきっと見つけ出すものに意味があるのではなくて
見つけ出そうとしている行為にこそ
理由というものが隠れているんだ
俺はそれを見つけ出したことがない
見つけ出すつもりもない
それは道路標識みたいなもので
目にしたところで「ああ、そうなんだ」で終わるものだから
だからこうしていつまでも続いているんだ
その日語るべきすべてを語るから
一見は無意味な羅列に過ぎなくても
なにかを残せた気がして
気分で始めてしまうのさ
いま、水を飲んできたんだ
丈夫な廃墟みたいな俺の家の給水管は剥き出しで家の壁に張りついていて
生温い水がたっぷり二十秒は出続ける
だけど、だから
最初から美味い水が出る最新式の住宅に住んでいる奴らよりは
水というものをよく知ってるんじゃないかなんてそんな気がするんだ
見つめている時間というものが必ずあるからさ
無自覚でいい、無駄な力を入れなければ
バックグラウンドで動き続けるシステムが出来上がる
表面上の動きや記録なんて細やかなものに過ぎない
そうでなければ表現なんてものにはなんの意味もなくなってしまうだろ
いつだってそうさ
すべてを語る気でいなければ
安売り商品を煽る看板とそんなに変わらないものになっちまう
偽物のシンプルの上に胡坐をかいちゃいけない
顕微鏡で世界を覗いてもでかい蟻が見えているだけだろう
俺は多分
俺自身を曖昧にしたいんだろうと思って
こんなことを書いている
本当はこんなことをするのに存在なんて邪魔なだけなんだ
俺の言ってる意味が分かるかい
俺にとってこいつはおそらく
瞑想の果てに観る世界みたいなものなのさ
配列し直される脳味噌、必要な記憶と感情の組み換えなのさ
命のないところ、人生のないところ、名前のないところに
俺の語るべき言葉がある
そう思えるのは楽しいことだぜ
だって一生追いかけられるって保証されたようなもんじゃないか
インプロビゼーション、ある日突然に始まり
ある日突然にゆっくりと終わる
今日がそのすべてであればいい
こうして黙って始める日のすべてが
俺は今日数時間、青空のそばにあった
臓腑が沸き立つような温度の中で
すぐに忘れてしまう詩をいくつも思いついた
言葉なんか書き留めておく必要はない
それはいつか必要になった時に帰ってくる
本当にそれを話すべき時に
もし俺にそれを話す機会がなかったら
こんなものをここまで読んでくれた君に訪れるかもしれない
もしもそんなものが君のところにやってきたら
そう
食事をするようにゆっくりと黙って始めてくれればいい










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