西葛西には『六本木で有名な』という店が2軒ある。
『マリン亭』と『シシリア』。
期せずして両方ともピザとパスタが売り。
マリン亭はもとは六本木にあったらしい。入口のたいまつが印象的。店内にはジェットスキーが飾られ、いかにも六本木で若者がたむろしていそうな雰囲気だ。大きな画面ではスポーツ中継などを流している。
パスタとピザは悪くないが、飲み物も食べ物も総じてやや高めの価格設定。
早い時間にしか伺ったことがないが、いつも空いている。でも姉妹店を出すほどだからシッカリと商売になっているのだろう。深夜になると混むんだろうか。
シシリアは今も六本木にある老舗の暖簾分け。場所は
この辺。
六本木の店は40年程前に開店した、今で言うピッツェリア。当時はピッツァとは言わずピッザパイと言っていたらしい。シシリアでは今もピッザパイと呼ぶ。
その店の暖簾分けなので、やはりピッツァとパスタがメインになる。こちらの店内はマリン亭とは打って変わって家庭的な雰囲気。
初めてシシリアに行ったのは随分と前になるが、そのときは全く印象に残らなかった。『六本木で有名な』というキャッチコピーが虚しく見えたのを覚えている。もともと生地の薄いピッツァが好きではなかったからだろう。それとも、
キヨミさんのブログにあるのだが、もしかしたらマスターがいなかったことがその理由だったのだろうか。何故週末に、こうも混んでいるのか理解できなかった。
それから足が遠のき伺うことがなかったのだが、何かの時に再訪すると印象は違った。地元に根付いたアットホームな店として非常に印象が良かったのだ。この違いが何のせいなのか未だに分からない。

この日はランチで伺いました。
いつも通りというか、時間は遅めで2時過ぎ。私たちの他には1組の家族連れ。
オーダーはミックスピッザパイ、ラザーニャ、バジリコスパゲッティ。
ランチメニューはあるのですが、それ以外のものも頼めます。看板のピッザパイはランチメニューにないので別オーダーしました。
この店の売りでもあるピッザパイは、四角い形をしていて生地も紙のように薄い。隅が折れ曲がった生地の上には、トロトロのチーズとトマトソースが一体となって溢れんばかりに乗っている。食べようとして一切れ持ち上げると流れ出すほど。
生地の薄いピッツァは好きではないのだが、これはこれでサクサクした生地の食感とトロトロチーズが美味しい。


パスタは乾麺だが、ピッザパイとラザーニャの生地はマスターの手打ち。
グラタンメニューの中にあるラザーニャは、ランチメニューとしてセットでも頼むことができる。800円のラザーニャが、パンまたはミニサラダ付きで650円とお得です。
たっぷりのチーズとトマトソースの中に、これまた沢山のラザーニャが入っていてボリュームがあります。熱々のラザーニャを皿に取り分けると、テーブルが香りに包まれる。トマトと香ばしく焼けたチーズの匂いは食欲をそそります。
中にはマッシュルーム、挽肉なども入っていますが、何と言ってもメインはラザーニャとソース。私はこの店のラザーニャの仕上がり具合が好き。硬くも柔らかくもなく、グラタン皿の中の重なり具合、ソースとの絡みがいい。
絶品だ逸品だと言う美味しさとは異なる、安心できる心休まる美味しさがあるんですよ。

ピッザパイとラザーニャは味が被るので、バジリコスパゲッティーを頼みました。
パスタの量はそこそこあります。オリーブオイルにニンニクの香りを移したアーリオ・オーリオなのだが、バジルをタップリと絡めてあって、上にアンチョビが乗っている。ニンニク、バジルの香りと塩味で食べさせるシンプルなパスタ。
この手のシンプルなパスタは、香りの良いオリーブオイルとの絡み具合が命。皿に盛り上がるように盛り付けてあるせいか、ソースの乳化が足らないのか、ややシットリとした感じがなくなっていたのは残念。
スパゲッティの食感は少し変わってる。モチモチした感じでもなければ、プツンと切れるタイプでもない。何故だか懐かしい感じのする麺です。
今でこそイタリア料理店もリストランテからトラットリア、ピッツェリアと区分けされるようになったが、昔はそうじゃなかった。『イタリア料理=スパゲティ+マカロニ』でフェデリーニもリングィーネもペンネもなかった。
カラマリも、仔牛のカツレツも一般的ではなかった。
スパゲッティと言えばナポリタンとミートソースだった。
ピッツァに至ってはアメリカ占領軍の食い物だった。(そこまで古い話じゃないか・・・)
そんな頃の、イタリア料理創生期の懐かしくも嬉しい味を残してくれている店。
ピッツァやパスタはイタリア料理の入口に過ぎない。
ピッツァにしたって、私は生地を食べるものだと思っている。だからミラノの薄い生地のものより、ナポリなど南部地方のモチッとした生地の方が好きだ。イタリア料理が料理としての真価を発揮するのは肉料理や魚料理だと確かに思う。
でもそんなことを思うようになったのは、実は最近のことですよね。大抵の日本人は、ついこの前までアクアパッツアなんていう言葉すら聞いたことがなかったはず。広まったのはこの7〜8年のことだ。
日本人がイタリア料理に親しみを覚えたのは、スパゲッティに拠るところが大きい。日本人は麺好きだもの。
シシリアには肉料理もあるが、もともとがピッザパイとスパゲッティの店だったのだからそれを楽しみに行けばいい。
オーナー夫妻の温かい人柄が出ている家庭的な雰囲気の店で、本来ならば前菜であるピッツァやパスタを、メインとして楽しんで食べる。麺好きの日本人とイタリア料理の最初の接点を作った店の一つなのだから、そうして楽しむことがオーナーの意向にも沿うものだと思っています。
私の場合はラザーニャだけどね。(^^)
ビーフシチュー、ロールキャベツ、クリームコロッケなどの洋食系料理の不毛地帯、西葛西においては、シシリアはグラタンを出してくれる非常に貴重な店でもあります。

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