先日友人から誘われて食べた豆元の豆腐をやっと買ってきました。

既に日も暮れてしまったので、やっているかどうか不安。
自転車飛ばして島忠から夢うさぎ。
その先の角を曲がると、灯りが点いてました。
店の中は外から丸見えです。
店の奥で店主と思しき人が何か作業をしている。店頭には誰もいない。
ただ豆腐を売っている店なので、何の装飾もありません。最近の店先は、何を売っているにしろ、小奇麗な店が多い。
なのでガレージに商品を並べたようなこの店のまえで、不思議な感覚に捕らわれてしまいました。
扉を引いて中に入ると、奥で作業をしていたご主人が出てきました。
小柄で真面目そうなご主人は、普通のおじさんといった感じ。接客業などという言葉とは程遠い印象です。
でも豆腐について聞いてみると、初めは言葉少なでしたが、とつとつとですが一生懸命説明してくれます。
豆腐屋の豆腐というレポートを書いた時に気になっていた、おぼろ豆腐と寄せ豆腐の違いについて聞いてみました。
『ニガリの違いで、硬さの異なる作り方をしている』とのことでした。
初めは『木綿と絹の違い』という言葉だけだった。
おぼろ豆腐と寄せ豆腐が同じ物だと思っていた私は、確かに木綿と絹の違いのような印象をもった。レポ−トに書いたとおりです。
でも『木綿豆腐と絹豆腐の違い』と言うのは、非常に不思議な話なんです。
木綿豆腐は、まず絹豆腐の元を作ってから水切りをして、硬さのでたものを箱に詰めて重石を乗せて成型して作るものです。
それに対しておぼろ豆腐とか寄せ豆腐と言われる物は、呉汁と呼ばれる豆乳に凝固剤を加えて固まったものをそのまま商品にしたもの。つまり水切りや成型をする前の段階の豆腐です。絹豆腐になる前段階の豆腐と言い換えることもできる。そんな豆腐ですから木綿のように水抜きするはずがない。
食感は確かに木綿と絹の違いなんですが、作り方からいうと木綿と絹の違いになるはずがないんです。
『と言うことは、おぼろ豆腐って水抜きするんですか?』
素直に聞いちゃいました。だって重石をかけて水を抜いたらあんなにフルフルになるはずがないもの。当然の如く、水切りしたものではないという。
『じゃぁ、豆乳の濃さを変えるの?』
私は好奇心でいっぱい。こういう会話をしていると、店の人と自分の相性と言うものが良く分かる。
正直な話、変な客ですよね。商品の特徴を聞いているんじゃなくて、作り方を聞いているんですから。でも知りたいんですよ。
どんな作り方をしていようが、作り手としては寄せ豆腐に『木綿と絹の違い』を出そうとしているのだから、おぼろ豆腐と寄せ豆腐の違いは『木綿と絹の違い』と説明すればいい。食べる側としてもその説明で事足りる。
作り方なんか説明する必要もない。
お店でいろんな事を聞くと、そういう態度を取られることもあります。それはそれで仕方がないよな、とも思う。
でも一生懸命食べ物を作っている人って、聞かれると嬉しそうに答えてくれる人が多いのも事実。上野広小路の
福助のお母さんや
木香の店主みたいに。
そこでいろんな話をしているうちに、もうその店の贔屓になっちゃうことがある。やはり一生懸命作っている人のものが食べたいから。一生懸命に、真面目に作っているのは何もその店だけじゃないのは分かっています。これはもう相性なんですね。
豆元のご主人は、不躾な私の質問に対していろいろと答えてくれました。
客に媚びる風もなく、自慢することもなく、それでいて嬉しそうに。
最後に分かったのは『ニガリを変える』ということ。
豆元の豆腐は佐賀産の大豆に天然海水ニガリを加えて作られています。
天然ニガリとは海水から塩を取り出す時にできる液体。昔から豆腐を作るときの凝固剤として利用されています。
昔から利用されてはいますが、扱いが非常に難しい。呉汁と呼ばれる豆乳の質や温度に非常に敏感に反応する。そして反応速度がすこぶる速い。
その日の豆乳の質によってニガリを加えるタイミングや豆乳の温度を変えないといけない。そして反応速度が速いということは一発勝負のような作り方にならざるを得ない。
木綿豆腐は水切りして重石で固めるので、多少の難があっても出来上がる。しかしニガリを加えて凝固し始めた呉汁をそのまま固める絹豆腐を作るのには、非常に高度な職人技が必要となります。
大量生産も出来ない。
スーパーなどで売っている豆腐はほとんどが別の凝固剤を使います。
昭和になって開発された凝固剤は、それはそれで利点があります。グルコノデルタラクトンという凝固剤が開発されてから、豆腐の大量生産は可能になった。反応速度が遅くて非常にユックリと凝固するから、失敗がない。ニガリは豆乳に垂らすと、垂らした回りがすぐに固まってしまうのだそうです。だから絹豆腐を作るのは難しい。でもグルコノデルタラクトンならば、職人さんでなくとも、パートのおばちゃんでも豆腐が作れる。
さらにグルコノデルタラクトンはグルコン酸に変わる。グルコン酸は体内でビフィズス菌などの善玉菌を増やす働きをする。身体にも良い。
良いことずくめのようですが、それは作る側にとって手間が省けるということが主になっている。
食べる側からすれば、多少の値段の違いならば美味しい方が良い。
グルコノデルタラクトンなどを使った豆腐は均質で滑らかな美味しさの豆腐が出来ます。
しかし天然ニガリを使った豆腐にはかなわない。
ある老舗の豆腐屋のオヤジは、『凝固剤を使って最高級の国産大豆を固めたものより、天然ニガリで輸入大豆を固めた方が旨い』なんて暴論を唱えていたのを思い出しました。
これは天然ニガリを使う場合は豆乳自体を濃くすると言うこともあるのでしょうし、ニガリに含まれる豊富なミネラルのせいもあるのでしょう。
豆乳を固めるという作用だけじゃなく、食べる側にとって大切な、味や風味を膨らませる働きをするのがニガリと言う訳なんでしょうね。

食べてみれば豆元の豆腐は、甘味とコクがある。
豆の味がする豆腐です。
普通の寄せ豆腐も美味しいのですが、青大豆で作られた寄せ豆腐を食べると違いがはっきりします。
普通の寄せ豆腐よりもさらに肌理の細かい仕上がりです。クリーミーと言っても良いくらいの寄せ豆腐。やや青みがかった色をしています。
水に晒していないので、青大豆の豆乳の旨味を残すことなく味わうことができる。
口にすると甘味とコクがあって美味しいのですが、食べた後に青大豆の余韻が残ります。口の中に香が残る。この余韻が豆好きにはたまらないのですが、豆のクセが不得手な人にはお勧めしません。
そうでなければ是非試してみてください。
『さしみゆば』も試しましたが、こちらは意見が分かれそう。
湯葉を巻いた物ですが、かなりしっかりとした湯葉です。豆の甘味は凄いですが、もう少しふんわりとした湯葉が好きな人の方が多いのではないでしょうか。
いわゆる京都の湯葉とは全く違います。
『すくいゆば』と言うのもあったので、今度食べてみようと思います。
豆腐作りの大雑把な知識はありましたが、『おぉ、そういうことでしたか』なんて事がたくさんあった。いろいろな話を聞くのは楽しい。
なんの装飾もない店ですが、実直な人柄が伺えるご主人と旨い豆腐に出会えます。
街の豆腐屋さんですから、それが一番ですよね。

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