豊川の田舎蕎麦を食べながら思い出した蕎麦屋があった。
子供の頃、祭りに行った時に食べさせてもらった太目の蕎麦。
鷲神社(おおとりじんじゃ)の近くにある、角萬という店。
住所は
台東区竜泉3−13−6。
鷲神社を知ってますか?
毎年11月の酉の日に例祭があり、『おとりさま』と呼ばれています。商売繁盛や家内安全を祈願した、いろいろな飾り物のついた大きな熊手を店内に掲げている店がありますよね。あの熊では鷲神社の例祭『おとりさま』で買い求める物です。
あの熊手は『かっこめ』と言うんですよ。
幸せを熊手で自分のもとに掻き込む。お金を掻き込む。だから『かっこめ』。
11月の酉の日になると午前0時の一番太鼓を合図に夜中の12時まで24時間例祭が執り行われます。熊手を売る店が軒を並べ、物凄い人出です。それぞれの店には固定客がついていて、毎年同じ店で熊手を買うお客さんがいます。
いつも目立つのはサンリオの熊手。店の場所は年ごとに割り振られるので同じではありませんが、その店にはサンリオから頼まれた、大きなキティちゃんが中央に鎮座する馬鹿でかい熊手が飾ってあります。

この鷲神社のすぐ近くに角萬はあります。
この店はいつ頃からあるのだろう。聞いたことがないので分からないが、向島にも店がある。
この店の蕎麦は太いので有名ですが、太いと言うよりは『きしめん』みたいな蕎麦なんです。だからツユにちょこんと漬けて手繰るように啜り込むなんてことはできない。蕎麦自体も生粉打ちではない。
でも昔から有名で、吉原界隈の蕎麦と言えば『角萬』でした。
この店を有名にしているのが『ひやにく』。
冷やし肉南蛮の略称なのですが、お客さんはみんな『ひやにく』と呼んでいる。
このひやにくは独特の蕎麦で、きしめんのように太い蕎麦に、冷やした肉南蛮のツユがかけてある。蕎麦の上には煮込んだ肉とネギがこれでもかとばかりに乗っかって、並を頼んでもすこぶる量が多い。
もしも大盛が欲しければ『ひやだい』と叫べばすんなり出てきます。
割り箸と比べると蕎麦の太さが分かるでしょう。
正直なところ、蕎麦自体はたいして評価できる所がない。蕎麦の香はするけれど薫り高いことなんてないし、喉越しもよくない。切り方も長さも不揃いだったりする。半分も食べるとアゴが疲れてくる。
だけど、旨いんですよ。
ひやにくのツユはかなりコクがあって甘めです。
豚肉を煮込んでいるので豚の脂身のコクが加わっているし、肉に味を染み込ませるために濃い目の味付けになっている。この濃い味が麺と合うんです。このツユを美味しく頂く為にあの太い蕎麦がある、という感じ。
せいろを食べるならば細くて薫り高い蕎麦が良い。でも餡かけならば、細い蕎麦だと餡を引上げ過ぎるし延びるのも早いので具合が宜しくない。田舎蕎麦のようにシッカリと打った蕎麦のほうが断然美味しく食べられる。
角萬のひやにくは、鴨せいろのようにツユと蕎麦が別盛りになっているのではなく、ツユが蕎麦にぶっ掛けてあるところがミソ。だからあの太い蕎麦が活きてくる。
私は並でお腹一杯になってしまいます。
店に来るお客さんのほとんどは『ひやだい』を頼んでる。
でも店内の品書きにはありません。裏メニューのような物なのに、ほとんどの客がこれを頼むと言う不思議な店。
この蕎麦は決して藪蕎麦のような趣味蕎麦ではありません。労働者の蕎麦。お腹一杯にするための蕎麦。食事としての蕎麦。
何のためらいもなく『さぁ、たくさん食ってくれ』とばかりに出てくる。
浅草からも離れているので、観光客はいない。お客さんのほとんどは地元の人。
下町の庶民が育てた蕎麦です。
一葉記念館にでも行くことがあれば、寄ってみて下さい。
旨いですから。

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