仄かなノスタルジーの監獄  










古いジャムの香り
おれたちの
もう二度と出せない声
無知ゆえの
喜びに
満ちた…

鎮魂歌は鳴りっぱなし
奏者には
もうどんな思いもない
ただ
指揮者がタクトを下すまで
手を止めてはならない

いうことだけ

型紙みたいなパンを齧りながら
午後の日差しを浴びていた
あたりは静かで
不自然なくらい静かで
まるで
世界と
切り離された気がした

木々が揺れるように
きみがそばに居れば
暖かい冬のように
もしきみがそばに居れば

こう思わないか
小鳥たちは
目的を持たないから
囀っていられるのだ

不意におれは
身体を失くした気がした
薄く
軽い布のような心だけになって
誰も居ない地面で
風に
弄ばれているような…

いつかこんな時間に
もう一度おれは何かを書こうとするだろう
けれど、モチーフは
指先に伝わる頃には
もう
ほんの少しニュアンスを変えているだろう
おれは首を横に振る、いや、そんなことは

産声を上げた頃から
全部わかっているんだ

おれも
おれが書きつけるものも
おそらくは
きっと
一枚の薄っぺらい布に過ぎなくて
風に煽られて片隅を浮かせたり
苛立たしげに
裏返ったりを繰り返しているのだ

身体についた
パンのかけらを払い落とし
量が多いだけが取り柄の
コーヒーを飲み干す
ひとつ小さなゲップをする
口もとを指で拭う

長い夜が始まる
きみがそばに居れば










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