ある日のBar。
西葛西に新しいカレー屋が出来るらしいとの話でマスターと盛り上がっていたら、常連の一人がやって来た。
この人はなかなかの粋人で、蕎麦通でもある。沢登りや渓流釣りもする。
川に行ってきた時のお土産だよと出してくれたのが、
高橋わさび園の『純わさび』。
山葵の葉も茎も酒粕に漬けたもの。いわゆる山葵漬け。
酒粕の甘味に、山葵の辛味が良くあっている。
スーパーやお土産屋で売っている山葵漬けには、酒粕だらけのものや、気の抜けたような山葵を使っているものがある。なかにはコストを抑える為に西洋わさびを加えたものさえある。酒粕も良い物を使うとそれなりに値が張るので、カスのような酒粕に調味料を添加したものも。
この手の話は何も山葵漬けに限ったことではないけれど、いくら品質の均一化を図る為だなんて言う理屈をつけたって、まがい物であることには変わりない。
本物を食べてみれば、その違いは明らかです。

写真が暗くてよく見えないかもしれないですが、当然のことながら、酒粕よりも山葵のほうが量が多い。
酒粕は、会津の名倉山の吟醸酒の酒粕を使用している。嫌味のない酒粕の甘さに山葵の香気が移り込んでいて、箸が止まらない。
この純わさびを食べてみると、出来のいい酒粕と山葵の相性がどれほど素晴らしいものなのかが分かる。というよりも、そんなことは知っていたはずなのに、いつの間にか本物の味を忘れてしまっている自分に気付く。家で食べていた山葵漬けと全然違うんだもの。
辛子レンコンや一文字ぐるぐるなんかで焼酎をやると堪らなく旨いものだが、この『純わさび』も美味しく酒が飲める。
ラフロイグをロックで飲んでいたのだが、焼酎が欲しくなって森伊蔵を出してもらった。
写真がないのですが、山葵の気高い香気を存分に味わいたいなら『純わさび』よりも『山の精』のほうが楽しめます。わさびの根を拍子切りにし、桂むきした大根でぐるぐる巻きにして酢醤油漬けにしたもの。漬けてある酢の具合が良いから、巻いてある桂むきもうまいんだな。
わさびの根っこだけを巻いてあるので、食べると鼻の奥に鮮烈な辛味が襲って来る。しかし山葵の辛味は突き抜けてしまう辛味なので、鼻腔の奥にパンチを食らった後には快感が残る。
こりゃ病みつきになりますね。
高橋わさび園のHPによれば、『季節によって山葵の辛味も変化するので、いつも同じ味になるとは限らない』そうだ。そりゃ、そうだよね。自然の作物とはそう言うものなのだ。いつも工場で作られた同じ味のものばかり食べていると、そんなことも忘れてしまいがちになる。季節によって味が変化することについて、『品質管理が行き届いていない』などと馬鹿な事を言ってはいけないのだ。
それも楽しみの一つなのだ。
ワインだって年によって葡萄の作柄が違い、ボルドーではブレンドの比率も変わる。マルゴーはマルゴーの、ラトゥールはラトゥールの特徴はあるけれど、毎年同じ味ではない。毎年味が違う。シャトー・マルゴーがプロデュースする、ボルドー地区のワインということだ。そして前年とは違う味のワインを、その年の特徴を出したワインとして楽しむものだ。
カクテルだってそうだ。同じレシピでも作り手が違えば別物だし、同じ人が作っても日によって微妙に味が異なる。基本的に違いはないはずなのに。
信頼を寄せているバーテンダーのものならば、『今日のマティーニはうまくない』などと言わずに、その日のマティーニを楽しむ余裕が欲しいものだ。
ついつい『この前のほうが美味しかった』なんて、無粋なことを言ってしまうんですけどね。(^^)
山葵漬けをツマミに馬鹿話をしながら頭の片隅でこんなことを想うのは、オヤジになってきたということなんでしょうねぇ。
高橋わさび園だけが本物を作っているわけではない。全国にたくさんの良心的な生産者がいるでしょう。今回はたまたま縁があって、高橋わさび園の商品を知ることになった。
本物を地道に作り続けている生産者の方々、これからも頑張ってください。微力ながら応援いたします。

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