念願のカツカレーを食べてきました。
それもわざわざ町田まで出かけて。
この日は友人たちとカレー行脚でした。町田から国立に車を飛ばして、2軒のハシゴ。昼飯にカレーを2杯半食べてしまった。
町田に『リッチなカレー アサノ』という店がある。以前から大変有名な店だ。
年寄り2人でやっている、カウンター7席だけの店だと言う。
いろんな雑誌や有名放送作家、カレー専門家(?)によると日本一のカツカレーを出すらしい。
もうそれだけで胡散臭いのだけれど、物は試し、話のネタとして一度行ってみようと言うことになった。
場所は原町田の商店街の中の、仲見世飲食街と言うところにある。住所を調べてみたものの、地図を見ても良く分からない。とにかく近くに車を止めて、住所を頼りに辺りを散策。

付近を歩いても分からないはずですよ。
飲食街の入口って、こんなんですよ。せめて4m道路ぐらいあるのかと思ってた。店と店の間にポッカリと異次元への入口のように空間が開いているんです。入口脇には『カレー』と書いた黄色い看板。
奥に入ってみると、ありました。長屋のように店が並ぶ中に、間口1間ほどの小さな店。
こっ、こんな店〜〜?!
こんな場所のこんな店が、なんで全国区で超有名なんだろ?
本当にここに日本一のカツカレーがあるのか?
久しぶりに不安だらけで、店の戸を開けました。
正直に言うと、有名店なので昼時には行列覚悟と言う情報があったので、かなり早く出たんですよ。11時は店に着くぐらいの勢いで車を飛ばして町田までやって来た。ところが、12時前なのに店の中には客は1人。
まぁ、良かったんですけどね。全部で7席しかないから、我々4人が入ると残りの席は2席だけですから。
そして外見から察する通り、店の中は狭く、カウンターの正面にはスパイス缶や食器が所狭しと並んでいる。場末のドブ板横丁で、おばちゃんが1人でやっている小料理屋みたいな感じ。
カウンターの中には、お歳を召したおじさんとおばさんが2人。店に入り、とりあえず無言で席につく4人。
するとこちらをジ〜ッと見たおじさんが、『カツカレーだね』と一言。
4人同時に『ハイ』と返事をしてしまった。
『おじさんには、分かるんだよ。入ってくるときの感じで』なんて言う。
『ウチはカツカレーのお客さんばっかりだからですよ。ははは〜』と笑うおばさんの明るさが、微妙な雰囲気を和らげてくれた。
できるものはカツカレー、ポークカレー、チキンカレー。
その横に自家製梅ジュースなんて書いてある。
このジュースを頼んでみたのだが、アッサリしていてなかなか美味しい。思わずお代りを頼む友人を見て嬉しかったのか、お二人は徐々に饒舌になっていく。
出てきたカツカレーはサラサラカレーだった。
このカツを揚げるのに小さな鍋で揚げるものだから、一度に4人分の注文は捌けない。
『いっぺんに出せなくてごめんね』と言いながら最初の2皿を出してくれたおじさんの手はプルプル震え気味。
『ウチのカレーはサラサラだから、こぼさないように気をつけて下さいよ』って、おじさん自身が一番気をつけなきゃダメだよ〜。
カレー好きのシンパシーを感じるのか、いろんな話をしてくれた。
豚は高座豚を使っている。私は知らなかったのだが、高座豚というのは神奈川名産の豚で、薩摩の黒豚と並ぶ高級ブランド豚だそうだ。絶滅に近い状態だったのを、神奈川の8件の農家が種族保存もかねて最高の状態で飼育していると言う。
その高座豚を薄切りでカツに揚げる。
ご飯はハカリで計って、キッチリと250gが1人前。お皿の端にこんもりと盛り上げ、そこに揚げ立てのカツを切って寄り掛からせるように乗せる。
ここにサラサラカレーをかけるのだが、このカレーがなかなかスパイシーな良い香りを漂わせる。そして絹さやとニンジン、ジャガイモを並べて出来上がり。
トンカツとサラサラカレーが合うのかどうか不安だった。
でも、食べて納得。見事にマッチしてます。
一口目に微妙な苦味を感じたのだけれど、それはスパイス由来の苦味だろう。その後に、若干の酸味や旨味とともに口一杯に広がるスパイスの香り。少し塩気が強いかも知れない。
トンカツもカラリと揚がっていて、これだけでご飯を食べろと言われると少し物足りない厚さだが、カレーの具としては丁度良い加減。
ポークカレーは豚肉の旨味がカレーに溶け出すと同時に、豚肉にブイヨンの旨味が染み込んでおいしい物だが、カツカレーはまた別の美味しさがある。
それは豚肉の美味しさがストレートに味わえるということ。
そしてカツのコロモがカレーを適度に吸って、コクのある美味しいソースと化すこと。
人それぞれにカツの厚みとコロモの揚げ具合の黄金比率を見つけ出すと思うのだが、アサノのカレーにはこのトンカツが合っているんですね。
このカレーを作るのには2つの偶然が重なっていて、更に試行錯誤を繰り返して出来上がったらしい。何よりも驚くのが、カレー好きと言ってもこのお歳の方が、サラサラカレーを志向しているということだ。
昭和初期の生まれの方が海軍カレーのようにドロリとしたカレーが好きだというのなら分かるが、最近流行のインド風サラサラカレーを追求していたという事実に驚く。
もっと旨いトンカツを揚げる店は沢山あるだろう。もっと美味しいカレールーを出す店もあると思う。でも組み合わさるとどうだろうか。
新橋の
燕楽のトンカツは美味しいと思うが、カツカレーはアサノには敵わない。神保町の
カーマのカレーは絶品だと思うが、カツを具にするなんて考えたくない。(カーマの場合チキンカレーですけどね)
確かに美味しいカツカレーでした。
国立へ移動する車中での会話。
『旨いのは旨いが、でも日本一と言うのは言い過ぎじゃないか?』
『そうだよな。ちょっと物足りなさも感じる』
『あの苦味はスパイスだけじゃないと思うな。焙煎する時、少し焦がしているんじゃないか?』
『それより少し塩がきつくない?』
などなど、旨いのは旨いがそんなに言うほどでもないな、と言う事になった。
ところが、時間が経つと『また行ってみたいかも』と言い出し始めた。
『あの小さな店で、おじさんとおばさん2人でやっている、手作りカツカレー』と言うコンセプトに惹き付けられている自分に気が付く。
つまり最初はあまりにも大きな期待を膨らませすぎていた、と言うことだったんでしょうね。
アサノのカツカレーは、店も、おじさんとおばさんも、もちろんカツカレーそのものも、全てが揃って初めて『リッチなカレー アサノのカツカレー』なのだ。
西葛西から電車を使うと1時間以上かかってしまうが、私は間違いなく再訪すると思う。
だって、カツカレーはトロミがあった方が旨いと思っていた私の考え方を変えさせたのだから。そして、間違いなく美味しいのだから。
今度行ったらおばさん手作りの漬物は少し控えよう。漬物が美味しくてホイホイ食べていると、カレーの味が分かんなくなっちゃうんだよね。

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