明けましておめでとうございます。
年末年始は外出が多かった。
築地方面が多かったもので、西葛西のレポートが全くありません。
そんでもってまたまた銀座の店ですから、西葛西とは全く関係ない店ばかりだとお叱りを受けそうですね。
それでもちょっとお付き合いを。
私はフグをあまり食べません。
フグが嫌いなんじゃありませんよ。ポン酢が苦手なんです。
特に日本酒をしこたま飲みながらポン酢で鍋を頂くと、どう言う訳か酔いが早いし気持ちが悪い。しかし先日、そんなこととは無縁な旨いフグを食べたので記録の為に残しておきます。
場所は
中央区銀座5−9−18。
銀座4丁目の日産ショールームの裏手、
銀座ぶどうの木の店の向かいに三原小路という路地があります。この辺にはなかなか渋い店が軒を連ねていて、このあたりから歌舞伎座近辺までは旨い店が多い。しかも観光客のような人はほとんどいないので歩きやすい。
と思っていたら、チアーズ銀座なんて言う商業ビルが出来てしまった。これで人の流れも、また変わるのだろう。風情のある石畳の路地が好きだったんだけどな。
その三原小路に治郎長と言う店がある。
先代が店を構えてから56年。冬には下関直送の天然トラフグを出している。ポン酢のおかげでフグを食べることの少ない私にとっては、この店はフグの店ではなくて、春の明石鯛や夏の鮑の店だった。良い材料しか使わないから値段も高く、おいそれと行ける店ではない。それでも冬場のトラフグに比べれば他の季節の料理は安い。
それでいて最高の物が食べられた。
店の造りは、しもた屋風の古い店で、決して内装に凝った店や料亭風の大店ではない。でも古い店作りが石畳によく馴染んでいる。
店に入ると、1階はいかにも古びた木のテーブルが2つとカウンター。2階に上がると座敷がある。座敷は襖で仕切られているだけなので密談はできない。だから政治家は晩飯を楽しみたい時にしか来られない。


この店のフグ刺しは厚い。
裏が透けるように薄く引いたフグ刺しならば有田焼の器に並べてみて楽しむと言う手もあるのだが、厚めに引いたこの店のフグ刺しはそうはいかない。そのかわり、何枚もまとめて食べなくてもフグの旨味が十分堪能できる。実質本位と言うところ。
白子はやや小さめだったが、それでも絡みつくような濃厚な旨さには唸らされる。タラの白子も美味しいが、やはりフグの白子は別格。この白子を楽しめるように、毒をもった部位を避けながら捌き方を完成させた先人には頭が下がる。食いしん坊の執念ですね。


私はヒレ酒と言うのがまた好きではない。たいていの所では香ばしいのを通り越して焦げ臭かったりするからだ。だからたまにフグを頼んでもヒレ酒は飲まないことが多い。
と言いたい所ですが、この白子の旨さではヒレ酒を飲まない訳にはいかない。
並みの酒では太刀打ちできない。
恐る恐る頼んだヒレ酒は焦げ臭いことなど全くなかった。
丁度酔い炙り加減で、ちんちんに熱くした酒からむせるようなアルコールの匂いが飛んだ代わりに、程よい香ばしさを加えている。しかも旨味も加えられている。
そのことを聞いてみると、ヒレは天日で数日かけて干すのだと言う。その干し加減にはかなり気を使うらしい。ヒレを天日で干すのはそれなりの店では当り前なのだが、店によって加減が違う。その天日干しのヒレを備長炭で丁度良い加減に炙る。
『美味しいヒレでしょう。手間だけは掛けさせて頂いてます』と控え目に言う店主の顔は、それでも自信が現れていた。
そうこうしているうちに、アラが出てきた。
話もそこそこに皆、しゃぶりつく。もう話している暇なんてありません。
しかも嬉しいことに、この店のポン酢は美味しい。腹が一杯になるぐらい食べても、嫌な酸味が胃から上がってくるような感覚にはならない。ポン酢嫌いの私がおいしいと思うのだから、普通の人からすれば絶品なのではないだろうか。
普段は余り気乗りしないフグチリだが、この日は堪能できました。
もっと食べたいと思った。
最後の雑炊です。
この雑炊が息を呑むほど旨かった。
既にフグはないのに中にフグが入っていると思わせる、出汁の具合が素晴らしい。米も旨いが、火加減も上手い。
フグ刺しも、白子も、アラも、それぞれにフグの旨さを楽しむことが出来たのだけれど、全てがこの雑炊に辿り着くまでの前奏だったのだと思わせる。
それほどに美味しい雑炊でした。
いやいや、久しぶりにフグを楽しむことができました。
もちろん安くなんかありません。ですが『高いんだから美味しくて当然さ』なんて思わせるような、浅薄な旨さではなかった。
贅沢をさせて頂きました。

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